電気鯨


 巨躯に似合わぬ小さい歯車。

 それが欠けただけで動かなくなった電気鯨。

 からくり仕掛けの見世物は。

 倉庫の置物に。

 悲しくも哭くことすら出来ない。

 ある日。

 凄腕の職人がやってきて。

 小さな歯車を寸分違わず作ってみせた。

 動き出す電気鯨。

 喜びの歌を奏でる。

 職人は満足そうに去って行く。

 その背を見送ると。

 電気鯨はまたサーカスの仕事に戻る。

 その歌は人々の癒しだった。

 退廃の風が吹く末世に。

 ただ在る安らぎ。

 それこそが宙飛ぶからくりだった。

 誰が造ったかもわからない。

 歯車の塊。

 そこにはこう記してあった。

「心よただ平穏に」

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