第4話 冒険者ギルドで絡まれる(?)


 女盗賊達を門にいた憲兵さんに引き渡し、街の中に入る手続きをした。フロラはそのまま憲兵さん達と一緒に盗賊達を連行していく。もしかしたら嘘がわかる能力で尋問を手伝うのかもしれない。


 本来ならば通行証か通行税が必要となるのだが、当然俺は通行証も持っていないし、無一文だ。俺の代わりにエルミー達が払ってくれた。しっかりとお礼を言って、金額を覚えておいた。


「うわあ〜!」


 城壁の中にはこれこそ異世界と呼べるような景色が広がっていた。門の前には大勢の人々や荷馬車が所狭しと行きかう余裕があるほどの広い道。その道を行きかう人々の格好も様々であった。


 大きな荷物を背負った商人のような人、農作物をたくさん持った農民のような人、プレートアーマーを身につけた騎士か冒険者のような人。


 頭から耳を生やし、長い尻尾をパタパタと振っている猫の獣人、ほとんど犬の姿のまま二足歩行しているような犬の獣人、少し背の低いドワーフなど、人族以外の様々な種族がこの街には存在しているようだ。


 そして先程話を聞いていた通り、道を通る人々の多くは女性だった。そしてなぜかその女性の大半がチラチラと俺の方を見てくる。……なんでだ?


「この辺りでは黒い髪の男性は珍しいんだ。ソーマは可愛い顔立ちをしているし、……それに今は私の服を着ているからな」


 俺が不思議に思っているとエルミーが教えてくれた。なるほど、確かに周りを見ると金髪や茶髪などの女性ばかりだ。元の世界でいうと珍しい緑色とかの髪色の外国人が、男物のワイシャツを着て街を歩いているようなものか。……確かにそれは目で追ってしまうな。


 そして可愛いという言葉はこちらの世界の男性には褒め言葉なのかもしれないが、俺にとってはあまり嬉しくない。確かに元の世界では男のくせになよなよしているとか、弱々しいとか言われたこともあったな。


「とりあえず依頼達成の報告と、盗賊の捕縛、それとソーマのことを冒険者ギルドに報告しに行くぜ」


「あ、はい。よろしくお願いします」


 おお、こっちの世界には冒険者ギルドがあるのか! これはテンションが上がる。




 カランカランッ


 街の中で一際大きな建物。冒険者ギルドという文字が書かれた看板が掲げられている。文字は日本語ではないのだが、なぜか俺の頭では日本語として認識できている。


「おう、エルミーにフェリスじゃねえか! フロラは今はいねえのか、今晩一緒に飲もうぜ……というか、そこの可愛い男はどうしたんだよ?」


「アルベル、酒はまた今度な。森の手前で迷っているところを保護したんだ」


 アルベルと呼ばれている女性。彼女はネコの獣人のようで頭からはふさふさとした毛並みの茶色い耳がある。そして彼女の後ろには立派で長い尻尾が生えていた。まだ日も暮れていないが、お酒を飲んですでに酔っ払っているようだ。


「そりゃ災難だったな可愛い兄ちゃん、まあ人生山あり谷あり、きっといいこともあるさ! それよりもどうだ、後で俺と一発ヤらねえか?」


「えええ〜!?」


 い、いきなり何を言っているんだよこの人は!? 改めてアルベルさんを見てみるが、ショートカットにキリッとした目元で凛とした顔立ちのボーイッシュな女性だ。


 ……うん、全然アリだ。というかむしろ土下座してもいいから、是非ともお願いしたいです! なよなよしてるとか女々しいと言われていた俺の顔ではまったく不釣り合いな女性である。


「おら!」


「痛え!?」


「男相手に馬鹿な冗談言ってんじゃねえよ! 悪いな、ソーマ。こいつら平気でこういうことを言ってくるけど無視していいからな。まあ悪いやつじゃあねえから許してやってくれ」


 フェリスがその大きな盾でアルベルさんの頭を軽く叩く。


 ……なんだよ冗談か。そりゃ俺みたいな男にそんなことを言ってくれる女性はいないか。


「アルベルさんみたいな綺麗な女性にそんなことを言われたから一瞬本気にしちゃいましたよ。お酒は身体にも良くないみたいですし、ほどほどにしておいた方がいいですよ」


 一瞬だけでもいい夢が見れたな。そんな夢を見せてくれたアルベルさんにできる限りの笑顔でそう応えた。


「「「………………」」」


 あれ、なぜか冒険者ギルド内が静寂に包まれた。


「可愛い……」


「可憐だ……」


「美しい……」


 ……なんでそうなるんだよ。なぜか周りの女性冒険者が俺を見ている。


「な……き、綺麗って!? ば、馬鹿野郎、俺が綺麗なわけねえじゃねえかよ!」


 そしてなぜか一番アルベルさんが顔を真っ赤にして動揺していた。恥ずかしがっているアルベルさんもめちゃくちゃ可愛いな、おい!


「いえ、アルベルさんは綺麗です! キリッとした目元に凛としたお顔、少なくとも俺なんかとはまったく釣り合いませんね」


「っつ!? うわあああああああ!」


 アルベルさんは今まで以上に顔を真っ赤にして冒険者ギルドを飛び出してしまった。


「……罪な男だな、君も」


「悪い男だな、ソーマは」


 ……どうしてこうなる?

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