12 食べ物飲み物

 リザードマンを一匹討伐すると、三万マグの報酬になる。

 本当に一匹も倒してないのに、二百匹討伐相当の報酬になっていた。

 更に、鉱山の詳しいマッピングが評価されて臨時ボーナスが三十万マグ。

 合計六百三十万マグを手に入れた。


「鉱山歩き回っただけでこれって……」

 僕が少々引いていると、受付さんは笑顔で僕に報酬をぐいぐい押し付けてきた。

「鉱山の地図を詳細に作ってくださった件だけでも、もっと報酬があってもよかったくらいです。それに、倒していなくとも『倒す覚悟』で仕事に臨んでくださいましたから、これは正当な額ですよ」

「デガさん、この方の言うとおりです。素直に受け取りましょう」

「わかりました。ありがとうございます」


 冒険者ギルドを出ようとすると、カイトに呼び止められた。

「今夜そっちの宿へ行くよ。家のことについて色々決めたい」

「もう話を聞き終わったの?」

「まあ大体だけどな。家の目星もついてる」

「わかった。助かるよ」



 宿の部屋で夕食を食べ終わった頃、カイトがやってきた。

 手には色々な書類を抱えている。


「悪いけど、デガたちの仕事内容から所持金も調べさせてもらった。家を買うのに必要だったからな……と、すまん、今更気づいた。俺、デガたちの収入しかアテにしてねぇ」

「構わないよ」

「俺の分はローン組ませてくれ」

「いいってば。こっちはどんどん稼げるんだから」

「でも年下に金銭面で支えられるのは、プライドが……」

「言ってる場合か?」

「……まぁ、そうだよな。じゃあ悪いが、思いっきりヒモさせてもらう」

「自分も働いてるんだからヒモとは違わない?」

「ヒモってどういう意味ですか?」

「ええと、働かない男性が同棲してる女性の収入で暮らしている状態?」

 丁寧に説明しようとすると難しいな、ヒモって。

「では、カイトさんの状態は違いますね」

 ベルが眩しい笑顔でカイト=ヒモ説を否定した。

「はは、ありがとう。っと、話が逸れたな。家なんだが……」



 家の値段、めちゃくちゃ安かった。日本が異常に高いのか?

 カイトが見つけてきた物件は、8LDK+地下室、倉庫、広い庭、厩舎つきで一千万マグ程度。

 部屋も一つ一つが今いる宿の部屋の倍ほど広く、各部屋にウォークインクローゼットとバストイレ付き。

 家具は少々不足気味だが、数十万マグあれば揃うとか。

「ちなみにこれが一番オススメの家だ。町のはずれで少々利便性は悪いが、だからこそ、この広さでこの値段だ」

 次におすすめされたのは、より町に近い場所にあるアパート。八部屋、つまり一棟まるごと買い取っても、二千万マグらしい。ただし建物が古く、今後改築か建て直しが必要だそうだ。

