ー26ー
カシャ、カシャカシャ。
ガシャ、ガシャガシャ。
……蜘蛛家族の大移動かな?
ちょいちょい飛んでくる光に身体がピリピリするけど、俺は元気に登っています。
しっかし結構登ってんのに全然先が見えん。
どんだけ長いのよ。
そろそろ俺もモカちゃんに不信感を持ち始めていた。じー。
「の、のじゃー!! ぶらんぶらんされて怖いのじゃー! 人狼助けてなのじゃー!!」
俺にねっとり見られていることに気づいたモカちゃんはわざとらしい語尾を上げて助けを乞いてきた。
ふん。
無視だ、無視。
お前は一度反省したほうがいい。
宙吊り状態のモカちゃんを無視して登っていく。さらに数十分、意外なことにこの馬鹿長い魔導うんちゃらエレベーターの天井が見えてきた。
しかし周囲には四つのドアっぽい箇所。天井から突き出た突起物にぶら下がりながらモカちゃんに視線を向ける。
「馬鹿人狼! 早くあのドアをあげるのじゃー! 可愛いわたしの顔が吐瀉物まみれになるのを見たくないのなら、はやくするのじゃー!!」
えぇ? モカちゃんさぁ、少し前まで君とか人狼とか呼んでたのに、馬鹿人狼ってひどくない?
そんなモカちゃんは必死に口を抑えながら、バンドマンみたいに同じ方向へ頭を何度もスイング。
しょうがねぇなぁ。
バントマンモカちゃんが指示したドアの隙間に爪を食い込ませ、ガッシャン! と思いっきりこじあけた。
「はぁはぁ……このクソ本わたしに遠慮がなさすぎるのじゃ。と、とりあえず、ここまで来ればさっきみたいな魔獣とか来ないはずなのじゃ。途中途中で強力な魔力阻害装置と魔力攪乱装置があったのじゃが……ふぅ。やはらお前らはそれらが効かなかったようなのじゃな! 流石なのじゃ!」
ほぇ〜。
……うん!?
思わずひーこら激しい息を繰り返しているモカちゃんを二度見した。
も、もしその魔力うんぬんで阻害されたらどうなるんよ?
「きゅきゅ?」
俺の心を代弁するようにワーム君がモカちゃんに聞いた。
「うん? 魔獣とかは大部分を魔力によって構成されているから、阻害と攪乱されれば当然身体が硬直して、このエレベーターの奥底に落ちるのじゃ!」
えぇ? そういう大事なことは早く言ってくれない?
……登れたから良しとするけどさぁ。
万が一魔獣が登ってこれないようエレベーターのドアを無理やり閉めた。
モカちゃんが言うにはかなり安全な場所。モカちゃんが小さい足をとことこと動かし先頭を歩く。
確かに周囲を見れば清潔感が保たれているようで化け物が暴れた様子ない。というかすっごい綺麗。
「久しぶりにここまできたのじゃ! あっ、なんでもないのじゃ。あ、あぁ〜ここはどんなところなのじゃ~」
モカちゃん、所々設定が甘いよ。
薄々俺も気づいてるけど、見て見ぬふりしてるんだから気をつけてね?
モカちゃんは何かに気づくとテテテ、とかけていった。
危機感が無いなぁ。
とりあえずその後ろを俺たちは追いかけた。
ここもうるさいアラームが鳴ったんだろうな。
結構歩いたけど、だーれもいない。
ちょいちょい部屋を覗けばやよく研究所にいそうな可愛いモルモットやゴブリンにオークのモンスターがたくさんいっぱいいた。
ただ全員毎日ご飯を与えられているのか元気いっぱいに騒いでいる。
や、やっぱり下と比べると安全だなぁ。
俺もここで愛くるしい動物として過ごしたかったよ。
モカちゃんが一つの部屋に入ると俺たちを手招き。中へ入れば保管庫らしき場所。モカちゃんはそれこそ全ての保管物を開け、近くにあったバックへ詰めていく。
完全に強盗ですね。
ありがとうございます。
特にすることもなく部屋の片隅で体育座り。俺の膝の上で汚い妖精も体育座り。ぼけぇ〜っと眺めているとモカちゃんがこっちへ振り向いた。
「よし、これぐらいでいいのじゃ! お前ら早くこれを持つのじゃ! 地上に行くとき、必ず役立つから慎重に運ぶのじゃ〜!」
本当に言ってる?
