ー25ー
石人間を美味しくいただいたワーム君は一気に成長して、大型犬ぐらいの大きさになりました。
成長期かな?
なんかもう考えるのもアホらしくなり、スルーした俺の代わりにモカちゃんがびっくりしてひっくり返ってた。
芸人かよ。
「どうなっている? 幼体であるワームが寄生されることもなく捕食した……だと? 進化を遂げ、顔つきも成体のワームというよりは飛翔型の竜個体に変化。だが、しかし……それでも相手はカーゴイルだぞ。すさまじい寄生能力は様々な幻獣ですら同一個体に変異させる化け物。奥深くに隔離していたγ-203を喰らって正気を保つなんて……」
な、なんか神妙な顔でぶつぶつ言っているけど、専門用語多過ぎでわけわからん!
ワーム君も立派に成長。大型犬になったし、歩く速度は俺ともうほとんど変わらん気がする。俺の介護はもう不要だろう。
そんな考えでモカちゃんを担ぎ上げると、ワーム君が心底悲しそうな声で鳴いた。
「きゅ、きゅぅぅ〜」
「お前はもう大きいから自分で歩くのじゃー! ざまぁなのじゃー!」
俺の肩に乗ってもまだぶつぶつ言っていたが、ワーム君の声にハッとなったモカちゃん。ちっちゃな両手をお口に当ててぷーくすくす、と煽るモカちゃん。
メ、メスガキ感がすごい。
煽られ返す言葉もないのか、ワーム君は両目をうるうるさせながら俺の足に巻き付いてきた。そこでようやく気づいた、俺の下半身がすっぽんぽんだということに。
あれぇすっごい今更だけど俺裸じゃん。
絶対俺の立派な息子がモカちゃんに丸見えだったよな。
け、警察には通報しないでくれ! 養わないといけない家族がいっぱいいるんだ!
ちらっ。
ドキマギしながら下半身を見れば、逞しい体毛はまるでアマゾンの大森林。
う、うん。服を調達するまでモカちゃんは肩に乗せとこう。
未だ「きゅっきゅ」と甘えたような泣いたような声のワーム君がかわいそうになり、俺はワーム君を胸に抱き上げた。
そんな俺にモカちゃんがのじゃのじゃ抗議してきたが当然無視して、ママと先輩が綺麗に掃除してくれた通路を進む。
やたら小さいドアをくぐれば、一瞬の浮遊感。
な、なんぞや!?
敵襲かと思いが、足をパタパタさせたがすぐに二本の足から冷たい地面の感触が跳ね返ってきた。目の前にはとてつもない巨大なドア。そこにもさっきと同じように大量の人の死骸が高く積み上がっている。ただ、さっきと違うのは化け物っぽいのは一切いない。
後ろを急いで振り向いても何も変化はない。
え? 何、今の。
「のじゃー。やっとここまで来れたのじゃー」
いや、今の浮遊感何よ。当たり前のように次に進もうとしないでくれる?
うーん。もしかして人間さん以外はお断りするやつがあったのかな?
そんな俺の予想も一瞬で崩れる。ママと先輩はさも当然のようにくぐってきたからだ。
「のじゃー! おろすのじゃー!!」
あ、はい。
ちょっとパニクったがモカちゃんの声を聞いて反射的に下ろした。下半身はアマゾンを彷彿とさせる大森林、万が一お巡りさんに見られてしまえば言い訳もできずに豚箱に叩き込まれる。
さっと右手で股間の位置あたりに置く。
今更だと思うが、一度文明的な服を着れば裸は恥ずかしい。
モカちゃんが死体の山をカサゴソしている中、俺も仏さんに謝罪しながら比較的大きな白衣を引っ張り出す。
腰になんとか巻き付けていると、モカちゃんが研究者のIDっぽい物を掲げて俺にドヤ顔を披露。そのまま近くの壁に
し〜〜ん。
モカちゃんはもう一度
うん、そりゃそうだろ。
俺でもわかる。どう考えてもここのドアが閉まっていたせいで大量の死体があるんだぜ?
全員からのジト目にモカちゃんは体をプルプルさせ、IDをペッと地面に叩きつけた。
「こ、このドアを開けるのじゃー!!」
はぁ……他力本願かよ。
どうせ、また開けたらあの腹痛巨人とか出てくる展開だろ?
といっても他の出口なんて知らない俺たち一行。俺は半ば諦めながらワーム君を胸から下ろしてやり、軽くその場でジャンプ。
大きなドアの前に立ち、体を思いっきり捻って回し蹴りを放つ。
「ドカァァァン!!」
馬鹿でかい音が響くとドアが吹き飛んでいった。
よ、よわ。
人間さんたちこんなドアに手こずってたの?
ドアの弱さに呆れながら開いた場所から顔をひょっこり。中は円状に半径五メートルほどの空間がある。
下を見ても先が見えないほどの暗闇、上も見ても同じ。
うーん、エレベーターか?
「魔導式軌道エレベーターなのじゃ! 一キロぐらい登れば大丈夫なのじゃ!」
い、一キロ?
どんだけ地下深くにあるんだよ。
俺が驚いていると、観葉植物ママが口からシュルシュル蔦を伸ばしてワーム君の胴体を巻き付けた。ワーム君もワーム君で暴れることもなくなすがまま。ママの頭頂部の赤い花をリクライニングソファーさながら座っている汚い妖精が大きなあくびをかませば、ワーム君にも移ったようようで小さくあくび。
君たち仲良しかよ。
次に観葉植物ママは手足だけを大きなムカデみたいに変化させると壁に張り付いて登っていた。
口を半開きにし呆然していると何やらモカちゃんの騒がしい声。すぐにそっちを見れば、触手本先輩が二本の触手でモカちゃんの足に絡みついていた。
「なんなのじゃー!! 食べたっておいしくないのじゃーー!!」
モカちゃんは必死の形相で暴れるが触手本先輩は無視して観葉植物ママを追って壁を登る。腹痛巨人の六本の腕が器用に動いているが、どう見てもヤッベェ化け物。
こ、こんな集団が突然地上に現われたらやばくない?
本当に大丈夫?
戦々恐々だったが、一人取り残される方がもっとおっかない。
俺は壁から出ている凸凹を利用しながらロッククライミングの要領で後を追った。
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