ー32ー
……ぅうん。
そっと視線を逸らして観葉植物ママを見れば、両腕を組んでドヤ顔。俺の視線に気づけば、大きく息を吸って鼻からムフーと吐き出す。
相変わらず触手先輩の上に乗ってるし、なんか筋骨隆々のムキムキの両腕も観葉植物さんの真似して腕を組んでる。
……触手先輩から尻尾のように出ている、すね毛がちょろちょろしている足も二本に増えて、足を組んでいた。
あ、頭が痛い。
俺を除いた全員が変なベクトルに進化。思わず眉間をモミモミしていると、視線上に変な色をした鱗粉が飛び散っていた。
その方向の先を見ればふらふら飛んでいる汚い妖精。
はろ〜!
モカちゃんの太もも辺りにペタッとへばり付いた。まるでセクハラにしか見えないが、汚い妖精は一応可愛い見た目をしている。
もしこれがおっさんみたいに「うへへっ」って言っていたら、俺は汚い妖精をゴミ箱にボッシュートしていた。
汚い妖精は少しずつ登っていき青い花に近づくと、どこから出したのかストローを青い花に突き刺してちゅうちゅう吸い始める。
……おいしい?
いい加減ツッコむのは諦めた。そもそも俺はツッコミ担当でもないし、芸人を目指しているわけでもない。
そんな気分で汚い妖精へ心の中で問えば、汚い妖精は俺に顔を向け心底ムカつく表情で親指をグッと伸ばしサムズアップした。
イラッとしたが、これ以上ツッコミをしないと俺は決めている。ぷいっと顔を背け、足取り遅いモカちゃんに着いて歩いていると、ヒュンヒュン小うるさい飛行機音を出しながらメカメカしい集団が群がってきた。
……誰ですか?
あ! もしかしてモフモフで可愛らしい愛玩動物的な俺のファン?
しょうがねぇな! ペンと色紙を用意しな!
ツッコミはしないと言ったが、ボケをしないとは言っていない。
くだらないボケをかますが、当然メカメカさんたちは俺のファンでもない。むしろ俺たちをすっごい警戒しているのが丸わかりなほど、ジリジリと一定距離を保ちながらよくわからん銃火器の照準を向けてくる。
やめてくれる?
なんか一人だけ妙に近い距離でやたら熱い視線を送ってくる。ていうか、もろに銃火器の先端が俺の長い体毛に当たってるから、気になってしょうがねぇ。
そいつを見ればメカメカさんたちの中で一番華奢な見た目。鬱陶しいから銃火器をペシっと叩けば、銃火器は根本から飴細工みたいにぐにゃりと曲がった。
あ! ご、ごめん。
わざとじゃないよ?
「……ッ!」
うるうるしながらその人を見れば、ゴテゴテのマスクをしていて表情はわからないがどことなく息を呑んだ雰囲気。
今度はそっとデコピンぐらいの勢いで逆方向へピンッと弾いた。
「……ッ!?」
……なんか蛇腹みたいにぐにゃぐにゃになったけど俺のせいじゃないよね?
ぐんにゃぐんにゃになった銃火器に立ち止まって呆然となった感じの華奢なメカメカさん。
お、俺は関係ないよねぇ?
む、むしろそんな柔らかい武器を使う方が悪いと思うね。だから俺に代金の請求をしても今の俺に金なんてあるわけないし、無い袖は触れない。
そんなニュアンスで体毛をふぁさふぁさっ、と華奢なメカメカさんにぶつけてから俺は足を回した。
ちょっとだけ離れたモカちゃんに急いで追いつき背中にピタリと張り付いていると、モカちゃんが何やら一段と目立つ装備をつけているメカメカさんと喋っていた。
なんかすっげぇ物騒な話をしている。
結構小難しい話だから聡明な俺が要約してやろう!
なんか緊急事態が
……う、うん。
聞いたこともない長い横文字使うし、初めて聞いた単語が多すぎるんよ。
専門家じゃない俺がわかるわけがねぇだろ!
ぷんぷん丸になりながら着いていけば、ようやく目的地に到着したらしい。顔を上げれば俺がここまで登ってきた大きなエレベーターと少し似ている大きな扉。
なんだ? また俺が回し蹴りでもすればいいのか? やれやれ、と肩を回しているとモカちゃんと会話していたメカメカさんが扉に近づき、手のひらをくっつけた。
ふっ。そんなことで開くわけがなかろう!
