第42話 王都への道 1日目


「初めまして、ルネスと申します。噂のソーマ様とご一緒できて光栄です」


「私はジェロムと申します。ソーマ様、よろしくお願いしますね」


「ルネスさんとジェロムさんですね。ソーマと申します。よろしくお願いします」


 ルネスさんとジェロムさんと握手をする。街を出る時にティアさんとは軽く挨拶をしたが、2人とは初めてだ。というより、同世代の男性と行動を共にすること自体が、この世界に来てから初めてな気がする。


 ルネスさんは俺よりもかなり小柄な男性だ。黒いローブを着て、いろいろな装飾のついた高価そうな杖を持っているから、魔法攻撃を主体とした男冒険者なのかもしれない。


 ジェロムさんは俺と同じくらいの大きな身長で、金属製の胸当てや腰当てなどを身に付けた男性だ。ティアさんと比べると軽そうな防具でショートソードを武器にしているから、戦闘では素早さを活かした立ち回りをするのかな。


「ソーマ様のお噂はかねがね聞いています。同じ男性として、とても尊敬しております!」


「ええ! 治療士として素晴らしい腕を持っているだけではなく、孤児院での寄付や子供達を救うためにお店を出したと聞いております。ソーマ様はあの街に住む男性の憧れです!」


「………………」


 さすがに同年代の男の人にそこまで持ち上げられると恥ずかしい。この世界は女性が多い世界だからな、できればこの機会に俺と同じくらいの年齢の男性であるこの2人と友達になりたい。


「実はこの国に来てから同年代の男性と話すのは初めてなんですよ。できればもっと気軽に呼んでもらって、仲良くしてくれると嬉しいです」


「……それでは少し恐れ多い気もしますが、ソーマさんとお呼びしてもよろしいでしょうか?」


「ええ、もちろんです!」


 できれば元の世界の男友達みたいにあだ名や呼び捨てで呼びあうくらい仲良くなれればいいな。




「ソーマさんは何を作っているんですか?」


「これはポトフといって簡単な鍋料理です。野菜やお肉や腸詰めを煮込んで味をつけたものですね」


 エルミー達が起こしてくれた火を使って、今日の晩ご飯を作っている。基本的に王都までの道中は、エルミー達のパーティとティアさん達のパーティは別々で食事を作って食べる予定だ。


 パーティごとにそれぞれ食事事情があるため、複数パーティで行動する際は、基本的にそれぞれのパーティで分けるらしい。御者さんはひとりずつパーティに分かれて食事を取ることになっている。


「へえ〜、とってもいい匂いですね!」


「ルネスさんとジェロムさんは何を作っているんですか?」


「私達はパスタを作っています。今日は水場のあるところに野営すると聞いてましたからね。ジェロムの故郷の味付けなんですよ」


「そちらのも美味しそうですね! せっかくならあとで少し交換しませんか?」


「ええ、ぜひお願いします!」


 ……なんだか女子みたいな会話をしているが、男達で料理を作っているだけなんだよな。まあもともと料理は好きだったから、こういうのも悪くないかもな。




「おお、とてもいい匂いだな!」


「お腹すいた」


「すげえうまそうだな!」


 野営の準備が終わり、食事の準備ができた頃にはもうすっかり周囲は暗くなっていた。真ん中にある焚き火を囲んで全員で晩ご飯だ。


「結局ルネスさんとジェロムさんが作ってくれたパスタと半分に分けたんだ」


 結局できあがった料理を半分に分けて食べることになった。本来なら護衛の対象である俺が、他のパーティの作った料理を食べるのはあまり良くないのだが、俺には解毒魔法が使えるので、毒見とかは気にしなくても良い。


 そもそも今回護衛をしてくれるティアさん達や御者の2人には、フロラの嘘を見抜く精霊の能力で、俺に害意がないことはすでに確認済みである。改めてフロラの力は凄いよな。


「美しい男性が私たちのために作ってくれた料理だ。それだけでもう美味しいことは間違いないさ。ありがとう、ルネス、ジェロム、そしてソーマ様」


「ティア様!」


「そう言っていただいて幸せです!」


「「「………………」」」


「はは……それじゃあ温かいうちに食べましょうか」


 ティアさんの大袈裟な物言いにも、少しだけ慣れてきた自分がいるな。


「おっ、このスープはうまいな! 今まで味わったことのない味だぞ」


「本当、とても優しい味!」


「ソーマ様が作ってくれた料理をいただけるとは感激です!」


 ポトフという料理は野菜や肉などを鍋に入れて煮込むだけのお手軽料理だ。そして今回は味付けに自家製のコンソメを使っている。


 実は粒状のコンソメは時間がかかるが、家でも簡単に作れたりする。野菜やベーコン、香りの強い香草を材料にして、ひたすら細かく刻んですり潰して混ぜ合わせ、水を少しだけ加えて液体状にしていく。元の世界だとミキサーを使えばすぐなのだが、この世界に似たような道具はなかったので、ひたすら手作業で行なっていった。


 できあがった液体に塩コショウで味をつけ、弱火でじっくりと煮詰めて水分を飛ばしていく。カラカラになったものを一晩乾燥させれば自家製コンソメの完成である。


「ルネスさんとジェロムさんが作ってくれたパスタも本当に美味しいですね! 初めて食べる味ですけれど、とても食べやすい味です」


 2人が作ってくれたパスタは、元の世界を含めても初めて食べる味で、独特な香りが強かったが、俺はとても好きな味だった。見た目はトマトソースみたいなのだが、味はトマトと全然違う味だ。


「ソーマさんが作ってくれた料理もとっても美味しいです!」


「これがさっき教えてくれたコンソメの味なんですね! 長旅でも持ち運べて本当に便利ですし、今度私達も作ってみます!」


「俺もおふたりに聞いた料理のレシピを今度使わせてもらいますね」


 先程料理を作りながら、ルネスさんとジェロムさんとレシピを交換した。このパスタのソースはいろいろな料理に使えそうだ。今晩の料理を通してルネスさんとジェロムさんとだいぶ仲良くなれた気がする。

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