腐った果実にナイフはいらない
城谷望月
腐った果実にナイフはいらない
腐った果実にガリリと歯を立てるように、あなたはわたしに愛を与える。
ぽたぽたと残酷な臭いのする果汁が床にこぼれ落ちる。あなたの唇は粘度のある液体で汚されてしまう。わたしはそれを乱暴に拭ってあげる。
わたしの中の「あかん」何かは、あなたと共有される。合い言葉は「痛み」。誰もが開こうとしない暗い扉。
あなたはその行為を責任と義務で行っているというのか。わたしにはただの重荷だというのに。腐っていくあなたを見ているのがつらいのだ。せめてわたしをひとりにしてくれていれば、こんな痛々しい思いはしなくて済むのに。
わたしを殺すのに、ナイフは必要ない。
鮮度を大きく損ねた果実は、一握りすれば勝手に崩れ落ちてゆくのだから。
贖罪と鎮魂は、いつ果てるとも無く続いていく。空が青ければ青い分だけ、日の光から逃げることはできない。
腐った果実にナイフはいらない 城谷望月 @468mochi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます