第9話 パーティハウス


「治療費は金貨10枚とします。もちろん後払いも認めることにします。以上が俺からの条件です」


「「「……は?」」」

 

「この条件でいかがでしょうか?」


「……いくらなんでもそれは安すぎる」


「治療費が安すぎて困る人達はいますか?」


「……このあたりで唯一いる悪徳治療士くらいだろう。あとはポーションを販売している者も、売り上げが多少は下がるかもしれない」


 このあたりにひとりしかいないというボッタクリの治療士はどうだっていい。ポーションを売っている人達についてはどうしようかな。この世界ではポーションが医者の代わりとなっているみたいだし、いきなりその人達の仕事を全部奪うのはよろしくない。それに俺ひとりで怪我人すべてを治療できるかも怪しい。


「ではもうひとつ条件を追加して、ポーションでの治療が難しい人限定しましょう。そうすればポーションがまったく売れなくなるなんてことはないはずですよね」


「あ、ああ。だけど本当にいいのかい? この街の治療士はともかく、普通の治療士でも白金貨1枚は治療費として取る。確かに治療費は高額だが、命に関わる仕事だし、当然の報酬だとも思う。それにソーマは治療士よりも上級職の男巫おとこみこなんだぞ」


 それでも約100万円は高すぎる。その金額をすぐに用意できる人なんて本当に限られた人達になってしまう。確かに相場の10分の1の治療費なんかにしたら、他の治療士に迷惑が掛かるかもしれないが、このあたりにはそのボッタクリ治療士しかいないなら問題はないだろう。


 怪我の具合によって治療費を分けるという方法もあるが、医者でもない俺にはどれくらいの怪我なんてわからない。


「治療士は自分で治療費を設定できるんですよね。それなら俺は金貨10枚でいいです」


 本当は金貨10枚でも高い気もする。だって月に10人治療したら月収100万円だよ! そんな大金を一高校生である俺がもらってどう使えばいいんだよ……とはいえ更に安い金貨1枚とかにしてしまうと、大した怪我でもない人達が殺到してくるに違いない。


「ソーマ……いえ、ソーマ様! あなた様の慈悲に甘えさせていただきます」


 ターリアさんが俺の前に跪く。それに合わせて3人まで跪いてくる。


「いや、様付けはやめてください! むしろ俺のほうこそ、これからよろしくお願いします」






「ここが我々のパーティハウスだ!」


 あのあと冒険者ギルドを出て、市場で俺の日用品を適当に購入してから、俺を護衛してくれる蒼き久遠のみんなのパーティハウスまでやってきた。


 冒険者ギルドを出る時に他の冒険者に見られたり、あれがあの、とか治療士がどうとか聞こえたから早くも注目されてしまったようだ。


 みんなのパーティハウスは冒険者ギルドからたった10分ほど歩いた場所にあり、頑丈そうで大きな家だった。これがこの世界の高ランク冒険者が住むレベルの家なんだな。


「お邪魔します」


「ソーマ、すまないが玄関で少しだけ待っていてくれ」


 あれからエルミー達もソーマ様呼びしてくるので、それだけはやめてくれと頼み込んだ。


「はい、それは構いませんけどどうしてですか?」


「な、なに。いつも女3人で暮らしているから、ほんの少しだけ散らかっているんだ。片付ける時間がほしい」


 ……ああ、そういうことか。俺の部屋も普段はめちゃくちゃ汚いし、異性には見られたくない物もあったりする。……主にエロ本とかな。


「ええ、もちろん大丈夫ですよ。ここで待ってますね」


「すまないな、すぐに終わらせる」


「やべ、俺もだ」


 エルミーとフェリスは急いで家の中にあがり、ドタバタと音がしてくる。


「フロラは大丈夫なの?」


「私は見られて困る物なんてないから大丈夫」


「そうなんだ」


 小さいながらもしっかりしているな。もしかしたらエルフだし、見た目通りの年齢ではないのかもしれない。




「待たせてすまないな。どうぞ中に入ってくれ。家の中を案内しよう」


「はい、よろしくお願いします」


 改めて思うが、今から女性3人が住んでいる家にお世話になるんだよな。……ちょっとドキドキしてきた。


「まずはここがリビングと台所だ。まあ私達はあまり料理をしないから、台所はほとんど使わないがな」


「ぶっちゃけ誰もまともに料理なんてできねえからな。まあ女3人ならしょうがねえけどよ」


 そうか、こっちの世界では男性が料理をしたりすることが多いのか。


「そして上の階がみんなの部屋だ。護衛という関係上、ソーマの部屋は私達の部屋のすぐ隣となっている。女3人に囲まれて不安かもしれないが、絶対に君に手など出さないから安心してほしい」


「はい、みなさんを信用しているので大丈夫ですよ」


 ……むしろ3人なら大歓迎なんだけど。夜に部屋の鍵は開けておこうかな。


「安心しろ、ソーマにはどんな野郎にも指一本触れさせねえよ。俺とエルミーはこの家の敷地内に誰かが来たら気配でわかるし、フロラの魔法で侵入者も分かるようになっているからな」


 すごい、さすがAランク冒険者! 元の世界の警備会社もびっくりするような安心安全のセキュリティらしい。


「みんなすごいね、とっても頼りになるよ!」


「お、おう!」


 フェリスが少し照れているようだ。普段男よりも男らしい態度をしているので、そのギャップもあってか、とても可愛らしい。


「ソーマの部屋はこっちだ。部屋の中は自由に使ってくれ。まずは服を着替えてくるといい」


「はい、ありがとうございます」


 そういえば今はまだスライムにワイシャツを溶かされたから、エルミーに借りた服を着ていたままだ。市場で適当に男物の服一式を買ってもらったから、これに着替えるとしよう。


「私達も身体を拭いて着替えてくる。着替え終わったらみんな下に集まってご飯にしよう」


「はい」


 そういえばだいぶお腹が空いたな。結局こちらの世界に来てからまだ何も食べていない。お腹も空いて当然だ。


 部屋の中には机と椅子、箪笥に大きめのベッドがあった。もしかしたら来客用だったり、新しいパーティメンバーが加わった時用の部屋なのかもしれない。


 桶と水を準備してくれていたので身体を拭く。結構な距離を歩いて汗もかいていたのでとても気持ちがいい。


 買った服は厚めの長袖のシャツと下は茶色のズボンで、ベルトではなく紐で縛ってある。材質は絹ではないみたいだけれどよくわからない。気温が少し暑くて半袖とか短パンがほしかったりしたのだが、この世界の男性はあまり肌を見せないのが普通らしい。


 着替えが終わって下の階に降りる。部屋の中から3人の声が聞こえてくる。どうやらすでに3人とも着替えが終わって下に降りていたらしい。


「ありがとう、着替え終わったよ……って、うわああああああああ!」


「どうしたソーマ!」


「何かあったのか!」


「……侵入者はいないみたいだけど」


「3人とも服を着てくれ!!」


 リビングルームでのんびりとくつろいでいる3人。しかし、3人とも上半身が裸であった。

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