第153話 助っ人
「エルミー、フロラ、お帰り。大丈夫だった?」
「ああ、ただいま。こちらの方はまったく問題なかったぞ」
「ただいま。でも明らかに変異種の影響を受けて凶暴化した魔物が増えてきたみたい。少しずつ強い魔物も現れるようになってきた」
王城にある俺たちが借りている部屋にエルミーとフロラが帰ってきた。現在2人は王都にいる騎士団や冒険者たちと協力して、王都の周囲にいる変異種の影響で凶暴化して増えてきた魔物を減らす手伝いをしている。
変異種の周囲に存在する魔物は、その影響によって普段よりも攻撃的になり、その数を増やしているらしい。このまま放置していると、カースドラゴンの変異種と戦う障害になることは目に見えているので、今のうちに少しずつその数を減らしている。
エルミーとフロラは毎日王城まで帰って来るが、ティアさんたちのパーティはよりカースドラゴンの変異種に近い場所へ遠征して、凶暴化した魔物を討伐してくれているようだ。
ティアさんたちに何かあればすぐに連絡が来るのだが、今のところその連絡はないので、順調に敵の数を減らしているらしい。変異種に近付けば近づくほど、周囲により強い凶暴化した魔物が集まる特性もあるらしい。
「こうやって少しずつ魔物の数を減らしていくしかねえからな」
「そうだな、フェリス。数は多くなってきたが、まだそこまで強い魔物は出てきていない。他の者もソーマが回復魔法をかけてくれたポーションのおかげで、まだひとりも死者は出ていないぞ」
「本当! それはよかったよ」
元々この世界には例の回復ポーションのように傷口を一瞬で治療するようなポーションは存在しなかった。そのため、多くの騎士や冒険者は防御を重視して最大限に鍛錬をしている。そのおかげで今回の凶暴化した魔物の討伐も致命傷を負うことなく、順調に進んでいるそうだ。
……こっちの世界だと、戦闘を行う人の大半は女性だ。俺としてはこちらの世界の人以上に女性が傷付いてほしくないと思っている。
「ソーマの方はどんな調子だ?」
「……今日も駄目だったよ。いろんな素材を試してみているんだけれど、いい結果は出てないね」
「元々たった数日でできるような物でもないし、ソーマがあまり気にすることじゃない。それよりもソーマはもっとしっかり休むべき」
「そうだな。毎日例のポーションも作ってくれているのだろう。ソーマが無理をして倒れてしまっては元も子もないからな」
「………………」
フロラとエルミーも俺のことを心配してくれている。いかんな、俺がみんなにかけてしまうのはよくない。
「うん、ちゃんと休みも取るようにするよ。みんなも本当に気を付けてね」
「ああ、もちろんだ」
「無理はしない」
魔物との戦いはほんの一瞬の油断が命取りになる。2人はAランク冒険者だが、それでも心配は心配だ。
「それじゃあ、明日に備えて早めに休もうか」
晩ご飯も食べたし、当然こんな状況下で遊んだりすることもないので、早く寝て明日に備えるとしよう。
コンッコンッ
「むっ、こんな時間に誰だ?」
夜のこの時間に誰かが訪れるとはどうしたんだ? 国王様かカロリーヌさんか? まさか、ティアさんたちに何かあったとかではないよな!
エルミーが多少警戒をしつつ、ドアを開けた。
「ソーマ様! お会いしたかったです!」
「デ、デジアナ!?」
エルミーがドアを開けると、そこにはなぜかアニックの街にいたはずのデジアナがいた。茶色い髪に茶色い瞳、金属製の胸当てや足当てを付けて長いコートを羽織っている。
「お、おい、なぜデジアナがここにいる!?」
俺の方に来ようとしていたところをエルミーに止められている。
確かにどうしてデジアナが王都に?
「大人しくしておくのだぞ、デジアナ。ソーマ殿、なにやら王都は大変なようですな」
「ターリアさん!?」
デジアナの後ろにはアニックの街の冒険者ギルドマスターのターリアさんまでいた。
「王都からの知らせを受けましてな、急いでアニックの街で動けるものを動かし、第一陣が先ほど王都へ到着したところです。城の者に頼み、ソーマ殿の部屋まで案内してもらいました」
「なるほど」
アニックの街からここまで普通に来ると1週間近く掛かる。王都からの連絡は数日で伝えられる方法があると聞いていたが、それでも俺たちの時間の半分も掛かっていない。
もしかしたら、緊急時の移動手段である馬車の馬に回復ポーションを使用して夜の間も走り続けるという手段を取ったのかもしれない。うん、この短時間で来ることができるということは、おそらくその方法しかないだろうな。
「王都の危機――ひいてはソーマ殿の危機と聞いて、他の冒険者の者や騎士団の者の多くがアニックの街よりやって参りました。我々もソーマ殿の力となりますぞ!」
「ターリアさん……」
どうやら、王都や俺の危機と聞いて、アニックの街から飛ばしてきてくれたらしい。
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