我らの軍師モカちゃんだってそう簡単にできなかったんだぞ!
ウィィーン。
普通に開いた。
なんだよ、その効果音。
ここはデパートかよ。
「……まだ飛ばされてなかったか」
流石の俺もツッコミを堪えられず、ツッコミ芸を披露していると、横にいたメカメカさんの一人が小さく呟いたのが聞こえた。
と、飛ばされる?
どういうことよ。もしかして飛ばされたらまたアホみたいに長いエレベーターを登るハメになってた感じ?
また蜘蛛みたいにカサカサするのは勘弁だった。ただでさえ疲れるのに、どうせここにも魔力うんぬんの阻害があるに決まっている。
そそくさと開いたエレベーターに搭乗。
初めて乗ったエレベーターに俺は内心ワクワクしていた。
周囲は全面真っ白。見たこともない素材がふんだんに使われ、一つの隙間もなく綺麗になっていた。
どう考えても超文明とかを彷彿とさせる何か。
俺がちょっと寝ていた間に日本はスーパー
大きな空間だがそれでも俺の体はかなり大きいようで、身を屈めないとちょっと窮屈。どっこらせ、と勢いよく座れば、さっき銃火器をぐんにゃぐんにゃをしちゃった華奢なメカメカさんがビクゥゥッっと肩を驚かせた。
可愛い反応に俺は小さく微笑む。
……微笑んだはずなのに華奢なメカメカさんは俺の顔を見て後退りをした。
ひ、ひどい。
ドアがゆっくり閉まると、身体に少しずつ重力がかかってきた。エレベーターが上昇しているんだろう。
多分。
ながい。長すぎるよ。
いつになったら着くんですかねぇ?
……は!?
もしかしてさっきいってた緊急事態の
周りを見るが、全員慌てた様子もなく落ち着き払っている。
気のせいだった。
しっかし長いなぁ、もう数十分は乗ってる気がするぞ。
そんな俺の心の声を代弁するようにワーム君がきゅきゅいとモカちゃんに鳴いた。
「ん? あぁ、自力で登った魔導式軌道エレベーターとはちょっと違うな。これはまた別の名称で……うん?」
「きゅっ」
「そんなことはどうでもいいって? お前、最近私に対して言い方が悪いと思うぞ。ゴホンッ、今乗っているのは合間合間に次元移動を挟んでいるんだ。次元移動とは……」
「きゅい!!」
「……なんでお前は私に気持ち良く喋らせてくれないんだ? はぁ……その次元移動のせいでどうしても時間を食うんだ。ま、ようするに魔導式軌道エレベーターは弱い魔染生命体や低位の魔獣たちを阻止できるが、それ以上は無理」
「きゅ?」
「そうだ、ようは私たちのことだな。安易に地下都市から逃げようとして天井をぶっ壊し、登ろうとしても外に出ることは叶わない。だから必ずここを経由して移動するか、次元移動できる個体じゃなきゃ出れない。まぁ、私たちだったら悪魔の書あたりが古代魔術を使用すれば飛べるんじゃないかな? だからといってあまりおすすめしないがね。私と人狼は……ぎりぎり肉達磨になる程度だが、お前やアルラウネに妖精の亜種は体がミキサーにぶちこまれたようにぐちゃぐちゃになる。仮に私たちのように肉達磨になって成功したとしても頭がパッパラパーだ」
ハハハッ!
よくわからんが、わかった。
うん……ほ、本当だよ?
周囲を見れば、全員ワーム君とモカちゃんの話を俺と同じように聞いていた。
メカメカさんたちはどこか呆れた様子。観葉植物ママと触手先輩はドヤ顔。汚い妖精はモカちゃんの青い花とプロレスしていた。
なんかモカちゃんの足から生えてる青い花が大きくなった気がするが気のせいだろう。
つまり、このエレベーターを使わないと地上に出れないってことだな!
体育座りをした俺はエレベーターが止まるのを待った。
チンッ。
あっ、やっとついた。
つうか「チンッ」って本格的にデパートのエレベーターかよ。
ゆっくり開かれるエレベーターのドア。眩しい光が少しずつ入ってきて、顔にかかると俺は思わず目を細めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます