最終話

 「ちょっと!いい加減にしてよ!」


 怒りの声をクトーに向けたのは、そろそろ成人を迎えようと言う年齢の美しい娘。


 「何人作れば気が済むわけ!?」


 その腕には卵から孵ったばかりの鱗に覆われた子猫のような小さな命が大切そうに抱えられている。


 「あぁ?そりゃ、デキる限りいつまでも?」

 「……クトー……」


 夫の言葉に、妻がため息を漏らす。しかし、夫の腕の中にしっかり収まっている為、娘的には母も怒りの対象だった。


 「デキる限りってね!もう十三人!十三人目なの!!」


 初めは増えていく弟妹に、大変だと思いつつも楽しい日々だった。しかし、五人を過ぎ、八人を過ぎて毎年一人ずつポコポコと増えていく弟妹の世話に、娘はてんてこ舞いだ。

 すぐ下の弟は、良く食べる家族の為に殆どの時間を狩りに費やしているし、その下の妹は将来学者になるという夢を持ちながらも、家事を手伝ってくれている。

 父は母が妊娠すると何もさせたがらないので、いつも上の子供たちが家の一切合財を管理しているのだ。

 そろそろ適齢期を迎える訳でもあるし、ひそかに不岩に恋に近しい気持ちを抱いてもいる。昔、不岩は母にホの字だったと聞いてから、母似の容姿であることに影でガッツポーズしたのだ。

 しかし、シャラントで暮らす不岩とは年に数度、彼が遊びに来たときぐらいしか会えない。待っていても何も進展しないと思うからこそ、自分から逢いに行きたいのに、手のかかる幼子が増える一方で、家を出ることが出来ない。

 ここで打ち止めにして欲しいと切実に思っている。

 そんな娘に、母が自身のお腹を労わるように撫で、そうしてから改めて娘を見つめる。


 「まさか…まさか、ママ……」

 「あのね、ナツキ……、十四人目が……」


 母の申し訳なさそうな申告に、娘の絶叫が木霊した。




 これは、

 ほんの少しだけ、私たちの暮らす世界とは違う世界の

 小さな国の燃え上がるような愛の物語?



 おしまい。










 一年後、


 「あのね…十五人目……」


 その言葉に、長女の発狂に似た声が雪山に轟いたのは言うまでも無い。

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