ー1ー

 ボインさんが去って、暇だなぁ……と思って少し経ったら屈強なムキムキお兄さんが二人、ウィーンと俺がいる場所に入ってきた。


 ……ひぇぇぇ! 俺、そういう趣味ありません! と、一人びびっていたら、俺を縛っていた拘束具を乱雑に外していく。


 た、多分ボインさんがきちんと約束守ってくれたんだと思うが、すっごい雑にやってるからすごい痛いんですけど……

 あのすみませんがもう少し丁寧にしてくれませんかねぇ……?


 俺がそう抗議しようと顔を向けたら、お兄さんたちがジロリとサングラス越しにすっごい睨んできました。


 い、いえなんでもありません。このままプレイ続行でお願いします。



 ニカッ。



 気分的にはそんな感じで笑ったけど、顔はまったく動かなかった。多分、今の俺の表情筋は死んでいる。しょうがないね。


 とりあえず、身動きせずお兄さんたちの激しいプレイもとい拘束具外しを待つ。


 ガタンとか、ゴトッとか、しゅるしゅる、ポタポタとか、もう本当どんなだけ色んなものを俺の体につけていたんだよって、ツッコミしたくなったがグッと堪えた。


 可愛らしく目をぎゅっと瞑っていたらお兄さんたちはそそくさと部屋から出て行った。



 こ、怖かった……ぴえん。



 数週間ぶりに拘束具が外れたので、俺は部屋の中で軽く運動してストレス解消に勤しんだ。


 イッチ、ニー! イッチ、ニー!








 ー護衛ー


 主任が俺たちにあの化物の拘束具を外せ、と命令が降りた。俺は心の中でこんなところへ配属させた人事部に対して罵詈雑言を吐きつつ、「あぁ、何も起きないように」と願いながら相棒と一緒に隔離室へ入った。


 間近で見るのは二回目だがやはり、元人間なんて思える姿形ではない。とてつもない程の禍々しい魔力。吐き気を覚える何か。

 気持ち悪いそれらを堪えながら、震える手で急いで拘束具を外していると、そいつはいきなり、


「Gurururuuuuu……」


 と唸った。一瞬にして恐怖から視界が真っ白。


 いつのまにか自分が荒い呼吸をしていたことに気づき、意識を戻す。すぐに相棒に目を向ければ、俺と同じようにこっちを見ていた。目でコンタクトを取りながら、どうするか相談していると、インカムの中から主任が「早く外せ」と催促が来る。


 ふざけるな、それならお前がやれ!! と言いたいが曲がりにも主任は今の上官だ。ワナワナと湧いてくる苛立ちと止まることを知らない恐怖を根性で抑えつつ、拘束具を取り外していく。


 ポト……


 ようやく夥しい量の拘束具の最後を取り外せた。俺は相棒と共にそいつから目線を外さず、いつでも懐に入っている拳銃を抜き出せるよう警戒していると、そいつはこちらを小馬鹿にするように「フンッッ」と鼻息をかけてきた。


 ば、化け物がッ……


 最初から気づいていたんだろう。俺たちが最新機種の小銃を持っていることに。だというのに、まるで怯えた様子もない。

 目を瞑り、口で三日月を描いて待っている。


 こ、こいつは俺たち待っている。俺たちが手を出してから無惨に殺すつもりだ。


 ゴクリ、と唾を飲み込み、俺は相棒とすぐさま隔離室から逃げるように走った。後ろで幾重にも頑丈な扉が閉まっていく。その場で倒れそうになったが、体に力を入れ更に安全なところへ向かう。


 離れている間、あいつが暴れているであろう重低音が何度も、何度も響いてきた。


 ……これ以上はこちらの仕事ではない、俺たちは足早に去った。







 久しぶりに体を運動するのは気持ちいいネ!


 今までできなかったバク転や体操選手まっしぐらな動きをして遊んでいるとチラチラ何かが視界に入る。ていうか最初から気づいていたが、現実逃避で視界から消してました。


 なんで俺のお尻から黒いもふもふとした尻尾が生えているんですかねぇ?



 ど、ど、動揺しちゃいけない。こういうときは素数を数えれば落ち着けるはずだ!



 二、三、五、七、十一……次は……十三? うーんと、次は………十七? 次は……次は……



 ひたすら素数と格闘していると、部屋のどこからか声が聞こえた。



 やぁ元気かね?

 久しぶりの運動は楽しいかい?

 それとも戸惑っているのかい?

 あぁやっぱり体の変化に不安?

 すごい身体能力だね?」



 まーたボインさんがマシンガンで質問してきた。



 やめてくれ! 俺は聖徳太子じゃないんだぞ!



 そんな感じで唸ってプンプンしていると、おっさんたちの汚い声とくっさい臭いが漂ってきた。


 今のNEWでキュートな俺は嗅覚と聴覚が尋常じゃない。自分でもドン引きしているほど強くなっていた。ボインさんたちがいる場所を特定して睨みつける!



 貴様ら、そこにいるな!



 と、心の中でカッコつけながら、恐らくいるであろう壁に顔を向ける。そうするとマイクの向こうから誰かがたじろく音が聞こえる。


 ふ、ふんっ! いい気味だぜ! 胸を張ってドヤ顔していると、


「ふむ、何か欲しいものとかあれば、出来る範囲内で持ってくるよ。どうするかね?」



 ステーキだ! ステーキ。今の俺は猛烈に肉が食べたい!



 俺がそういうとボインさんの苦笑した声が聞こえてきた。


「いいだろう、あとで用意するからとりあえず落ち着いてくれると嬉しい。ここもあまり頑丈じゃないんでね、君が軽く暴れると壊れてしまうんだ。」


 そ、そうだったのかー、ていうか運動していただけで暴れてなんかいませんが……?



 注意されたので俺はしょんぼりとそこに座り、お肉が来るのを心待ちにする。

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