私の祖母
南長井駅に降りると、ホームを降りてすぐの道路脇に白い軽自動車が停まっていた。そこから徐に出てきたのはかなり恰幅の良いおばあちゃんだった。
……湯婆婆だ。と心の中で考えてもう少しで口に出そうだったが必死に我慢した。
「あの、宇佐美昭子さんですか?」
宇佐美昭子とは、里香の祖母の名前だ。
「そうだ〜。久しぶりだねぇ里香ちゃん」
そう言って祖母は笑顔を見せる。あれ、てっきり初対面だと思っていたけれど、どこかで会っていたのだろうか?
考えて返答に遅れていると、
「まあ、子供の頃にあって以来だから、里香ちゃんは分かんねえべな〜」
そう祖母は言う。少し方言が混じっているのか言葉が訛っている。
「どうもお久しぶりですおばあちゃん。宇佐美里香です。この度はお世話になります」
とりあえず、丁寧に返事をしておいた。
「丁寧にありがとね〜。んだけど、こっちにいる間は遠慮なんかいらねえべよ。じぶん家だと思ってゆっくりしてけろな〜」
祖母の言っていることがすぐには分からなかったが、自分は歓迎されているのだと感じた。笑顔で頷いてみせたら祖母もホッとしたようだ。
暑いから車に乗ってと祖母に言われ、慌てて助手席に乗り込んだ。東京では車にはめったに乗らないから新鮮な感じがした。小さな車で少し窮屈に感じたけれど、祖母の体型ではなおさら窮屈なのではないかと思った。
初めて降り立つ田舎に抱く第一印象は、思った以上に緑が多いというのと、結構車が往来していることだった。家の一軒一軒が林のように密集した木々に囲まれており、その周辺には広大な田畑が広がっている。
これだけの土地を移動するにはそりゃ車は必需品だろうなと、行き交う車を見ながら思う。
祖母はのんびりと運転している。時折、笑顔を浮かべるので気になって問いかけてみた。
「何か良いことでもあったんですか?」
そんな台詞をかけると、祖母はん〜と声を漏らしゆっくり間を空けてから、
「里香ちゃんに会えたのが嬉しくてよ〜」
と鼻歌でも歌っているように返答した。
そんな祖母を見ていると、なんだかこっちまで幸せな気持ちになってくる。
「もうすぐ、うちさ着くよ」
そう言われて前を向くと、車は公道から脇に続いている小道に入り込んだ。おそらくここからが私道で、祖母の家に続いているのだろう。
道の途中に地蔵が一体収まったお洞があった。
影に隠れ、ぽつりとそこに佇む地蔵は、なんだか少し不気味だ。
少し走って車が停まる。祖母はエンジンを切って、「ほら、着いたよ」と里香に声をかけた。ドアを開けて、外に出る。
……立派な日本家屋だ。いったいどれくらいの坪なんだろう。東京では考えられない土地の広さと家の大きさだ。
「大きな家ですね!」
思わず声に出して感嘆してしまう。
「まあ二人で住むにはちとデカすぎるんだけどな」
「おじいさんと二人暮らしですか?」
「そうだ〜。たぶん家さいっから、会ってけろ」
そう言われて荷物を持ち、祖母の家に入った。
玄関を入って正面に飾られている、巨大な木の幹で出来たオブジェのようなものに圧倒させられた。壁には古そうな番傘が飾られ、全体的に素朴だが、雰囲気のある空間である。
廊下が二手に分かれており、左は窓のある家の外周を回るような通路に見える。正面の廊下のほうからテレビの音が聞こえてくるので、そちらが居間なのではないだろうかと里香は思った。
祖母の後を追って、正面廊下を歩いていく。少し薄暗く、その暗澹たる廊下の中央からトイレに続く通路があるようだ。夜になったら一人で通れるか不安だ。寝る前に必ず済ませよう。
祖母が突き当たりの扉をガラガラと開けると、そこはやはり居間だった。白髪だが顔立ちが良く、スッとした男性がのんびりテレビを観ていた。
「おとうちゃん、里香ちゃん来たよ〜」
祖母がそう声をかけると、テレビを見ていた祖父はおっと顔をこっちに向けて、
「よ、里香ちゃん久しぶり! って言っても覚えてないかもしれねえけど。昂じいちゃんだよ」
「お、お久しぶりです」
少しイメージと違って、元気で気さくな祖父に驚いたけれど、今回この家にお世話になって本当に良かったと直感的に思えた。
「ゆっくりしてってな。好きなように過ごしていいから」
「ありがとうございます」
祖父の寛大な言葉に心が温まるような感じがした。人とこうして気持ちを交わすのはいつぶりだろう?
「すぐご飯の支度さすっから、荷物部屋に置いて少し休みな。おじいちゃん、部屋さ案内してけろ」
台所に向かいながらそう口にする祖母。分かったと言ってすくっと立ち上がり、祖父は案内役を買って出た。
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クールJKと男の娘の山形旅行 すだち @sudachi1998
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