ー33ー
「あ!」
ふぅ〜! やっと外に……出れたぜ。
「おかえりなさいませ! ダンジョン探索お疲れ様です!」
……や、やっと外だー!
ひ、久しぶりの外はキ、キレイダナー。
「こちらに書類の記載をお願いします」
うん……あのさぁ。え? 何これ。
外に出れたと思ったら役所だったんですけど。
受付のお姉さんから差し出されたバインダーにすらすらと書いていくリーダーっぽい雰囲気のメカメカさん。
スーツ姿の綺麗なお姉さんが挨拶してくれるけどさぁ。なんか……なんか、おかしくない?
俺たちの姿にびっくりしないの?
さっきまでいた場所はダンジョンなの?
ていうか、今の日本ではダンジョン探索は一般的な仕事になってたの?
脳内で暴れ狂う疑問符。
俺はもうすっごいキョロキョロしていた。
キョロキョロキョロぉぉ!
すごすぎて首をぐるんぐるん一回転ぐらいしてる気がする。そんな俺にモカちゃんが首をコテンと倒して可愛い眼差して見てきた。
「何してるのじゃ?」
いつもならなんとか自分を落ち着かせるが、わけわからん状況に脳が大パニックだった。
沈没する船で最後の時間を過ごす男女のロマンチックな映画を見ていたはずなのに、突然女性がエイリアンに変化して男性を頭からカニバリズムする展開の気分だ。
いい例えができて満足げだったが、よくよく考えてみるとわけがわからない。
……ふ、ふぅ。
むしろ少し落ち着いた気がする。
さっきの恥ずかしい例えはバットでボコボコにぶっ壊してから周囲を眺めた。
メカメカさんたちは代表のリーダーが記入するだけで終わりのようで次々に役所から去っていく。
しかしそんなことはどうでもいい。
仕事をしている役所の人たちが気になってしょうがない。
全員がビシッとスーツを着こなしているが、妙にファンタジーチック。
頭頂部に可愛い耳から悪魔っぽい耳。果てには天使の輪っかみたいな物があるやつまでいると来た。
それと大多数の人はメカメカさんと同じように、少年心をくすぐる機械を装着している。
脳へ一気に驚きという名のストレスがかかったせいでメーターがぶっ壊れた。むしろ落ち着き払い、ふむふむと小さく頷く。
今の俺は秘境の山奥で何年も修行した仙人ぐらいのレベル。
ふぅむ、ふぅむ。全て理解した。
実験所みたいなのが役所の地下にあるってことは、俺は公務員的なあれになっていたんだろう。
いや、意味わからんわ!
「では最後に皆様、こちらの端末へ皆様のダンジョンの進行状況や赴いた場所の記録をお願いします!」
あ、はい。
とりあえず指示されたタッチパネルへ大きな手を乗せてペタペタする。身体は大きくなったが俺はどこまでいっても日本人。役所の人に命令されればどんなことにでも唯々諾々に従う社会人。
悲しいが、これが性ってやつだ。
「私たちはさっきのやつらの手伝いで潜っていたから探索者ではない。何か必要な書類などが入用ならこいつらに送りつけといてくれ。名前は確か……ゲールハルト・ステュッツマンだったかな? ま、お前の権限じゃ検索できないだろうから、上司に報告しといてくれ」
あの人そんなにカッコいい名前だったの?
俺も改名したいんだけど、ここで手続きできる?
タッチパネルから手のひらをどけると、俺が乗せていた部分が青紫色に変色し若干溶けていた。
……もしかして弁償しないといけない感じ?
ちらっとお姉さんを伺えばいつのまにか消えていた。多分上司に報告をするためだろう。
激しくドクドク言う心臓を抑えながらモカちゃんを探せば、役所から外へ行こうとしていた。足を動かし、そそくさとタッチパネルから逃げた。
……お、俺のせいじゃない。
あのお姉さんが俺に指示したせいだ。
言い訳しながらモカちゃんの後ろにぴったりくっつけば、モカちゃんが顔をキリッと決めながら俺を見る。
「よぉし、やっと地上なのじゃー! すでに口座を凍結されている可能性もあるが、万が一あるのじゃ。もしまだだったら全額下ろしてパーッとするのじゃ!」
どんだけ金を持っているか知らんが、だらしない顔になるモカちゃん。やっぱり子供っぽいモカちゃんに俺はほっこりした。
やっと、やっと外だぁぁぁ!
さんさんと俺たちを照らす太陽。どこまでも澄み渡った空気は美味しい。大きく腕を伸ばし身体を伸ばす。
ひゅ〜! 最高だぜぇぇ!
狭っ苦しい役所から解放されその場で軽くストレッチ。見なければよかったと思うが、どうせ早いか遅いかの違いだろう。
空を見た俺は固まった。
……え? なんか映像っぽいんだけど。
目をカァッ!! と開き、太陽から雲をジロジロ見る。かなり高画質だが、俺のスーパーアイを騙せるわけがない。
どう見ても空にあるものは全て偽物、紛い物だった。
うぉぉぉい!
これのどこが外なんだよ! また屋内じゃねぇかぁぁぁ!!
思わず渾身のツッコミ。
そのままわんわんおーすれば、正面にあった大きなビルから近隣にあった全てのビルのガラスが粉々に割れ、地面に何本もの亀裂が入った。
あ、やっべ。
後悔したが時すでに遅し。
「な、何してるんだ! このバカチン!! 早く隠れるぞ!!」
モカちゃんが「のじゃ」を忘れてワーム君に跨った。
何してるの?
「キュイ?」
俺と同じような雰囲気のワーム君。
迷惑そうに背中に乗ってきたモカちゃんを見てから、俺を見た。
いや、まぁ……俺もいきなり背に乗られたらそんな反応になるよ。
「早くしないと捕まるぞォォ!」
モカちゃんはワーム君の腹をゲシゲシ蹴るが、今のワーム君は子犬サイズ。むしろ動物虐待にしか見えない。
ただ、捕まると言う不穏な言葉に俺はワーム君とモカちゃんを抱き上げてその場から走った、走り続けた。
捕まった友人を助けるメロスぐらい駆けた。
ぶぉぉぉぉん!!
その勢いでさらに景観がぶっ壊れていくが気にしない。豚箱に叩き込まれるぐらいなら俺は走り続ける。
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