ー9ー


 ふぅ〜!



 やっぱ、気持ちが沈んだ時には汗をかくといいね。

 なんか一気に楽になったもん。


 ヘロー!


 どことなく尻尾も嬉しそうな雰囲気。いつもならワーム君が嫉妬してワチャワチャするからあまり観葉植物さんと遊ばせないようにしていたが、今日は許そう!


 今日の俺は寛大だ!



 むふぅ〜。



 ドヤ顔しながら鼻から息を強く吐いた。


 するといつものボインさんのアナウンス。



「すまないね。引き続きゴダゴダのせいで、君の戦いの全容を見ることができなかった。それでも録画した内容と部下からの報告資料を見たが、さらに強くなっているようで安心したよ。私の考えはおおむね間違っておらず、無駄骨で終わらず嬉しい限りだ」



 初めて聞いたボインさんのちょっと嬉しそうな声。


 ヘロー!


 俺の気持ちを汲んだのか、尻尾が嬉しそうな挨拶をボインさんに向けた。



「ふふ。その尻尾も馴染んでいるようで喜ばしい限りだ。最初は分離させようと思ったが、今では必要がないようだね? よかったよ。君が毎回戦ってくれるたび私たちの研究段階は飛躍的に進んでいる」



 こ、この尻尾はもはや俺の家族だ。誰にも渡さんぞ!

 というか早くご褒美の話題に移れ!



「ただね。そのせいで、一部うるさい人やつらが厄介なことをしでかしてくれたおかげで困っている。本当に面倒だ。私は研究だけをしたいというのに。こちらから邪魔を一度もしていないのに、実にしつこい。まぁ、これは私の問題。君にとっては些細なことにすぎない。


本題に戻ろう。あの特別性の魔染生命体は楽しかっただろう? 途中からだったが、君が目を爛々とさせ戦う姿はまるで古代の英雄を彷彿とさせたよ。こんな年齢になって子供のような気持ちを抱くとは思わなかった。恥ずかしながら周りの部下と一緒に歓声をあげてしまった。


その時からだいぶ待たせてしまい、すまないね。今回の相手は中々捕獲するのが難しく。かなり無茶をしてしまって、上の方からお叱りを受けてしまった。もしかしたら私が異動してしまうかもしれないが。まぁ、これは君には関係ない話だ」



 な、ながい! 長いけど、聞きづてならない言葉が!

 ボ、ボ、ボインさん異動するだってェェ!?


 ボインさんがいなくなったら、俺が戦うボイン理由ないじゃないか!

 ふっっざけるな! 俺はそんなこと決して許さん!



 断固抗議だ!! みんな集まれ!!



 わんわんおー!

「キュ?」

「ギュ?」

 ヘロー!

「ギョヂグブリャ!!」




 数十分、必死の抗議をしたが全てを軽く流され、ドアだけ開けられた。


 ……諦めも肝心だってどこか偉い人が言ってた気がする。あれ? じっちゃんだっけ? なんでもいいや。

 しょうがないので、みんなと一緒にドアを潜る。



 なんかいつもと比べて長いなぁ……体感的に三十分ぐらい歩いてるぞ? いつになったら終わるんだ?


 はぁ……暇だし、今の俺が率いる勇者パーティーでも紹介しようかな。



 ウォ、ゴッホンっ!

 まず勇者である俺。

 ひ、人より毛深く……なんか体も大きくて尻尾が蛇だけど、人間のリーダー!



 続いてワーム君!

 立ち位置としては、魔女っ子の魔法使いかな。

 最近は更にモッフモフの羽毛に磨きがかがり素晴らしい毛並みだ。指を少しだけ身体に入れると埋もれる。半端ない。超絶美少女魔女っ子だ。

 ただ……く、口から魔法を使うがそれは気のせいだ。いいね? 忘れるんだ。あれは口の中に杖があるからそんなふうに見えるだけ。

 ぴーぴーだったりきゅいきゅい鳴く声はすんごい可愛い。

 可愛いは正義だね。



 次に観葉植物さん。タ、タンクかな

 もうなんかよくわからん。う、うん……どう説明しよう。

 前にも説明した気がすけど、ワーム君の身体に俺の手足を取り付けた感じ。なんか悪の結社が遊び半分で改造を施したミュータントみたいになってる。

 顔は俺とワーム君を足した感じなのに、結構前から目や鼻からちょろちょろ枝やら蔦が伸びている。

 き、気持ち悪い。そんな俺の心の声を読んでいるのか、最近可愛いさアピールのため、頭部にあった葉っぱが赤い花になっていた。

 意味わからん。



 最後は触手本または触手本先輩。

 触手本の包容力はすごい。なんかこう、みんなを優しく包み込んでくれる。

 師匠的ポジションかな。めっちゃ強いし、基本最後尾からみんなを見守ってくれる。落ち込んだりすれば、先輩は本から伸びた触手で頭を撫でてくれる。ただし、ネバネバしている。

 あと鳴き声が奇声のようで怖い。



 …………うん。なんだよこれ。パーティーの半分がバケモンじゃねぇか。何が勇者パーティーだ。むしろ完全に魔王陣営だろうがよォ!!

 う、うぅ。自分で言っていて悲しくなってきた……


 意気揚々に先頭で歩いていたのに、突然俺がその場で項垂れるとワーム君が横にやってきて「きゅっ?」と顔を傾けた。


 可愛い。尊い。


 一瞬にしてフルパワーに戻った俺。少年のようなキラキラを抱き、通路を歩く。少年のキラキラが何かわからないが、こう目をキラキラさせればいいはずだ。うん。


 キラキラ〜。


 あ、雰囲気的にそろそろネバネバ液体だな。諦め半分、なんとか今回は避けようといつでも警戒。


 ガタッ。来た!



