死神GAME

@kain_aberu

序章:妹が消えた日

第1話

午後六時。

 大通りの喧噪も、眩いネオンの輝きも、この通りまでは入って来ない。

 大通りから離れている、と言っても、たった一本だというのに、辺りは薄暗く、灯りと言えば近くにある家からの僅かな灯りと、ポツポツとまばらに建っている街灯だけだ。

 冷たい風が吹き抜ける。

「……っ」

 水城煌(みずしろあきら)は、冷たい風に身を震わせる。

 それでも煌は、足を止める事無く、堂々と道路の真ん中を歩いていた。辺りは相変わらず暗いけれど、この路地はもう何度も通っているから迷う事も無いし、こうして真ん中を歩いていたとしても、一台の車も通らない事はもう知っている。

 そうして歩き続ける事五分。

 煌は、そこで足を止める。

 通りはここで終わり、代わりに煌の目の前に現れたのは、薄汚れたアパートだ。

 まるで人目に付くことを避けるみたいにひっそりと佇む、古いアパート、茶色に変色した外壁は、既に塗装まで剝がれてボロボロになっている、二階建てだが、二階部分へと上がる階段は、暗い中でも錆だらけなのがはっきりと解るくらいだ。

 部屋も狭く、中もすっかり汚れてしまっている。煌自身、住みたいとは思わない。

 だけど……

 自分の目的地は、間違い無くこのアパートだ。

 自宅、という訳じゃない。

 ここに……

 ここに、会わねばいけない人間がいるのだ。

 煌はゆっくりと歩き、二階部分へと通じる階段に足をかける。

 錆だらけの階段が、ぎし、と嫌な音をたてて軋んだ、いつか壊れないかと不安になるけれど、意外としっかりしているのか、何度歩いても壊れはしない。

 煌は顔を上げる。

 二階の一番奥、右側の隅にある部屋。

 何度か来ているけれど、既に誰も住んでいないらしいこのアパートの中で、ただ一カ所だけ、玄関の扉の横に設置された窓から、ぼんやりとした灯りが漏れている。

 そこが、煌の目的地だ。

 そして。

 そこに、煌が会うべき人間がいる。


 階段を上りきり、二階の通路を歩いて、ゆっくりと部屋のドアの前に立つ。

 手を伸ばして呼び鈴を押す。

 ピンポン、と、呼び鈴の音が、はっきりと中で響いたけれど、誰も出る様子が無い。

 煌は、コンコン、と扉をノックする。

 だけどやはり、中から誰かが出て来る気配は無い。

 それでも。

 中からはぼんやりとした灯りが漏れているし、人の気配も感じられる。

 中にいるはずだ。

 煌は、ドアノブに手をかける。

 鍵は、かかっていない。

 煌は、扉を開けた。


 扉を開けた途端に、埃っぽい空気が漂って来る。

 それに顔をしかめながらも、煌はじっと部屋の奥を見る。

 玄関を開けてすぐ、左側には申し訳程度のキッチンスペースがあり、右側にはトイレと風呂場がある様だが、風呂場の方は何日も使った形跡が無い。

 そして。

 その向こうにある六畳ほどの広さの和室。

 そこには、この古臭いアパートにはおよそ不釣り合いな最新型の大型テレビが置かれ、その前には、やはりこれもこの古いアパートに似合わない最新ゲーム機が置かれている。

 テレビの画面には、煌はプレイした事は無いが、国内最大のDL数を誇るオンラインゲームが映っている。

 その大きなテレビの前に、ちょこんと座っている少女。

 その少女こそが、煌が会いに来た人物だ。

 煌は三和土に靴を脱いで、ゆっくりと部屋の中に入る。

 足音も、ドアを開ける音も聞こえたと思うが、相手の少女はこちらを振り返りもしない。

 その理由は、和室に入ってすぐに解った。

 少女の耳には、ヘッドホンが付いている、煌には何も聞こえないけれど、きっとかなり大きな音なのだろう、だから聞こえないのだ。

 でも。

 煌は何も言わない、少女がゲームをプレイしているのを、黙って見ていた。

 大きなドラゴンの様な『敵』が出て来る。

 だが少女は動じた様子も無く、カチャカチャとボタンを操作し、自分のキャラクターを操作して、ドラゴンの弱点らしい場所を、手にした剣で的確に攻撃していく。

 そして。

 しばらくして……

 ドラゴンは、ずしん、と大きな音をたてて地面に倒れた。

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