第38話 サンドイッチ
「それじゃあ、今日はお疲れ様。お腹いっぱい食べていいからね。みんなのおかげで……」
「「「ガツガツガツ」」」
……ああ、うん、そうね。面倒な乾杯の音頭とかいらないよね。子供たちにとってはお腹を満たすほうが大事だよね。
一応食料の寄付は続けているが、食べ盛りのこの子達のお腹を満たすには至らなかったようだ。それに昨日からずっと忙しかったから、いつもよりお腹が空いているのだろう。
「こら、みんな! まだソーマさんが話しているでしょ!」
「大丈夫ですよ、ミーナさん。今日はみんなたくさん働いてお腹も空いているから、まずは食べましょう。院長もミーナさんも遠慮なく食べてくださいね」
「そうだな。みんな頑張ったし、まずはお腹を満たすことが先でいいと思うぞ」
……うん、まさにその通りなんだけれど、そんなおあずけされた犬みたいに目の前にある料理を見つめていないで食べていいのに。
「そうだね、それじゃあいただきます!」
子供達以外は俺が料理に手を出さなければ、料理を取りにくい雰囲気になっていた。一応それくらいは察することができたので、目の前にあるサンドイッチの山に手を伸ばした。それと同時にみんなも料理に手を伸ばしていく。
「おお、これはとても美味しいですね!」
「本当! 柔らかくなったパンにいろいろと挟むだけでこんなに美味しくなるんですね!」
「ゾーマお兄ぢゃん、ごでぼっでもおびびいよ!」
「それはよかった。あとリーチェはちゃんと飲み込んでから喋ろうな」
今日はみんなが焼いてくれたパンにいろいろな物を挟んだサンドイッチを用意した。特にサンドイッチの場合は柔らかいパンのほうが美味しくなるよな。
パンの販売が落ち着いてきてから、孤児院の台所を貸してもらってみんなの分を作っていたのだ。まだパンの販売には参加できない子供達の手も借りられたので、それほど手間が掛かってはいない。
「ほう、これは茹でた卵に酸味のあるソースを絡めているのですね。この柔らかいパンと合わさるととても優しい味で美味しいです!」
「それはタマゴサンドですね。茹でたタマゴにマヨネーズというソースを絡めています」
ちなみにマヨネーズは市場で売っている新鮮な卵を使えば、お腹を壊さないことは確認できている。
「ソーマ、こっちの甘辛いお肉が挟んであるのがすごく美味しい!」
「フロラが食べているのは照り焼きサンドだね。鶏肉に甘辛いタレを塗りながら焼いてパンに挟んだんだよ」
魚醤と砂糖と酒を混ぜて作ったタレを絡めて炒めた肉を野菜と一緒にパンに挟んで作った照り焼きサンドだ。魚醤だとほんの少しだけ魚の匂いが強いから、醤油のほうがよかったのだが、この街の市場でまだ醤油は見つかっていないんだよな。
「こっちのハムと野菜とチーズのやつもうまいぞ!」
「フェリスのはハム野菜サンドだね。シンプルだけど美味しいやつだよ。俺もなんだかんだで、これが一番好きな味かなあ」
ハムと野菜とチーズを挟んだ定番中の定番なやつだ。元の世界でもこれが一番好きだったかな。それに作る側としても一番お手軽にできるやつだし。
「おお、どれも本当に美味しいですね! 特にこのタマゴサンドと照り焼きサンドのほうは初めての味です!」
「あとでレシピを教えますから、お店で販売してみるのもいいかもしれませんね」
「本当ですか! ぜひお教えください!」
ドルディアさんには今回いろいろとお世話になった。これくらいのレシピなら教えてあげるとしよう。
これだけ大勢で食事をするのも久しぶりだが、やはり大勢で食事をするというのもいいものだな。子供達が美味しそうにご飯を食べている姿を見ると、俺も孤児院のために頑張ってきた甲斐があるというものだ。
帰る時には他の孤児院にも寄って、子供達やデルガルトさんにサンドイッチの差し入れを持っていくとしよう。
◆ ◇ ◆
孤児院のパン屋を開店してから4日が経った。今日は2つ目の孤児院のパン屋のオープンだったが、1店目のパン屋の噂が広まっていたおかげで、リーチェ達の孤児院の時よりも大勢のお客さんが来てくれてた。この分ならば、3店目の孤児院のパン屋も大丈夫だろう。ついでに俺達も毎日美味しいパンを食べられるようになって万々歳である。
その間は治療所のほうも特に大きな問題がなかった。最初の頃と比べて、治療を必要とする怪我人はだいぶ減ってきたようだ。この街から離れた場所からやってくる患者さんもあらかた治療し終えたらしい。
そろそろ、例の治療士がまたちょっかいを出してくる頃かと思っていたが、今のところは何もしてくる様子はない。貴族達の中でもそれほど裕福ではない人達はこちらの治療所に来るようになってきたが、他の貴族達はまだもうひとりの治療士で治療を受けているらしい。このままよい棲み分けができればいいと思うが、それもまた難しいのだろうな。
とりあえず孤児院のパン屋が順調にいき、ユージャさんのポーションの検証が一通り終わったため、いよいよ王都に顔を出すことにした。
そしてこれからのことを話し合うために、冒険者ギルドマスターのターリアさんのもとを訪れた。
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