・1-2 第17話 「殺陣を極めたおっさん、異世界に行く:2」
喜びにブルブルと身体を震わせている源九郎のことを、神はしばらくの間、黙って見つめていた。
『衣装の方は、いかがでしょうか? 』
やがて源九郎の興奮が少しおさまってきて話ができる状態になると、神は質問を再開する。
『源九郎、あなたの記憶を元に、こちらの世界に存在する衣装で、できるかぎり再現してみたのですが……』
「ああ、神様!
なんの問題もないぜ! 」
源九郎は神にそう答えると、軽く屈伸しながら手を内側から外側に広げるような動きを何度かくり返す。
「サイズも、着つけも、ばっちりだ!
……というか、神様。
この衣装があるっていうことは、この異世界には、日本みたいな国もあるんですか!?
というか、ここって、もしかして異世界の日本!? 」
『いえ……、源九郎、あなたが暮らしていた日本に当たる国は存在しておりますが、今あなたがいるのは、その場所ではありません』
衣装があるということは、日本のような国があり、自分はそこに転生したのか。
そう考えた源九郎が、まるで少年に戻ったみたいに瞳を輝かせながらたずねると、神は少しだけ申し訳なさそうな声で答えた。
『この辺りは、あなたの元々いた世界で言えば、ヨーロッパに当たる地域となります』
「なるほど、ヨーロッパ……」
源九郎はうなずきながら、確か、[ナーロッパ]という言葉があったことを思い出す。
おそらくはそんな、源九郎が賢二として生きていた世界でヨーロッパと呼ばれている世界に類似した場所に転生したのだろう。
「……え?
なんで、ヨーロッパ? 」
しかし源九郎は、そのちぐはぐさに気がついて首をかしげてしまう。
田中 賢二が願ったのは、立花 源九郎として、[サムライ]として転生することだった。
そして、実際にサムライとして転生するのであれば、当然、その転生先の舞台は、日本だろうと思っていたのだ。
『そこは……、その……。
神にも、都合というものがございまして……』
神であるだけに源九郎の疑問が理解できるのか、神は申し訳なさそうな様子で説明する。
『元々は、
そのために、どんな身体に転生するのか、どんな場所に転生するのか、いろいろと準備をしていたのです。
肉体は、あなたの要望に沿って再構築することができました。
年齢や外見が元々の予定と異なっても、同じ人間なのですから、我が力を用いれば造作もないことです。
しかしながら、さすがに、転生する場所までは変更することができませんでした。
それをしてしまうと、
その神の言葉に、源九郎は引っかかりを覚える。
「シナリオ?
……そういや、転生させてもらう前もそんなこと言っていたけど……、神様? この転生って、なにか、目的なり、筋書があるのか? 」
『はい、そうなのです。……
「それは、なんだ?
魔王を倒せ、とかか? 」
『そうではありません。
この世界には、あなたのいた世界で言うところの魔法が存在し、また、あなたのいた世界には存在しなかったような、凶暴なモンスターも存在しています。
ですが、魔王はいません。
その点は、ご安心ください』
「そっか……。
ま、魔王退治って言えば、サムライじゃなくって、勇者の仕事だしな」
勇者として選ばれ、異世界に転生するというのはある意味で鉄板のストーリーで、源九郎もゲームや小説などで親しみのあるものだった。
源九郎はカラっとした明るい笑顔を見せながら肩をすくめてみせていた。
勇者になって魔王と戦うということもやってみたくはあったが、立花 源九郎になりたいという願いの方がはるかに強かったからだ。
「それで、神様。
俺にやらせたいことっていうのは、なんなんだ?
せっかく転生させてもらったんだし、できることならやるぞ? 」
『そのお心は、ありがたいのですが……、今、
「なんでだよ? そんな、隠さないで、教えてくれよ~」
もったいぶっているわけではなく、別の事情がありそうだったが、源九郎は神に媚びるような声で願った。
これから異世界で冒険を始めるにしても、この世界のことをなにも知らず、慣れていない内は、なんらかの目標があった方が行動しやすいと思ったからだ。
すると神は、クスリ、と小さく笑った。
『じきに、わかりますよ。
今はとにかく、あなたの好きなように行動してください。
ひとまずは、この世界を知って、楽しんでいただきたいのです。
そうしているうちに、きっと、あなたがなにをするべきなのかは明らかなものとなっていくことでしょう』
(気になる……)
いったい、神は自分になにをさせようと思って異世界に転生させたのか。
その意図は気になることではあったが、源九郎はひとまず、それ以上は考えないことにした。
神が言わないというのならそこにはきっと意味があるのだろうし、特に意識せずとも、じきにわかるというのだ。
それならば今はとにかく、転生したという幸運を素直に喜んでおく方がいいと、源九郎はそう思っていた。
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