第84話 ど〜んと出してみました(討伐証明:嘴×505)

第二章 葡萄の国と聖女(84)



84.ど〜んと出してみました(討伐証明:嘴×505)



「詳しいことは、ウィンが説明する。」


ルルさんは右手の親指で僕を指し示しながらそう言った。

全員の視線がルルさんから僕に移される。


「誰だあれ?」

「あれが噂の・・・」

「あれが? マジか。」

「ルル様、なぜあんなのと・・・」

「あれ、冒険者なのか?」

「従僕か何かだろ。」


ちょっと失礼じゃないですかねぇ。

「あれ」とか、「あんなの」とか、「従僕」とか。

まあ知名度皆無だし、見た目は弱そうだし、裕福そうでもないし、仕方ないけど。

あっ、なんか自分で言ってて悲しくなってきた。

どうやってきちんと説明しようかなとか考えてたけど面倒になったのでど〜んとやっちゃおう。


「みなさん、ウィンと言います。すみませんけど真ん中を大きく空けてもらえませんか?」


一応自分でも名前を名乗ってから低姿勢でお願いしてみた。


「なんだあいつ、偉そうに。」

「何俺たちに指示してんだ。」

「冒険者を舐めんじゃねぇぞ。」

「ルル様、目を覚ましてください。」


やっぱりなあ。

全然言うこと聞いてくれない。

ルルさんに目を覚まして欲しいというのには、部分的に同意するけど。


「私のパートナーの言葉が聞こえないのか! 言われた通りスペースを空けろ!」


いきなりルルさんが怒鳴った。

僕もびっくりしたけど、冒険者たちもビビったようで一瞬で僕の前に広いスペースができた。

ルルさんの覇気を受けて萎縮したのか、軽口や不満を言う者もいない。


「召喚! ウサくん来て!」


僕はこのタイミングを利用してウサくんを召喚することにした。

誰が呼んだかはっきり分からせるために、あえて大きな声で発声すると、空いたスペースの真ん中に光が発生し、その中からウサくんが現れた。


「なんだあれ?」

「ウサギみたいだけど・・・」

「違う、角があるぞ。」

「ホーンラビット?」

「似てるけど違う。あいつ、テイマーか。」


いちいちうるさい人たちだね。

長くなるから説明はしないよ。

とか思っていると、


「こんにちは。」


ウサくんがギルド内の人たちに向かって挨拶した。

軽く右前足を上げながら。


「なんだ今の!?」

「ウサギがしゃべった!」

「バカ! ウサギじゃねぇ! 魔物がしゃべった!」

「どっちにしても、あり得ないだろ!」


せっかく静かになってたのに、ギルド内は大騒ぎに。

「しゃべる魔物」の出現はかなりのインパクトだったようだ。

ウサくん、絶対にわざとだよね。

普段は面倒がってしゃべらないからね。


「主、呼んだ?」


ウサくんが再びしゃべると今度は一転してギルド内が静まり返る。

ただ単語を発するだけではなく、会話ができることにさらに驚いているようだ。

ウサくん、もしかしてここまで展開読んでた?

僕よりはるかに人心掌握の能力高いんじゃない?

まあいいや、さっさと終わらせますか。


「ウサくん、嘴、全部持ってきてくれる?」


僕がそう頼むと、ウサくんは床に潜るように沈んですぐに戻ってきた。

大量の嘴と共に。

フロアの真ん中にど〜んと討伐証明の山が現れる。

これで誰も文句は無いだろう。

その光景を見ていたギルド内の人たちは目と口を大きく開いたまま固まってしまった。


「フルーツバード502体とフルーツラプトル3体分の嘴だ。理解したか?」


ルルさんがギルド内の人たちに向かってそう告げる。

最後のいいとこは持っていくんですね、ルルさん。

別に気にしませんけどね。


誰も一言もしゃべらない中、職業柄か、いち早く気を取り直した受付嬢さんが口を開いた。


「ルル様、確かに討伐証明の嘴を受領致しました。数が数ですのでこちらで確認させて頂きます。すべて、ルル様が討伐したということでよろしいですね。」

「それは違う。正確な数は分からないが、半分はウィンが討伐したものだ。あとラプトルは3体ともウィンが倒した。」


再び沈黙。

受付嬢さんも言葉を失って僕の方を見ている。

いや、フルーツラプトルを倒したのはディーくんだよね。

でもディーくんは僕の従魔だから一応僕のカウントになるのか。


「テメェら、この大変な時に何してやがる!」


あっ、面倒な人が出て来た。

出来ればこのまま帰りたかったんだけど。


人垣をかき分けるようにして獣人姿のギルド長、ネロさんが赤髪のグラナータさんを伴って現れた。


「ルル! ウィン! こんなとこで何して・・ん・・!?」


ネロさん、状況を把握してなかったようで、フロアの真ん中に山と積まれている嘴を見て言葉に詰まる。

グラナータさんもかなり驚いている様子。

でも立ち直りはグラナータさんの方が早かった。


「ルル様、ウィン様、こちらへ。ミリア、討伐証明の確認と管理は任せます。」

「はい、分かりました。グラナータ副ギルド長。」


受付嬢さんの名前、ミリアさんっていうんだね。

冒険者たちに指示出ししてたから、受付嬢の中でも上の立場なのかもしれない。

見た目は普通にヒト族の若い女性っぽいけど、肝は据わってるんだろうな。

荒くれ者も多い冒険者たちを日々相手にするって大変そうだもんな。


「おいウィン! ボーッとしてんじゃねぇ!」


ネロさんに怒られました。

別に若い女性に見惚れてたわけじゃありません。

周りからはそう見えたかもしれませんが。


気がつくとルルさん、ネロさん、グラナータさんの3人は既にギルド長室に向かって歩き始めていた。

僕も慌ててその後を追いかける。

嘴の山の方を一度振り返ると、ギルド職員たちが確認作業のために集まってくるのが見えた。



「ルル、何があったか報告してもらおうか。」


ギルド長室の中、獣人姿のネロさんが腕を組んで正面に座っている。

ルルさんは僕の隣にいて、ネロさんの言葉に簡潔に答える。


「討伐依頼、完了だ。」


本当に簡潔で端的で直球の回答ですね。

詳しく話す気はゼロですね、ルルさん。


「ルル、ふざけんじゃねぇぞ。ちょっと前に依頼受けて出てったばっかだろうが。なんだ、あの嘴の山は?」

「だから、依頼完了だ。」


これ、埒が開かないよね。

ルルさんとネロさんの会話って、絶対に噛み合わないからね。


「ウィン様、ご説明を頂いても構わないでしょうか?」


グラナータさんが水掛論になっているルルさんとネロさんの話を無視して、僕に説明を求めてきた。

その方が早いというグラナータさんの現実的判断だろう。

僕は説明してもいいか確認のためにルルさんの方を見た。

ルルさんは首を縦に振りながら一言、無視できないセリフを追加した。


「パーティー・リーダーはウィンだから、ウィンが説明するのが筋だな。」


ルルさん、それも初耳ですが。

どう考えてもリーダーはルルさんじゃないんですか。

経験、知名度、人望、どれをとってもルルさんでしょう。

その闘うこと以外は全部任せた的な態度、止めてもらってもいいですか。

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