ー28ー


 おぉー! ちょっとボロいなって思ったけど、中はいかにも酒場って感じやん!


 豚の皮をまとったオークさんだったり、ゴブリンの頭をナックルダスターみたいに腰に下げてる女性だったりと実に賑やか。三つ隣の席なんて、大きな頭蓋骨に注がれた酒を直で飲んでいる。


 うぅん……そっと視線を逸らした。

 俺は何も見てないし、君たちも見ていない。いいね?


 酒場は酒場でも物騒すぎる酒場だった。定番の異世界ファンタジーだったら山賊の拠点か闇ギルドを彷彿とさせる。

 やたら俺たちに注がれる熱い視線。ドキマギしながら背を丸めてちょこちょこ進む俺。

 山賊たちから注がれる熱い視線が怖い。


 モカちゃんがちっちゃいバッグを一つの空きテーブルの上に放り投げると、テクテクとバーテンダーっぽい筋骨隆々のおっさんの方へ走った。


 どっこらせ。


 空きテーブルの椅子に座ろうとしたが大きな身体の俺には到底無理だった。尻尾ぐらいしか座れない。

 とりあえず俺は地面にどしっりと座った。そして椅子を一つ引いてその上に尻尾を乗せる。いくら掃除してるからといっても地面に綺麗な尻尾は置きたくない。


 モカちゃんを見れば、おっさんと楽しそうに井戸端会議。

 手持ち無沙汰になった俺は周りを興味津々でキョロキョロしていたワーム君を抱き寄せた。


「きゅぅぅ?」


 ほっこり。

 頭を傾げたワーム君を胡座をかいた俺の膝の上に移動させ毛繕いをしてやる。気持ちよさそうにワーム君が目を細めた。


「きゅいきゅい!」


 う、ういやつめ。

 ワシャワシャしてやる!


 ……ちらっ。


 さっきから視界からシャットアウトしてたんだけどさぁ。なんで、ママと先輩はドア付近でオブジェクト化してるんですかねぇ?

 君たちは魔王城のガーゴイル的なやつなの?

 意味わかんねぇよ。


 あっ、ほら。

 今店に入ってきたお客さんたちなんて、最初俺を見て口をあんぐり開き、次に二人を見てすっごい綺麗な二度見してるやん。


 心の中でお客さんの実況していると、店員らしき人が近づいてきた。

 頭頂部から二本の猫耳。お尻からもひょっこりと長い尻尾。お顔もめっちゃんこ可愛いけど、やたら重そうに大きな物を持っている。


 俺がついつい店員さんに見とれているとワーム君が俺の腕にカプッと甘噛みしてきた。


 なんぞや?

 嫉妬したの?


 嫉妬中のワーム君の頭をわしゃわしゃしてから視線を戻せば、猫の店員さんがひーこらしながら俺たちのテーブルへ次々と食べ物を置いていく。

 顔を真っ青にして大きく深呼吸すると最後に酒樽を担いで持ってきた。


 あ、ありがとうございます。


 小さく会釈すれば店員さんは困り顔でそそくさと裏へ戻っていった。

 た、多分次はオブジェクトになっている観葉植物ママ、触手本先輩の料理を取りに行ったんだろう。


 ぜ、絶対に俺にびびったとかじゃない。

 こんなダンディズムを感じる俺を怖がるなんてありえん!


 キューティクルな鼻を動かし、クンクン。


 素晴らしい美味しい匂いが漂ってきた。ワーム君も身体を目一杯に伸ばし、机の上をじーと見ている。

 頭を軽く撫でてやり、ビーフジャーキーっぽい肉を一枚ワーム君の口元に持ってきてやる。ワーム君はきゅいっと鳴いてすごく美味そうに食べる。

 たまらず俺ももう一枚の肉片を持って口に放り込んだ。



 うっま!!



 今まで地下で食った美食の数々がさらさらと頭から消えていく。


 頭が二つある生物。青い生肉。変な木の実。気持ち悪いトカゲ。意味不明なワニ。ぶよぶよした動く肉の塊。大きな触手。


 ……ヤッベェ思い出しか出てこねぇ。俺は何が悲しくて薬品漬けの肉や化け物を食べて美味しい美味しいって言ってたんだろ。



 う、うぅ。



 久しぶりに食べた文明的な食べ物は俺の涙腺を熱くさせた。

 美味い食べ物の前でいつまでも泣いててもしょうがない。俺は頬をペシペシ叩いてから腕まくりするような感じで気合いを入れた。


 みんなぁ!!

 俺、酒樽を一口で飲み干してやんよ!!

 俺の勇姿を見てくれよ!


 酒樽を持ち上げ一気に口へドバドバと入れた。


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