清し雪降る夜に

主道 学

第1話

 シンシン、シンシンと、よく雪が降る夜だった。


 仄明るい電灯の下で立ちくらみを静めていると、周囲はいつの間にか私を置いて銀世界となっていく。


 安っぽいアパート、少し斜めになったビル、安いが売りの居酒屋、私が寄り掛かっている電灯。


「少し酔って行こうかな……」


 ほろ酔い気分で帰るのもいいかも知れない。

 ビールは大好きだ。

 とりわけて苦味が好き。

 飲み下すことで、アルコールで喉を洗ってくれるかのような感覚がすることも。


 さっき恋人にフラれてからだろうか、それからは立ちくらみが激しくなった。

 

 電灯にいつまでも寄り掛かるのも、いい加減に嫌になってきた。

 過去を引きずることも、後悔することも。

 もう、ビールで全部洗い流して終わりにしよう。

 

 居酒屋には大好きなビールがある。

 こじんまりとしているがお洒落な居酒屋だった。

 だけど、店内は外と同じくらいにひどく寒かった。


 凍えてしまいそうなので、カウンター席につくと、早速ビールとピーナッツを頼んだ。

 安いを売っている店なのに、客が意外と少ない居酒屋だった。


「お嬢ちゃん。未成年じゃないだろうね?」

「違うわ……でも、少しだけ未成年かも知れない……」

「というと?」

「ここ最近、二十歳になったの」

「なーるほど、そういうことなんだね」


 男は大きく頷くと、ビールとピーナッツをカウンターに並べた。

 

 ビールは好きだ。

 苦くて酔いも回るし、私はすぐにビールが好きになっていた。

 他のお酒は飲んだことはないけれど。

 ビールが一番だった。


「お隣。いいですか?」


 見ると、厚化粧の女が一人立っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る