ー19ー
き、九割九部。
巨人と視線が交差するたび襲ってくる腹痛の津波。そろそろ、二本目の新しい尻尾が出てきそうだった。
へろー!!!
すでに隣人がいるのにまた節操なく新しい住居人がやってくることに尻尾は大激怒だ。しかし熾烈な腹痛との戦いに俺は動けない。
そんな俺を見ながらニタニタと嗤いながら巨人が足音を立て、近づいてくる。
やめろッ! いちいち振動を起こすな!
本当。マジでこれが出たらブチ切れんぞ!
巨人はある程度の距離に近づいてくるとその場に立ち止まった。ゆっくり身体を小さく屈み俺の目を覗いてくる。
「お前も****によって可哀想に……ん? 言葉は発さなくともわかるさ。俺もお前と同じ。憎いだろう? イラつくだろう? 迸る殺意、終わらない憎悪、吐き気を及ぼす狂気。どこまでも螺旋のように続く****。しかし、なぜお前はまだそんな中途半端な姿なんだ? なぜお前は****によって昇堕されようとも美しい姿を保っている?」
…………ようやく理解した。
こいつの六つある目は相手を腹痛にさせる魔眼。実に卑劣で卑怯でいやらしい魔眼。
卑劣卑怯腹痛クズ巨人がッ!
「まだ完全に取り込まれていないというのか? それはあり得ない。お前から感じる****は俺と同じ。どこまでも昇堕しているはず。なぜだ? ナぜだ? なぜダ? なぜなンだ?」
ちょいちょい何かを挟んでくるが全く聞いたこともない単語。その単語が発せられるたびに暴れ狂うお腹。
「なぜ思い出さない、なぜ思い出そうとしない。お前も****によってこうなったんだろう。ナゼダ? なぜ、あれらと一緒に行動する? お前は昇堕しようとも家族ごっこがしたいのか? すでに家族はいないとわかっているだろう? すでに家族は死んだだろう? お前にはないのかァァ!! 俺たちをォ、こんな姿にした****をォォ!! 世界をォォ!!」
……いい加減、聞いたこともない単語を出すのやめてくれない?
俺の体勢を見てわかってるよね? 少しは理解してよ。もう出そうなんだよ。というか、ほとんど出てるんだよ?
「待て……おかしい。なぜお前から理性の光が見える? 俺はあいつらの手によって多少は引き戻せるが、お前はあいつらの臭いが一切しない無垢のはず。お前……もしかして****を理解できていない? どういうことダ。俺と同じ****に犯されたやつらは全員が全員、憎悪ト狂気を振りまいていタ。なゼ、ナぜ、お前ははハハハはは、仲間なんンんんて作る。おオおおオお前は違うののノノのノのカァァああァァ?」
ちょ、ちょっと……恥ずかしいから顔を近づけないでくれる? 消臭スプレーかけてないから恥ずかしいんだけど。
あと会話の流れがぐちゃぐちゃすぎて意味がわからないんよ。きちんと頭の中で整理してから話してくれる?
「ふ、フぅ。まだ成り立ての半端者といウこトか。気持ちガ悪い。何も理解しようとしない、現状を打破しようともしない、惰性でしか生きられない、与えられた物でしか生きようとしない。あァ、アぁ、アア!! 心底……反吐が出る、見てるだけで虫唾が走る」
へろー!!!!
ついに俺の可愛い尻尾が俺の心を読んで、激おこぷんぷん丸で巨人へ向かって威嚇をする。
いいぞ! かましてやれ!
「なんだこれは? お前……なぜ一つの身体に」
そう言いながら巨人は容易く俺の可愛い尻尾を掴み、ブチリッと引きちぎった。
し、尻尾ちゃーんッッ!!
こ、こいつ俺が腹痛と戦ってると思って……調子に乗りやがって!!
もうぶりぶりしようがどうでもいい!! お前がいくら泣こうと許してやんねぇからなァァ!!
