第13話 本日のお仕事6 文官

 タデウス様は入館証を持っていて、わたしはタデウス様付きのメイドだという証書を持たされ、胸には証書を持っている目印のリボンをつけられる。今日は青色だそうだ。毎日色を変えることが防犯のひとつになるらしい。

 後ろについて廊下を歩いて行ったが、門まで帰れる自信はなかった。3階なことだけは確かだと思うけど。


 何個も同じようなドアが続く。部屋になんとか室と室名札が出ているわけでもなく、中央階段から右に出て13個目の部屋とか覚えるの? 

 タデウス様が扉を開けて部屋に入られたのでわたしも続く。


「おはようございます」


 タデウス様は挨拶をされたが、わたしたちが一番乗りだ。わたしも入るときに現主人を真似て腰を折り挨拶をする。

 部屋には6つの机がコの字型に並び、口の開いたところに大きめの机があった。

 タデウス様は6つの机の一番入り口に近いところに腰を下され、目頭を押さえる。年配の方のような仕草だ。机の上はきれいに整頓されていて、左側の上には蓋のない箱が3つ置かれていた。白い箱には書類がたんまり積まれていて、その隣の青い箱と赤い箱には何も入っていなかった。


「僕がするのは書類の見直しだ。上がってきた案件を通すか通さないかの判断はもっと上がする。上にあげるのが適切な案件か、そこに不備はないかを見直し、上に通す物であれば青い箱、話にならないと返すのは赤い箱に入れる。リリアンは上級使用人の仕事をしたことは?」


「ございます」


 文字が読めるかを確かめられた。


「書類の整理を頼むかもしれない。赤い箱に入れた物を各部署に戻してもらったり、それから休憩時間があったな。その時のお茶の用意。あ、他のメイドもいるだろうから、給湯室のことなんかはメイドから聞いてくれ」


「承知いたしました」


「質問は?」


「各部署の部屋割りの記載されたものなどありますでしょうか?」


「ああ、その問題があったか。部署は防犯対策でわかるようにはしていないんだ。とりあえず、書類の上の方にある丸のついた番号、これが部署番号で、ここは27部署だ。2階の中央棟、階段を上がったところから右に1、2、3と14室が執務室となる。3階も同じく14室で28の執務室、4階も同じで全部で42の執務室がある」


 なるほど。


 ノック音がして入ってきたのは襟のたった黒いワンピースに腰から下のタイプのエプロンをしたメイドさんだった。頭にはホワイトブリムをつけている。


「おはようございます、ボウマー様。今朝もお早いですね」


「ああ、おはよう。今日一日僕につくメイドのリリアンだ。給湯室のことなど教えてやってくれるか?」


「かしこまりました。私は王宮メイドのシルビア・ハイマーと申します。給湯室にご案内しますわ」


 タデウス様に促されたので、ハイマーさんについて部屋を出た。


「お手間を取らせまして申し訳ありません。メイドのリリアンです。どうぞよろしくお願いいたします」


「こちらこそ、よろしくお願いします。ボウマー様がメイドを連れてくるなんて初めてのことよ」


 ニコッと微笑む。

 上がってきた階段とは反対方向に進み、お隣の執務室の14個目の部屋を通り過ぎ、でもまだ部屋は続く。何これ、本当にわからないんだけど。


「執務室よりこちらはどのようなお部屋なんですか?」


「ああ、3階はよく会議に使われているわ」


 少しだけ手狭な扉があり、そこが給湯室だった。給湯室といってもわたしの家の部屋よりも広く、いくつものコンロが並んでいる。それから簡易オーブンも何台もあった。給仕するためのワゴン、各種お茶、ポット、魔法瓶、お菓子が並んでいた。


「シルビア、そちらは?」


 ハイマーさんと同じお仕着せの方たちがわらわらいて、わたしは取り囲まれる。


「ボウマー様のメイドのリリアンさんよ」


「初めまして。リリアンと申します。よろしくお願いします」


 何人もの人とご挨拶をして、給湯室のことを教えてもらう。

 基本この部屋にあるものなら、何を使ってもいいそうだ。

 お菓子は毎日違うものが届いていて、それ以外が食べたいなら自分たちで用意してねということらしい。今日のお菓子は有名店のビスケットみたいなものだという。

 紙の可愛らしい箱に入っていて、それに目が釘付けになった。


「あの、あちらの箱は食べた後はどうするんですか?」


「どうするって、捨てるけど」


「あの、いただくことは可能でしょうか?」


「ええ、それは大丈夫だけど。中身ではなく、箱を?」


「あ、はい」


 11時の休憩のときにまたくることにして、お菓子の箱を3つもらい、タデウス様の執務室に戻る。部屋がわからないから、中央階段まで行ってから部屋数を数えました。番号でいいから外に振っておいてほしいわ。

