腐った果実にナイフはいらない

城谷望月

腐った果実にナイフはいらない

 腐った果実にガリリと歯を立てるように、あなたはわたしに愛を与える。

 ぽたぽたと残酷な臭いのする果汁が床にこぼれ落ちる。あなたの唇は粘度のある液体で汚されてしまう。わたしはそれを乱暴に拭ってあげる。

 わたしの中の「あかん」何かは、あなたと共有される。合い言葉は「痛み」。誰もが開こうとしない暗い扉。

 あなたはその行為を責任と義務で行っているというのか。わたしにはただの重荷だというのに。腐っていくあなたを見ているのがつらいのだ。せめてわたしをひとりにしてくれていれば、こんな痛々しい思いはしなくて済むのに。

わたしを殺すのに、ナイフは必要ない。

鮮度を大きく損ねた果実は、一握りすれば勝手に崩れ落ちてゆくのだから。

贖罪と鎮魂は、いつ果てるとも無く続いていく。空が青ければ青い分だけ、日の光から逃げることはできない。

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腐った果実にナイフはいらない 城谷望月 @468mochi

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