ー21ー


 うぅぅん。今日はずる休みせずに仕事行くから……行くからぁ。


 ……グガァー。



 本当……本当だから。


 ……グガァー。



 かぷっ。



 いてぇッッ!

 この犬っころ! よくもご主人様に噛みつきやがったな!!



 手のひらの痛みに目を覚ませば、汚いてぃんかー……ご、ごほん。煤の中に飛び込んだように黒く汚れた妖精みたいなやつが俺の手のひらに噛み付いていた。


 だ、だれよ?


 俺が起きたことに気づいた汚れてる妖精は俺から離れ、二枚の小汚い羽をせわしなく動かし空中でホバリング。

 じとー、と呆れた視線を向けてくる。妙に引きちぎられた尻尾か昔飼ってたクロに似ている。


 うん。た、多分あれなんだろう。俺の尻尾は妖精だったってことなんだ。


 だったらお前、今尻尾がないことになるんじゃね? ってなるが、尻尾に意識を向ければパタパタ動く俺の自慢のモフモフ尻尾。

 指を入れれば最高級の絹の触り心地。


 気持ち良いなりぃ……。


「きゅっきゅ!!」


 モフモフ尻尾にトリップしていたらワーム君の声。

 けどなんでだろう、やたら甲高い気がする。ちらっ。


 ワ、ワーム君が一回りレベルじゃないほど小さくなってた。


 子犬ぐらいの大きさじゃん……ちっちゃ。

 まぁ可愛いからいいけどさぁ〜。



 え!? ど、ど、どういうこと?

 よくないわ! ワーム君大丈夫!?



「やっと起きたのじゃー! 遅すぎなのじゃ!! もう半日ぐらいずっと待ってたのじゃ!! お腹減ったのじゃー!!」


 モカちゃんの駄々をこねる声。実際に地面で両手両足をバタバタさせていた。まるでデパートでおもちゃを買ってくれるまで引き下がらない少年。


 なんか。見た目だけじゃなくて、精神が更に幼なくなってね?


 とりあえずノソノソと近づいてきたワーム君の頭をそっと撫でる。すると目を細めぴーぴー気持ちよさそうな声。


 かわいい。



 はろー!



 汚い妖精は嫉妬したようにむっとした顔を浮かべ、ワーム君を見る。すぐにバタバタと二枚の羽を使いワーム君の頭に座った。


「きゅい〜?」


 ワーム君は小さくコテンと首を倒すと、汚い妖精が落ちそうになった。汚い妖精はワーム君に抗議するがワーム君はよくわからないご様子。


 ほっこり。


 汚い妖精が湧いた理由も尻尾が妖精だったこともどうでもいい。ワーム君と汚い妖精のやりとりが絵本に出てくるキャラクターたちのようで俺の心が和らぐ。


 左指で汚い妖精の頭をちょこんと撫で、右手でそっともう一度ワーム君を撫でてやった。



 はろー!

「ぴーぴー!」



 うんうん。喧嘩しないようにね?


 仲直りしたワーム君と汚い妖精を胡坐をかいた俺の膝の上に乗せ、周囲を見渡す。


「のじゃー!! のじゃー!!」


 ……モカちゃんは無視だ。

 耳に蓋をしてたけど、いつまでのじゃのじゃ騒いでんのよ。元気すぎない?


 お母さん昨日おもちゃ買ってあげたでしょ!

 そんなに騒いでも買ってあげないわよ!


 モカちゃんを視界からシャットアウトし他の仲間を見る。



 観葉植物ママは進化を遂げていた。

 ……うん。し、進化? って言っていいかわからないがそんな感じ。簡単に表現すれば、俺とモカちゃんそれにワーム君を混ぜたような形だ。

 ベースは多分、俺とワーム君。モフモフした毛並みで頭の上から生える二本の大きな狼の耳。体の大きさと顔はモカちゃん味がある。ある意味、体の大きさ的にモカちゃんのお姉さんと言ってもいいだろう。

 ただし、なぜか腕を組んで偉そうに腕を組んでいる。


 いや意味わからない……


 俺の視線に気づくと、ニヤッと笑ってグッと伸ばした親指を頭に向ける。なんぞや? と思いながら見ていると、一輪の赤い花がパァっと咲いた。

 ぷっくり開いた鼻から、むふぅーっと息を大きく吐き自慢げな顔。


 ま、ますます意味がわからんがな。



 視線を横にずらし触手本先輩。

 今まで触手が十本ぐらいウネウネしていたが二本まで減っていた。燃えるクソ鳥の羽もトカゲの脚もないが……その代わりに卑劣腹痛巨人の六本の腕が本から飛び出て、足のように使っている。

 さらに前にボインさんが言っていた封印云々うんぬんが弱まったのか、尻尾のように悪魔のゴツイ足が一本、びょいん〜っと後ろへ伸びている。


 き、きもい。


 時折ぐるぐる回転していたり、ビッタンビッタン動いてるから見てるだけで頭が痛くなる。どういう原理よ。

 あと当然のように二本のゴツイ腕が飛び出ていて腕を組んでいる。


 あ。もしかして観葉植物ママは触手本先輩の影響かな? せ、成長しているように見えるけど、触手本先輩の影響を受けて欲しくなかった。

 触手本先輩は包容力があり優しい先輩だけど、俺の勇者パーティーでぶっちぎりで見た目がやっべぇやつだ。


 これ以上は俺のSAN値がおかしくなる。


 視界を戻し自分の身体を触る。どこにも異常はなく、モフモフしている。丸太のようにぶっとい気がするけど気のせいだろう。モフモフした尻尾も見間違い。

 だって俺は人間だもん。深いことを気にしたら負けだ! 深い毛並みだけにってね! てへぺろ。


 ヨシッ!


 何も上手くないが自分を納得させていると、いつのまにかモカちゃんの声が止んでいた。顔を向ければ俺の方を警戒しながら何かを食べている。


 うん……何かっていうか、目を覚ましてからずっと逸らしてたやつだ。ぐっちゃぐちゃに十八禁になってそうなビジュアルになった卑劣腹痛巨人。


 意味がわからない。

 え? モカちゃんさぁ、それ明らかに二足歩行で歩いてたよね? カニバリズム感ある相手をよく食べれるね。


 心底ドン引きした表情をモカちゃんに向ければ、モカちゃんはもぐもぐするペースを上げ、大量の肉片をサッと腕とお腹の下に隠した。



 いや、奪わねぇよ。


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