 部屋に戻ると、人が2人ほど増えていた。会釈をしてタデウス様に告げる。


「ただいま、戻りました」


「アイセイ様、トーレコ様、本日メイドを連れてきております。よろしくお願いします」


 と挨拶されたので、わたしも頭を下げた。

 タデウス様の席の隣のアイセイ様は20歳いかないぐらいの少しふくよかな優しそうな方で、その隣のトーレコ様は失礼だけど意地悪そうな感じがした。


「タデウス様、ハサミをお持ちですか?」


「持っているが」


「お借りすることはできますでしょうか?」


「構わないが」


 と引き出しからハサミを取り出した。

 借りたハサミでお菓子の箱の横部分を切っていると、いつの間にか視線を集めていた。


「お前は何をしているんだ?」


「箱を切っております」


「それは見ればわかる」


「はぁ」


 じゃあなんで聞いたのかしら?


「今日のお菓子はタクティスのビスケットでしょうか?」


 箱でわかったのだろう、アイセイ様が嬉しそうにしている。


「はい、そのようでした」


 2つ目の箱は同じ横部分を切り、さらに上の部分の長さを短くする。3つ目の箱は短くした長さの箱にきり、上の部分は斜めにして書類が入りやすいようにする。テープをいただいて3つの箱を止める。


「なんだ、それは?」


「書類入れです」


「書類入れ?」


「タデウス様はお気になさらず、青い箱と赤い箱に入れてください。わたしは赤い箱の書類を届ける階で分けておこうと思いまして」


 そこからまた持ち込む部屋に分ける方が楽だからだ。

 そこにまた4人の人が入ってきた。20代前半から30代前半の方たち。

 みんな立ち上がって、広い机に着こうとした方に挨拶をする。わたしももちろん頭を下げた。紹介されてわたしも名前を覚える。


「タデウス、初めてじゃないか、君がメイドを連れてくるなんて」


 お誕生日席の部署長様に言われている。でも王宮のメイドさんが各部署につかれるみたいだから、連れてこなくてもそんなに困ることはないだろうと推察できる。


「そうでしたか?」


 タデウス様は愛想もない塩対応だ。


 やがて鐘が鳴り響いた。

 皆様が席につかれて、書類に目を通し出す。その速度がすごい。白い箱に積まれた書類はあっという間になくなるのかと思ったら……始まって10分もしてないのに、ノック音がして人が入ってきて、皆様の白い箱の中に書類を追加していく。

 他の方たちの書類も合わせてやってくれということだったので、青い箱のものは集めて部署長様に。赤い箱のものは回収して階分けをしていく。ある程度溜まってきたので、各部署に戻しにいく事にする。


 階ごとなら枚数もそんなにあるわけでないので、部署に分けるのも面倒ではない。

 2階は圧倒的に5の部署が多い。

 それぞれの部署にノックをして入り、メイドさんだか侍従の方々に返却分を受け取ってもらう。

 5の部署は、わたしが27部署から来たと告げるとキッと見上げてきて、その書類の量に眉根を寄せる。


「また戻しやがった。何が悪いっつーんだよ」


「いい加減通らないと春の夜会がめちゃくちゃになるだろうよ」


「それよりこっちだ。雨季までに間に合わなかったらどんな被害になるか」


 非常に切羽詰まっているみたいだけど。

 4階、3階とお戻しをして、部屋へと帰る。ハイマーさんがお茶を入れてくれていた。


「すみません、ありがとうございます」


「いいえ、私の仕事でもあるから気にしないで」


 とニコッと微笑む。

 溜まってくると届けに行くのを繰り返し、休憩時間に近くなった。ハイマーさんと一緒にお茶の用意をしに給湯室に行く。朝よりもいっぱいの人が慌ただしくお茶の用意をしていた。お菓子を取ってくるのでとお茶の用意を任される。休憩のお茶は27部署では紅茶と決まっているそうだ。


 ポットと茶器と魔法瓶を載せてワゴンに積み込む。お菓子を持ってきたハイマーさんと一緒に部屋に戻った。

 捨て湯でカップとポットを温めて、丁寧に紅茶を入れる。蒸らす時間を終えたところで鐘が一つなった。皆さんがのびをしたりして体をほぐし出す。

 お一人お一人に紅茶とお菓子を持っていった。

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