さっき久しぶりにここまで来たって言ってたの聞こえてるからね?
もうモカちゃんに対する不信感は半端ない。
だとしても俺たちはモカちゃんに縋るしかない。俺も人間だけどぱっと見はとんでもねぇ体毛が生えている。
万が一いや百が一に俺が化け物だと思われたらどうしようもない。
はぁ……ため息をこぼしパンパンに詰められたバックを二つ三つ持ち上げれば、汚い妖精も小さなビンを持ってパタパタ飛んでいた。
はろー!
意外といいやつじゃん。汚い妖精への株を上げた。そしてママと先輩は蔦や触手を使い残った全てのバッグを持ち上げ、ワーム君も子供用のバックを咥えていた。
とことこ歩いて数分。
俺たちは海外旅行をするように大量の荷物を抱え、出口へ向かっていた。
うん? なんでお前出口に向かっているってわかるんだって?
さっきの保管庫らしき場所に地図があったからだよ!
え? お前文字読めたのかって? うるせぇーなー!
日本語書いてあったんだからわかるに決まってんだろ!
お、そろそろ出口かな?
遠くにドアを見つけたが、案の定閉まっている。
遠い。遠すぎない?
ドアを見つけたのに全然着く気配がない。
そこから数分。ようやく到着。
このドア馬鹿デカすぎやろ。
口を半開きにアホみたいな顔でドアを見れば、二十メートルぐらいの大きさ。どう考えても分厚そうで今まで通ってきた比じゃない。
どっこらせ。バックをママに渡し、俺は軽く殴って見た。
「ドォォーン!!」
かてぇぇ!! 手がいてぇぇぇ!
返ってきたのはやたら重厚な響き。俺は半目になりながらお手手を摩りながら殴ったところを見る。
そこには少しだけ凹みができた殴り跡。
「馬鹿人狼なにしてるのじゃ? ここのドアは厚さだけで有に十メートルぐらいあるのじゃ。そうそう簡単に開けられるわけないのに……本当バカ力なのじゃ。なんで私が余裕で入るぐらいの凹みできるのじゃ?」
語尾ののじゃのじゃの主張が激しすぎる。そこまでも言わんでもいいと思うが、それ以上に俺はついわんわんおーをした。
そういうことは早く言え!
わんわんおー!
俺が渾身のツッコミわんわんおーをしている横で、モカちゃんはさっき持ってきたバッグから色々取り出して組み合わせていた。
じろじろ見ても全く意味がわからない。
その拳大ぐらいの目玉は何に使うの?
……えぇ? なんで黒目部分に電線を差し込んでるの?
掌サイズの大きな青紫色の舌を取り出し、機械をカチャカチャ取り付けるモカちゃん。そろそろ頭から火が吹きそうだった。
「よーし! これでいいのじゃー! アルウラネ以外は少し向こうに待機してるのじゃ!」
何が良いのか全くわからないが、きっと良いんだろう。
モカちゃんの言うとおりに俺は汚い妖精とワーム君に先輩と一緒にドアから離れた。モカちゃんは観葉植物ママの耳元で何かを言うと、足をワチャワチャしながら猛ダッシュしてきた。
「きゅ」
何やら吹き出したようなワーム君の鳴き声。なぜならすてーん、とモカちゃんが豪快にコケたからだ。
モカちゃんはなんとか立ち上がると、シクシクと袖で顔を拭きながら俺の後ろへ隠れた。
「いいのじゃー!」
何が?
「ドカァァァァァン!!!!」
うおぉぉ! び、びっくりしたぁ。
「のーーじゃーー!!」
俺はなんとか体を伏せて爆風をやり過ごしたが、モカちゃんはそのままコロコロ転がっていく。
爆風が少しずつ消えていき、モクモクした煙も晴れると観葉植物ママが腕組みをしてこちらへドヤ顔をしていた。
悪役の登場シーンかな?
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