ぶりっ。
ーモニカ・R・ジェーン:主任ー
荒れ狂う憎悪の嵐。α-319の瞳から発せられる悍ましい狂気。見つめられただけで根源を犯され、粉々にされたかのような吐き気。
まず初めに人狼の彼が狂気を孕んだ咆哮を放つ。それに続き他のやつらも憎悪の威嚇。私の身体も彼に引っ張られ、喉を震わせながら魔力の濁流を吐き出した。それによって喉が焼けてしまう。鋭い痛みに喉を抑える。
彼は身体から悍ましい魔力を放ちながら一直線にα-319へ突っ込んだ。さすがの彼も****の奔流には抗えないらしい。
なッ!
突然、彼は悍ましい魔力を引っ込ませ方向転換をおこなった。いきなり気配が消えた彼にはα-319も一瞬驚く。いつのまにかα-319の背後にいた彼は鋭利な爪で攻撃したが、α-319はなんとか防いだようだった。
どうなっている? 確実に彼は憎悪に****に取り込まれていたはず。なぜいきなり正気が垣間見えるような行動に移れた?
私が疑問に思ったよりも早く、横にいたワームとアルラウネが攻撃を放ったがα-319は持っていた武器でそれぞれを無力化。
な……んだ、あれは?
見た目から魔導武器の類だとわかっていたが、ワームの強力なブレスをかき消すなぞ、聞いたことも見たこともない。魔人どもが住んでいる
解析したい。解析したいがまずはα-319を取り押さえる必要がある。彼にもα-319を倒すよう言ったが、さすがにα-319を殺すまでは至ることはできないだろう。
私はポケットから結晶化した魔人の心臓を取り出し奥歯に挟み込む。バキッ、歯が砕けたがそのまま強く噛み砕いでやれば、口から溢れてる魔人の代名詞である莫大な魔力。
意識が消えそうになるがなんとか繋ぎ止め、そのまま魔術の詠唱を紡ぐ。
「狂……える……炎よ。蝕み……犯……せ、
魔術を唱えた瞬間、顔が吹き飛んだ。しかし
「qke!*;fkK@?s!」
私と連携しているつもりなのか悪魔の書が耳障りな古代魔術を横で発動した。そのせいで耳と鼓膜が破裂したが、一瞬で再生。
α-319の足元には私の煉獄の炎。頭上からはおそらく悪魔の書による見たこともない暴力的な神聖が降り注ぐ。
悪魔を封印していることから推測していたが、あの本は
ますます興味深い。中を開けて悪魔を引き摺り出したいが、今の私では数秒足らずで殺される。まだあの悪魔の書を読むレベルではないだろう。
私と悪魔の書の魔術の前ではα-319も回避行動をしないといけないと感じたようだ。大きく跳躍したが、そこへ人狼の彼が大きく体当たり。そのまま大きなアギトでα-319の鋼鉄のような皮を剥ぎ取った。
素晴らしい。最後にα-319を実験したときはどんな道具でも、ほとんど皮を通さなかったというのに。人狼の彼の歯を数本抜いて私に取り込みたい。
「GAAAAAAAAAAA!!!!」
α-319の咆哮により、身体が硬直し身動きができなくなった。ドカンッ! と何か大きな音がしたが、見る暇もない。一気に迫り上がってくる大量の何か。私はその場で何度も嘔吐した。
地面を汚していく黒い液体。
ちっ。****の侵食率がすさまじい。異常な震えに手足が暴れ回る。
「ぐぅぅぅうう!!」
身体がひとりでに暴れ回り、様々な魔染生命体に変態していく。両目から溢れ出る黒い液体。抑えきれない激痛と****の濁流により、脳の処理能力が大幅に振り切れ、視界がプツリと落ちた。
「はぁ……はぁ……」
数秒、数分、数時間。もはや時間の概念すらぶっ飛んでいた中、なんとか意識が戻れば私は地面で蹲っていた。
身体を動かせば、左腕以外は魔染生命体にならず人間のままだった。ただ左腕だけが、ムカデの身体に蜂が巻き付いたような形に変異。
なんとか立ち上がり状況を確認。数十秒ほどしか経っていないように見える。しかし数十秒だけだというのに全員がボロボロで、皆一様に****による黒い液体を垂れ流している。
