オレンジ色の空を見る
河咲信都
第1話
それはなんの前触れも脈絡もなく現れた。クレーターだかミステリーサークルだかと呼ばれる円形に土が隆起した模様が、収穫を終えた田んぼの真ん中に出現した。人より牛のほうが数の多いこの田舎では、この不思議事件は風のように広まった。
「誰かしら、こんないたずらしたの」「外から来た観光客だろう」と村の大人たちは、誰かのいたずらだと事件を片付けた。
そのクレーターの横にみかんが一つ落ちていたことなど、誰も露ほどまったく見向きもしなかった。
でも僕は確信していた。誰かのいたずらなんかじゃない。
このみかんはクレーターを作った宇宙人からのメッセージだと。
僕はこのメッセージを送った宇宙人をみかん星人と名付けた。
みかん星人が出現した日、学校はその話題で持ちきりだ。
「でっかい穴見た?」「宇宙人のしわざだって」「放課後いってみようぜ」「あれは光の呼吸で作られたに違いない」
教室内のあちこちで様々な憶測が発生するが、小学生の推理が深く発展するはずもない。いつのまにか流行の鬼退治ごっこの話題に変わっている人達もいる。
「奏くんは穴に興味ないの?」友達の開成くんが話しかけてきた。
めちゃめちゃ興味がある。開成君は穴の近くにあったみかんを見ただろうか。
「僕も穴は見たよ。穴の横にみかんがあったの知ってる?」
「みかん?わかんないな」
開成君は首を横に傾げた。どうやら知らないらしい。
「放課後に皆で見に行くけど、奏君も行く?」
ちょうどいいや。もともと行く予定だったので了解の返事をした。
絶対にみかん星人が存在する証拠を見つけてやると僕は一人で意気込んでいた。
放課後になり現場に着いたがお祭りの日みたいに人が溢れている。他学年の人達も同じ考えで、今朝の事件が気になったらしい。
みかん星人の痕跡が他にないか調べたかったが、見物人が多すぎるので日を改めて出直すことにしよう。みんな残念がっていたけど仕様がない。
「しょうがないな」「また今度来ようぜ」「じゃあまた月曜日な」そう言って僕らは解散した。
オレンジ色の太陽が傾き、夕焼け小焼けのメロディが聞こえてくる。子供は我が家に帰る時間だ。
月曜日が訪れるとクレーターのことなんてみんな忘れていた。
日曜日の深夜に放送されている鬼退治のアニメを観たからだろう。子供の思考は一番おもしろいものが優先される。
ならば放課後はチャンスだと思った。もうみかん星人のことなんか誰も興味を失って、事件の現場には誰もいないだろう。
開成君も誘おうかな。
席を立って声をかけたが、他の友達とゲームをして遊ぶようで、クレーターにはもう興味がないようだった。
放課後を知らせるチャイムが鳴り、急ぎ足で現場に向かう。
現場は雑草が風に揺らされているだけでやはり誰もいなかった。
みんなもったいないな。ゲームよりもおもしろいものがあるかもしれないのに。
あぜ道を歩き田んぼの四方を調べる。みかん星人の痕跡が他にないだろうか。
調べ始めた場所からちょうど反対側、裏山に面したあぜ道から、山の上に続く道を発見した。
こんな道あったかな。僕の家の近くではないから知らなくてもおかしくはないが。
もしかしたらみかん星人がこの道を作ったのかも。平地だと人に見つかりやすいし。
山道の頭上は木々が生い茂り薄暗く、まるでトンネルのようになっていて先が見えない。
どうしよう。登りたいけど。
恐怖心と好奇心の狭間で揺れる。
でも宇宙人と話すこんなチャンスを逃したくはない。
意を決して不気味な山道に足を踏み入れた。
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