最終話

 ディルークは、私の言葉を信じてはくれなかった。

 でも、撤去が終わったことを悟った町の人たちが私たちを囲んで、町人みんなにカッコイイ、イケメンだと騒がれて、ようやく納得した。

 あんなにかっこ良さについてレクチャーしたのに、彼は、素顔の自分が人間の美的感覚にぴったり合致することを理解してくれていなかったのだ。

 私を抱きしめたままのディルークは、しきりに「カッコイイか?お前の好みか?」と聞いてきた。正直、綺麗過ぎて気圧されるのだけれど、私はカッコイイと頷いた。

 それからと言うもの、ディルークはありのままの姿を取っている。さすがに、旅人がそのままのディルークを見ると驚くだろうからと、黒く長い爪はしまい、尻尾も隠している。耳は逆に生やしてるし、まぁ、半分変化している状態だろうか?でも、竜人の特徴である、長い首とか、浮き出た背骨なんかはそのまま。

 だけど、そんな部分は服を着ていれば隠れてしまうのよね。

 そう、だから彼女たちは、ディルークの竜人的な特徴をわかっていないのよ!



 この町にやっと慣れてきた駐在さんは、中々町の人々に好かれている。

 まぁ、元々優しいし、顔も良いとなれば当たり前だけど。


 「お帰りなさい」


 帰って来た私の旦那さまは、意気消沈といったてい


 「なぁに?どうしたの?」

 「いや、やはり、町にいる時は素顔を晒さぬ方がいいのではないかと思ってな……」


 本気で悩んでいるらしい。


 「見た目の威力って凄まじいわね?」

 「怒って……いないか?」

 「いーえ」


 もちろん、怒ってはいない。大切な旦那さまが町のみんなに好かれているのは素直に嬉しい。

 でも、小さな嫉妬をしてしまうのは仕方が無いと思う。


 「それで、これ、どうするの?」


 彼の腕には、うら若いお嬢さん方から無理やり渡されたであろう、お菓子の山。


 「ご近所の皆さんに貰って頂くしか……」


 最近、竜人らしい言葉遣いが徐々に取れてきている。


 「あら、可愛い娘さんたちの真心を無下にするつもり?」


 私の物言いに、はっと顔を上げる。


 「やはり、怒っていないかっ?」

 「いーえ、怒ってはいないわ」

 「『は』!?『は』と言うことは、違う気持ちはあるのだろう!?」

 「うふふ。さて、どんな気持ちがあるのかしら」

 「我には、シーラだけだ!シーラ以外を愛すなどありえんからな!?」


 慌てる可愛い旦那さま。


 「私だって、あなただけだわ。あなただけを、愛してる」

 「……シーラっ!!我が妻!!」


 腕に抱えていたお菓子の山が、ドサドサと床に転がる音。

 私は、強く抱きしめられ、ぼそりと呟くのだ。


 「ねぇ、ディル……?愛しているからこそ、小さな嫉妬くらいは、許して頂戴ね」

 と……



 これは、

 ほんの少しだけ、私たちの暮らす世界とは違う世界の

 竜人からすれば醜いとされる、人からすれば美しい駐在さんと、

 人からすれば醜いとされる、竜人からすれば美しい娘の

 小さな国の小さな愛の物語



 おしまい。












 私たちは、その後、ディルーク似の人間からすれば神々しいまでにかっこいい人間の息子と、私似の竜人からすれば神々しいまでに美しい竜人の娘を産むことになる。

 そして、またその子たちのおかげでかなりの騒動になるのだが、それはまた別のお話。

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