「安いね」

 僕自身家を買ったことはないが、実家は確か両親がまだローンを払っていたはずだ。

 一千万なら、今日みたいな仕事を二、三回こなせば買えてしまう。

「勿論分割払いもできる。冒険者であること自体が身分証明になるから、デガとベルならすぐ購入手続きできるぞ」

「ベル、どう?」

「前にも言いましたが、家に関しては正直よくわからないので、全てお二人におまかせします。購入資金はわたくしも出しますよ」

 これまでの冒険者ギルドの仕事の報酬は、全て僕が受け取っている。

 ベルと半分ずつにしようとしたら、断固拒否されてしまったのだ。

 だからこそカイトの蘇生費用を一括で支払えた訳だが。

「お金はいいよ」

「でも、わたくしも住まわせていただけるのですよね?」

「ベルには色々教えてもらった恩があるし、これからも仲間として助けてもらうつもり。だから、遠慮しないで」

「……わかりました、仰せのままに」

「じゃあ最初の一軒家を買おう。カイト、諸々頼んでもいい?」

「任せろ」


 僕とベルが冒険者ギルドの仕事に勤しんでいる間に、カイトは着々と家の購入手続きを進めてくれた。

 一度だけ、購入者本人の確認が必要ということで話し合いの場に呼ばれたが、そこで冒険者カードを見せて契約書にサインするだけの簡単なお仕事だった。


 家の話をしてから三日後、僕たちは新居の前に立っていた。

「でかっ」

「素敵なお家ですね」

 赤い屋根の二階建ての家は、いかにも貴族が住んでいそうな佇まいをしていた。

「一応軽く掃除はしてあるらしいが、まあ入ってみよう」

 カイトの言う通り、部屋に目立った汚れや気になる埃はなかった。

 すぐにでも普通に暮らせそうだ。

 早速、部屋割りを決めた。

 部屋の広さに大差はないため、三人とも一階の部屋にした。

「このベッドとかはどうしたの?」

「前の住人のものだが、家を買った人が貰えることになってる。気になるなら買い直すぞ」

「勿体ないからこのままでいい。ベルは?」

「わたくしも気にしません」


 三人で好きに家の中を歩き回り、足りないもの、壊れていたものを報告しあった。

 それをカイトが箇条書きにした上で「随時買い足し、修理を手配するよ」と頼もしいことを言ってくれた。

「本当に助かるよ、カイト」

「俺は居候だからな。このくらいやるよ」

 なんとカイトは料理までしてくれた。一人暮らし歴が長く、自炊するようになってから料理自体にハマったと言っていた。

 広いキッチンで作られ、食堂で出されたのは……カレーライスだ。

「カレールーは無かったが、香辛料は日本で買えるのとほぼ同じだったよ」

「香辛料から作ったの!? すごいね」

「初めて見るものです……」

 興奮しているのは僕で、不安げなのはベルだ。

 まあ、カレーって初見じゃ食べ物に見えるかどうかも不安だもんね。

 僕が率先して一口頬張り……美味しいとか感想を述べる前に、二口目を口に運んでいた。スプーンが止まらない。カイトのカレー、やばい。中毒性がある。あっという間に一皿食べきってしまった。

「おかわりある?」

「たくさんあるぞ」

「……はむっ。!?」

 僕の様子を伺っていたベルもカレーを一口食べた。一瞬目を白黒させたが、僕と同じように無言でスプーンを動かし始めた。

「はぁ……辛さが癖になって……とても美味しかったです」

「ベル、足りた? まだあるぞ」

「えっと……じゃあ、少しだけ、おかわりを」

 結局、僕が三皿、ベルは一皿半、カイトも二皿食べていた。

 明日の朝食分くらいならまだあるそうだ。嬉しい。



「入浴時間はいつ頃ですか?」

 食事の後、リビングで寛いでると、ベルが妙なことを言い出した。

「ん? 部屋にある風呂なら好きな時に入っていいよ」

「えっ、あ、そ、そうですね。すみません、教会に住んでいた時の癖が」

 宿で寝起きしていた時は気にしていない様子だったのに、他人との共同生活、という状況でスイッチ入ったんだろうな。

「時間決められてたの?」

「はい。起床、就寝、食事といった生活全般は時間が厳しく決められていました」

「わあ窮屈。食事の時間は都合次第だけど、お腹空いたらキッチンで好きなもの食べていいし、他の時間は決めないよ」

「承知しました」


 自分たちの家での生活は、驚くほどすんなりと落ち着くべきところへ落ち着いた。

 家事は自然と各々、時間のある時に気づいたものを片付けるようになった。

 自室の掃除と洗濯は各自で。日用品の買い出しは僕とベルが冒険者ギルドでの仕事の帰りに。食料はカイトが在庫を把握しているから補充を任せてある。

 料理はカイトの独壇場だ。カレー以外にも和食洋食中華と、この世界にあるもので工夫して出してくれる。

「わたくし、太りそうです」

 ベルが食事のたびにぽつりと漏らす。

「ベル細いじゃん」

「見えない部分が、その、お腹とか……」

「カレーの日以外はカロリー計算してるから、大丈夫だと思うんだけどな」

「カレー……うう、あれは悪魔の食べ物です」

 普段そんなことしないのに、ベルは天に祈りを捧げるように両手を組んで目を閉じた。



 こうして家に馴染んだ頃、僕とベルは冒険者ギルドから直接呼び出された。

 どうせ行くからとカイトも一緒だ。

 案内された部屋には、ギルド長がいた。

「先日の鉱山の件について、知らせておくべきだと思ってな」

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