幼馴染の母親と結婚しようとすると、幼馴染が全力で俺を寝取ろうとしてくるラブコメ

田中京

第1話

 夜、7時の人気のない公園。

 俺、藤野啓太はひどく落ち着かない様子でベンチに座っていた。

 俺はこれから、大事な告白をする。

 相手は、小学校時代から、高校一年の現在までずっと、一緒だった女の子。

 クラスメイトで幼馴染の涼城夜鈴すずしろやすずだ。


「やっ、きたよ」


 突然、耳元にこそばゆい息がかかる。


「うわわっ」


 びっくりして、ベンチから飛び上がる。

 振り返ると、にこっと微笑む、ワンピース姿の少女が佇んでいた。


「あはは、いい反応」


風で、きれいな黒髪をなびかせながら、彼女は愉快そうに言った。


「夜鈴か……もっと普通に声をかけてくれよ。心臓に悪い」

「普通に声かけたよ。何回も。でも反応しなかったから、こういう方法を取ったんだよ」

「そうだったのか。すまん。俺かなり、緊張してて」

「うん、分かってる。安心して、私ちゃんと聞くから。真剣に聞くから。啓太の話。啓太の思いを……」


 顔を赤らめ、熱っぽい眼差しをじっと俺に向けてくる、


「……夜鈴」


 彼女の優しい気遣いが心にしみわたる。

 気づくと、緊張がほぐれている自分がいた。

 告白するなら、今だ。

 俺は拳を固く握る。勢いよく、ベンチから立ち上がる。

 彼女の目の前まで行くと、深く深呼吸。そして、静かに口を開く。


「分かった。じゃあ、言うぞ」

「うん……」


 どこか、期待するような目で、夜鈴は耳を傾ける。


「実は、俺……」

「……」

「お前の……」

「……」


 夜鈴が限界まで目を見開く。

 そして、俺は告白する。

 ずっと隠してたあの秘密を


「……お前の母親と結婚することにしたんだ」

「へ?」


 夜鈴が間の抜けた返事をする。

 何を言ってるんだこの幼馴染はとばかりに、首をかしげてくる。


「えっと、今日エイプリルフールだっけ? でもその冗談、あんまり、面白くないよ」

「冗談なんかじゃない。本当の話だ。今からそれを証明する」

「証明?」


 ポケットから携帯を取り出し、彼女にメールを送る。

 それを合図に、公園の向かい。マンションで、待機してた彼女が、こっちにくる。

 あらかじめ、決めていた段取りだ。


「お、お母さん?」


 涼城雪菜すずしろゆきな、夜鈴の実の母親が公園に姿を表すと、夜鈴は驚いた声を上げる。

 雪菜さんは、娘と視線があうと、気まずげな顔をする。

 35歳にしては、若々しく、大学生くらいによく間違えられる、その美しい外見は、憂い気な顔と合わさって、薄幸の美女を思わせた。

 彼女は重々しい、足取りで、俺の隣までくると、申し訳無さそうに口を開いた。


「啓太くんが話したことは本当だよ、夜鈴。私達、真剣に結婚しようと思ってるの……」


 結婚と口にした時、ちらっと俺の方を見て、頬を赤く染める。

 雪菜さんは夜鈴を生んですぐに、夫を無くしている。未亡人だ。

 そして、俺は今16歳。だから、あと2年。俺が18歳になれば、すぐに結婚できる。

 雪菜さんの言葉と表情には、確かな実感がこもっていてた。

 夜鈴はそこでようやく、俺と雪菜さんの関係を理解する。

 

「……」


 夜鈴は、信じられないものを見るような目で、俺と雪菜さんを見る。

 肩を震わせ、今にも泣き出しそうな表情だ。

 娘を傷つけたことに、雪菜さんはつらそうに、うつむく。

 俺も雪菜さんと同じ気持ちだった。

 

「……どうして」


 夜鈴が俺に詰めよる。そして、切羽詰まった声で言った。


「結婚なんて、急すぎるよ。啓太、まだ学生でしょ?」

「……。雪菜さんとの結婚はまだ先のことだと思ってた。でも、あの子のそばにいてあげられるなら、早いほうがいいと思ったんだ……」

「あの子?」


 結婚のことを話した。

 なら、もうこのことも話さなきゃいけない。

 俺は重々しい口調でこう言った。

 

「……お前の妹のことだ」


 夜鈴には、6歳の妹がいる。

 夏美ちゃんという、女の子だ。

 夜鈴と遊びにいく時、たいてい夏美ちゃんも一緒で、俺はいつも彼女のことをかわいがっている。


「夏美? どうして、急に、夏美の話題が出てくるの?」

「……夏美ちゃんはな、俺の娘なんだよ。雪菜さんと愛し合ってできた子供だ」

「えっ、そんな……」

「今まで、隠してた、もう一つの事実がそれだ。それで俺は父親として、夏美ちゃんのそばにいてあげたいんだ。だから、少しでも早く結婚を……」

「ちょっ、ちょっと待って……! 夏美が生まれたのは6年前だよ? 啓太その頃、まだ9歳じゃん」


 事態を飲め込めない夜鈴は、困惑した表情で言う。


「……俺は9歳の頃から、雪菜さんと愛し合っていた」

「ツッ……!」


 絶句する夜鈴。

 雪菜さんは表情をこわばせ、居心地が悪そうにする。

 娘の幼馴染に、小学生の頃から手を出してた。そのことが、娘にばれて、心中穏やかではいられないだろう。


「……好きだったのに」


 夜鈴の瞳から涙がこぼれる。悲しそうな力のない笑み。それを俺に向けながら。


「子供の頃からずっと好きだったのに。こんなのってないよ。もう私の入り込む余地ないじゃん……」

 

 好きだって知ってた。夜鈴の気持ちにはずっと前から、気づいてた。

 でもその気持ちに答えてあげることはできない。

 俺は雪菜さんと一緒にいることを選んだから。

 こらえるように唇を深くかんだ。唇から血が出て、苦い味がひろがる。

 夜鈴の泣いてる姿に、心が痛む。

 慰めてあげたい。泣かないでと、抱きしめてあげたい。

 夜鈴に手を伸ばそうとする。でも、自分にその資格がないことに気づき、途中で手を引っ込めた。


「ごめん、夜鈴、ごめん……」


 気づくと、雪菜さんも泣いていた。口に手を当て、静かに涙を流していた。

 真実を告げてしまった。

 雪菜さんと結婚する。子供ももういると。

 夜鈴からすれば、母親に好きな人を取られる。 

 その好きな人が父親になるという、心底複雑な状況だろう。

 この真実を経て、俺と夜鈴の幼馴染の関係。

 夜鈴と雪菜さんの親子の関係がどのように、変わっていくのか、不安でならなかった。

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