=2=
メキメキだったり、ボキボキ、ボロボロ、グシャグシャ!! っ音を立てながらローブさんが変身した。
……前半はまだいい、前半は。
でもよ、後半の効果音どうなってんだよ。
おかしいだろ。
どう聞いても骨が粉砕した音にしか聞こえねぇよ。
そして当のローブさんは新種の生き物の見た目に変身していた。
ちょちょいと説明するとしたら、サイのように太い四本足に身体は子鹿のようにほっそりしていて柔らかそうな毛並み。
ただ……頭部はのっぺらぼうみたいに丸い金属があって、そこから長いツノが額……額? らへんから、ツノが捩れるように飛び出て、途中から後方へ伸びている。
ローブさんは機械系SFとファンタジーを無理やり魔融合したポニーテール生物になっていた。
うん。意味がわからん。
何? そのツノはポニーテールでもイメージしてんの?
とりあえずローブさんに先手を与えるわけにはいかない。だって、さっきは微塵たりとも魔力とかいうやつがなかったのにポニーテール生物になってからは半端なく出ている。
現にリンをちらっと見れば口から吐瀉物をゲーゲー吐いている。同級生の上に同じ教室で授業を受けている俺がまじまじと見ればリンも恥ずかしいだろう。
俺はサッと視線を戻してローブさんの元へ駆けた。
ローブさんが避ける前にチャーミングなポニーテールを鷲済みにし、地面に何度も叩きつけそのまま投げ飛ばす。
そのままで終わらせるはずもなく、俺はすぐさま地面をぶち破る勢いで思いっきり足に力を入れ、ローブさんが壁に当たる前に飛び蹴りをかました。
リンの恋人かもしれないがこんなやつが地上に出れば、どんなやばい公然猥褻なプレイをするか知れたもんじゃない。
つうか明らかに俺へ敵愾心剥き出しで攻撃してきたし、許せるわけがない。
私怨だと思えるがほんのちょっとだけだ。本当だ、本当。
俺はちょっとモフモフだが正義のヒーロー的なあれ。
私怨で動くわけがない!!
そのまま綺麗にソバットを決め、壁にめり込んだローブさんのブローに何度も俺の拳を叩きつけた。
こんのぼけェェ! よくも変な物体と戦わせたなァ!
ぜってぇに許せぇねェよォ! あの変なビームもお前が発射してんの気付いてるからなァァ!
ローブさんをそのまま壁と一体化させる勢いでボコボコに殴る。決してこいつに反撃させないてはいけない。
地下深くから出た後、散々苦労した俺は知っている。
こういうやつはこの程度では死なないし、頭がおかしいぐらいに耐久力がある。
つまり、すっげぇ面倒な相手だ。
これは下水道に行かされた分!
ドンッ!!
これは変なやつらと戦った分!
ドンッッ!!
これはやっべぇビームの分だァァァ!
ドドンッッッ!!
最後に最大限の拳を叩きつければ、ローブさんは壁の奥へ埋まっていった。
ふぅ! よしッ。
……あっ、リンに破廉恥なプレイした分を忘れていた。成人した俺でも可愛いなぁ、と思っていたリンと隠れて逢引していたことに嫉妬したわけじゃない。
思いっきり足を引きつけ、前蹴りを叩きつけようとした瞬間、俺が後方へ吹き飛んだ。
ーリン:
身体という身体が狂ったように震え、私は口から夥しい量の黒い何かを吐き出ていた。
巨大な人と狼を混ぜた魔族のせいもあったが、それ以上に間近で私をここへ連れた魔族が本来の姿に変化する時に飛び出た悍ましい魔力のせいだった。
ひたすら吐き続け、内臓すら口から飛び出しそうになっていると、ドォカァァン!! 凄まじい音が響いた。
吐き気を堪えながら顔をあげれば、二体の魔族が戦いを繰り広げていた。まるでかつて存在した旧人類史の神話を彷彿とする凄まじい攻防。
一方が滅多打ちのように攻撃をすれば、もう一方は金属の頭から生じた魔術で吹き飛ばす。目まぐるしく変わっていく闘争と荒れ狂う悍ましい魔力に私は気絶しそうになっていた。
「ほう? ちんけな魔族がいると思ってだけだったが、これはこれは……」
私と魔族二体以外に誰もいないはずの場所に私以外の声が聞こえてきた。そっちを見て、私は言葉を詰まらせる。
「え、なッ!?」
そこには神に愛されたと疑うほどに美しい少女がいた。
ただし、それは外見だけ。
まるで地上で跋扈している魔物と魔獣をミンチにして無理やり詰め込んだ喋る肉袋。
「初めまして、になるかな? 私の名前はモ……ふぅむ。正式にまだ改名していないが、かつての名前は捨てた身。ここではササキモカとでも名乗るべきかな?」
生きていることすら不可解なのにその子は平然と会話をした。しかも同級生のササキ君と同じ姓を語っている。
正気の沙汰ではない存在に私は返事ができない。
「オ……ィ……」
二足歩行の狼の魔族は戦いながら、少女といってはいいかわからない者へ話しかけた。
「はぁ、まだ拗ねているのか? あれは私のせいじゃないだろうに……あ、その話じゃないって? ふぅむ、様子から見て同じ姓を使うなってことかな? 私たちは家族みたいなもんだろう、それぐらいケチケチするな。というか他のやつらはみんなお前の名前を使っているんだから、私だけ除け者にするのはどうかと思うぞ」
その子はぷくっと口を膨らませ本当の少女のように感情を顕にするが、私には肉の塊にしか見えない。
「お前……さっきからジロジロ鬱陶しいな」
その子がぐるんと百八十度首を回転して私を見た。さっきまでは美しい顔だったのに、今はドロドロに溶けた魔物のような顔になっていた。
思わず後退りをすると、女の子が一瞬で私の横へ立ち、首に何かを刺された。
「邪魔だから寝てろ」
意識が消える前、聞こえたのは凍えるほど冷たい声だった。
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