 しゅん、しゅんッッ。



 通路を縦横無尽に暴れ回る。傍目から見たら頭おかしい人だけど、許してね。だってネバネバ液体って不快感がすごいからね。


 ぐぉ! ……あれ?


 今回も負けを認めようとしたら、触手本先輩が大量の触手を傘のように伸ばした。


 さ、さすが触手本先輩だ。なんていいやつなんだ。


 あっ、地面や壁に飛び散ったネバネバ液体を触手で拭いてる。もしかして喉が渇いてる感じだった?


 取りあえず感謝を込め、おやつとして持ってきた緑色の生肉を投げてあげる。


「ギュブリジグァッユァァァ!!」


 よ、喜んでくれて何よりです。



 さらに歩いて数十分。ようやく通路の出口を発見。

 キラキラ少年を思い出し、外に飛び出た。



 …………火山地帯でした。



 ふぁ!? 本当、この研究所どうなってんだよ!

 おかしいやろ! 前は東京ドームぐらいの広さだったし、なんで今回は火山!?

 意味わからんわ!!


 そういや、観葉植物さんとか、もろに植物だけど危なくね?


 チラッ。



 後ろ振り返ると、誰もいなかった。



 え?


 顔を戻せば、いつのまにか火山地帯で全員が思い思いに遊んでいた。ただの取り越し苦労。

 ワーム君は俺の近くで、そこらへんにある石や岩を美味しそうにもぐもぐ食べている。


 やっぱり生肉より、土とか鉱物のほうが好物なのかな?

 次はボインさんに鉱物とかもらってみるか。


 観葉植物さんは触手本と協力して、二メートルぐらいのトカゲもどきを解体してパクパクしている。


 そのトカゲさぁ、羽がついてない?


 疑問に思ったが、きっとこんな場所だ。最近のトカゲは羽が生えるようになったと納得しよう。決して現実逃避とかじゃない。本当だ。


 うーん。前々から思っていたけど、観葉植物さんと触手本先輩はどことなく仲がいい。今もこうして協力してるし。

 化物同士、シンパシーでも感じてるのかな?


「ギャアアアアアッッ!!」


 ト、トカゲを喰うのはいいけど、なんで生きたまま解体するの? 苦痛の絶叫と絶望した顔を見ていると、こっちがゲンナリするんだけど。


「きゅっきゅっ!」


 俺の声を代弁するようにワーム君がムッとした顔で鳴いた。すると、観葉植物さんはトカゲの首に蔦を回してキュッと締めた。



 よ、ヨシッ! 



 しゅるしゅる……


 観葉植物さんが解体したトカゲの肉を渡してきた。

 ……好意を無碍にするのは良くないだろう。大人の礼儀として好意は頂くものだ。だって俺は人間だからさ。キリッ。


 ヘロー!


 尻尾が見てきたから肉の一部を与え、俺もモグモグ。

 な、なんとも言えない味。本当にどういう風に味を表現すればわからん。現に尻尾もなんともいえない顔をしている。



「ギャシャァッァ、シャァァ!!」



 お腹を休めて休憩していると、なんか聞いたことがない鳴き声。そっちを見れば、触手本先輩がトカゲの足を四本生やし、トカゲを追いかけ回していた。

 触手本先輩の後ろに観葉植物さんもいて、こっちも当然のように蔦で作ったトカゲの足を四本。


 …………そ、そっと視線を逸らす。


「ギャーギャー」


 うん。そういうことなんだろう。俺はもう理解するのを諦めた。

 先輩は常に進化を求め続ける立派な触手本なんだ。俺のことは気にせず、頑張ってくれ。


「ギャーギャー」


 本当、すごい絵面だ。トカゲも羽が生えて化け物じみてるけど、さらにやっべぇ化け物が追いかけ回してると、可哀想にしか思えない。

 進化とかいって現実逃避したけど、あの触手本やばすぎだろ。食べた相手の一部を出せるって、俺の勇者パーティーぶっちりぎりの化け物だな。


「ギャーギャー!」


 なんだなんだ? さっきから上空でギャーギャーうるさいな。


 イラッとしながら空を見れば、燃えている鳥がいた。


 ……いや、うん。確かに俺の仲間も色々とあれだけどさ。

 なんで君はさぁ、燃えながら飛んでるの? おかしくない?



 いくら俺が最強の人間だとしても、空を飛んでいるやつを捕まえることはできない。その場で体育座りをしてぼけぇっと見ていると、そいつが何かを落とした。


 なんぞや?


 ワーム君を連れて、落ちた方向へ行けば丸い石。


 え、えぇ? 意味わからん。

 なんでわざわざこれみよがしに俺の近くに落としたのさ。


 ワーム君が食べようとするからメッした。流石にこんな得体のわからないものはお腹を壊す。ワーム君がきゅるきゅるして見てくるが、俺はなんとか鬼の心で躾ける。


 だめでしょ! ワーム君! ママの言うことは聞きなさい!



 ポトリッ。



 一人芝居していると、頭に何か降ってきた。触ってみれば茶色の液体。なんか異様に臭い。燃えている鳥をみればこちらを馬鹿にしたような視線。



 あ、あ、あいつゥ! く、く、糞を俺の頭に落としやがったァ!



 あんのクソドリ!

 マグマに浸けてバーベキューにすんぞ、ゴルァァッ!!


 わんわんおーしてブチ切れると、クソドリがマグマにダイブした。


 お、おう。ダ、ダイナミック自殺ですか?

 さすがの俺もおったまげるよ。


 クソドリが本当に死んだのか見るため、マグマに近寄ったが全くわからん。多分、ここの主っぽいやつだったんだけど、これで終わり?


 糞を落とされただけなんですが……


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