第80話 王都の孤児院


「……この孤児院もあんまり綺麗じゃないね」


「というかボロい……」


 うん……取り繕わずに言うとフロラの言う通り、はっきり言ってめちゃくちゃボロい。王都の孤児院なら、もう少しちゃんとした建物が多いと思っていたが、そんなことはなかった。


 アニックの街の孤児院と同じで、廃墟寸前のボロボロの建物であった。もしかすると廃墟や古い建物を孤児院にでも改装しているのかもしれない。そう思えるくらいボロい建物なんだよね。


「うわ〜なにあれ、格好良い!」


「すげ〜ピカピカの鎧だ!」


 孤児院に入ると、孤児院の子供達が集まってきた。鎧を着込んだ騎士団や冒険者の格好をしているエルミー達を怖がるどころか、反対に集まってきた。リーチェもそうだったけれど、この世界の子供達は逞しいよな。


 ここの孤児院もアニックの街の孤児院と同じで女の子ばかりだ。そもそも女性の比率が多いから当然と言えば当然か。この孤児院の子供達もあまり食べられていないようで、どの子も痩せていた。


「市場で買ってきた食べ物だよ、みんなにあげるから仲良く分けて食べてね」


「いいの! すごい!」


「やったあ! 綺麗なお兄ちゃん、格好いいお姉ちゃんありがとう!」


 市場で買ってきた串焼きや腸詰、麺料理にパンなどの食料を孤児院の子供達に手渡していく。このあとは別の孤児院にも寄付をする予定なので、寄付する食料はたくさん購入してある。


「あら、誰かお客さんが来て……ひっ!? あ、あの、なにかご用でしょうか?」


 孤児院の中から初老の女性が現れた。たぶんこの孤児院の院長かな。……うん、鎧を身に付けた騎士団に、冒険者にいいところのお嬢さま。これが普通の人の反応だよね。


「突然大勢で押しかけてしまってすみません。食料とお金を寄付しに来ました」


「本当ですか! ありがとうございます! 汚くて狭い場所で申し訳ございませんが、どうぞあがっていって下さい」


「それでは少しだけお邪魔させていただきます」


 院長さんについていき、孤児院の中へと入れてもらった。中はちょっと狭いが、アニックの街の孤児院よりはまだマシかなといった感想だ。


「院長先生、とっても美味しいよ!」


「お肉なんて久しぶり〜!」


「こら、もっと静かに食べなさい! 騒がしくて本当にすみません!」


 この人数は院長の部屋には入らなかったので、孤児院で一番広い食堂に案内してもらった。今孤児院にいる5人のまだ幼い子供達も一緒に来て、先程渡した串焼きなどを食べている。


「子供はこれくらい元気なほうがいいから気にしなくていいぞ」


「うん。元気が一番」


 フェリスやフロラの言う通り、子供は元気なのが一番だ。それに子供達も痩せてはいるが、虐待を受けているような跡もないし、院長と楽しそうに過ごしている。


 子供達を虐待したり、国からもらったお金を私利私欲のために使ってしまう悪徳院長とかもいるかもしれないから、そのあたりはしっかりと見極めないといけない。




「えっ!? これからも定期的に寄付をしていただけるのですか!」


 今回闇ギルドを潰したことに対する報酬や怪我をした討伐部隊の治療報酬、そして男巫であるデーヴァさんの治療費として結構な金額をもらってきる。


 あまりにも大金だったので、半分は必要ないと伝えて受け取るのを拒否した。そしてもう半分はこの街の孤児院に寄付することに決めた。すでに結構な貯蓄があるし、生活費もエルミー達の家に居候の身なので、そこまでお金の使い道がないんだよな……


 それならアニックの街と同様に孤児院に寄付しようということになったわけだ。孤児の他にも他に困っている人などいくらでもいるが、たとえ偽善であっても、可愛い子供達の笑顔が見られるのなら、それで何よりだ。


「はい。その際は俺達ではなく、王都の騎士団や冒険者の人達が来ると思います」


 そしてもらったお金はかなりあるので、少しずつ定期的に孤児院に渡すよう、騎士団長や冒険者ギルドマスターのローレイさんに依頼をしてきた。いきなり大金を寄付されても院長のほうが困ってしまうし、余計なトラブルを引き寄せてしまうかもしれないからな。


 ローレイさんや騎士団長や国王様に直接お願いしてあるし、誰かが不正行為をするなんてことはないと信じよう。


「ああ、なんとお礼を伝えて良いのか! あのう……もしかしてアニックの街で有名な治療士であらせられる黒髪の男神様でしょうか?」


「………………」


 その名前は王都にまで広がっているのか……


「ああ、ソーマはアニックの街で人々を治療しているぞ」


「やっぱり! お噂は聞いております! どんな方に対しても優しく接してくれ、どんな怪我も癒してくれ、孤児院に大金の寄付をしてくれている、まさに男神様のようなお方だと聞いております!」


「………………」


 アニックの街から少し離れているだけあって、だいぶ大袈裟に伝わっているな……


 街を出る時までは部位欠損や病気を治すことはできなかったし、孤児院には食料やパン屋を開くノウハウを伝えはしたが、大金なんて渡していない。


 こうやって噂というものは尾ヒレがついて広がっていくようだ……

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