そんな中彼は心配そうな顔を私に向けていた。私は小さく微笑み、彼を心配させまいと右手を思いっきり握りしめた。
「のじゃー!!」
おのずと理解していた。この左腕の見た目は虫のそれだが、内部は魔獣の類。巨人に向けて左腕を伸ばせば、駆け巡る漆黒の雷。だが、α-319は軽々と魔導武器を振り下ろせば消されてしまう。
化け物がッ。
使いたくなかったが、切り札の一つを切るとしよう。
口の中で舌を噛みちぎれば、魔封していたそいつが腹から出てこようとしてきた。そいつは以前、偶然にも見つけた****に犯された珍しい魔染生命体。
個体名、憎蟲。本来は憎蟲の****を最初に取り込もうとしていたが、そのときの私はまだ準備段階。とりあえず切り札として魔封を幾重にも施し体内で飼っていたが、人狼の彼と
口を限界まで開けるが、それでも憎蟲が出るには狭すぎる。憎蟲は無理やり私の口をこじ開け、ぷつぷつと顎の骨と口の筋肉が千切れていく。
そのまま腹に力を入れ、憎蟲をα-319に飛ばした。流石のα-319も憎蟲から滲み出る****の前には驚愕したようだ。避ける暇もなく、憎蟲に纏わりつかれ自身の体表を犯されていく。
口から腹の中にかけての再生速度が異常に遅い。
いや、その姿に私は惚れたのかもしれないね。
「ガ、ヒュッ!!」
油断しすぎていた。いつのまにかα-319は私の腹に魔導武器を突き刺していた。魔導武器により身体の中がめちゃくちゃになっていく中、α-319は眼前に私を持っていく。
憎蟲はまだα-319の体表で焦がし続けているというのに化け物じみた精神力、イカれた思考能力、狂気を孕んだ瞳。
「久しぶりダな、ジェーン。お前を何度犯そうかと夢見たことか。お前を何度バラバラにして喰らいたいと思ったことか。お前をぐちゃぐちゃにし、永劫の地獄に落としてやりたかったことか」
多少なりとも僅かに正気を感じさせる言葉に何を言ってくるか期待した私が馬鹿だった。出てくるのはどこまでもくだらない情欲の羅列。
ペッ、とα-319の顔面に黒い液体をかけてやった。
「ハ、ハッハハ。変わらない、お前は変わらない。全てを憎いはずのになぜかお前だけには好意を抱く。なぜだ? まぁいい、変な顔をするな。本当のことだ。わかるだろう? 俺はあいつら魔人どもに……」
α-319の六つの目玉から洪水のように溢れ出る黒い液体。顔を悪鬼のごとく歪め、どこを見ているかわからなかったが、突然ふっと自嘲すると再び私を見る。
「そ、ソそそうだ。俺はあいつらに復讐をしなけれレれレればならないいイいイい。お前はそれを最前席で見るんだ。最高だろう? ささサいごにお前を犯し喰らってテててやる」
言語能力が狂いはじめている。憎蟲の****の影響だろう。くだらない考察をする前に腹から魔導武器を抜きたいが身動きはできない。
「……だが、その前にあいつは殺さなければならない。****は殺さなければならない。世界を破壊しなければならない」
「ガハァッ!!」
突然流暢になったかと思えば、α-319は魔導武器を横へ薙ぎ払い、それにより私は壁に吹き飛ばされた。ドカンッと足から壁にぶつかった影響で両足はめちゃくちゃに折れ曲がる。
さすがにこの程度の痛みだけで失神するほど私は
なんだ?
私はだいぶかなり遠くの方へ吹き飛ばされたからわからなかったが、α-319は人狼の彼と喋っているようだった。顔を向ければなにやら楽しそうな雰囲気のα-319。
………α-319は気づいていないのか? 人狼の彼から噴き出ている****に。
彼から生えている大蛇は健気にも主人を守ろうとα-319へ威嚇。α-319は首を小さく傾げ、大蛇に手を伸ばし。
「ブチリッ!!」
私がいるところまでα-319が人狼の彼から大蛇を引きちぎる音が響き渡った。
その瞬間、私の視界は白と黒の世界に襲われた。
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