第68話 食べるのにちょっと戸惑います(フルーツゼリーとフルーツアイス)

第二章 葡萄の国と聖女(68)



68.食べるのにちょっと戸惑います(フルーツゼリーとフルーツアイス)



○ メガ・フルーツスライム ☆☆

 フルーツスライムの進化種。

 体型 : 大型

 体色 : 赤色

 食性 : 雑食(果実を好む)

 生息地: 森の奥地

 特徴 : フルーツを好むが、何でも酸で溶かして吸収する。

      攻撃を受けると強酸の液体を飛ばす。

      打撃が効かない。

      火にかなり耐性がある。

      可食(フルーツアイスに似ている)

 特技 : 飛酸(強)・打撃無効・火耐性(大)




メガ・フルーツスライムの巨体がプルプルしながら防護柵にのしかかる。

防護柵には魔物避けの効果が付与されているので普通なら乗り越えられないはずだ。

しかししばらくするとメガ・フルーツスライムが触れている部分から防護柵が溶け始めた。


魔物情報には「強酸」を飛ばすと表示されていたけど、体表からも分泌できるのかもしれない。

だとすれば接近戦は危険だ。

触れただけで強酸の影響を受ける可能性がある。


うちのメンバーで遠距離攻撃ができるのは僕とハニちゃんだけだ。

タコさんの「墨吐き」は、接触はしないけどかなり近くからでないと届かない。

あとは溶かされる前提での武器攻撃くらいかな。

コンちゃんに「石棒」で殴ってもらうとか。


とりあえず近接戦闘組(ルルさん、ディーくん、タコさん、ウサくん、スラちゃん、ラクちゃん)には後ろに下がってもらい、僕とハニちゃんとコンちゃんが前に出た。

コンちゃんには長めの石の棒をクエストで出して渡してある。


こちらの戦闘準備の気配を感じ取ったのか、メガ・フルーツスライムは防護柵を溶かしながら、こちらに向かって「強酸」を飛ばしてきた。


「石壁!」


僕はクエストで石の壁を出して攻撃を防ぐ。

「強酸」が石壁に触れると、その部分からあっという間に壁が溶けて崩れてしまった。


「炎!」


石壁が消えたタイミングで、小手調べに炎で攻撃してみる。

いちいち発声する必要はないんだけど、集団戦だと黙ってクエストを発動するより声に出した方が仲間に分かりやすいかと思ってそうしている。

けして格好をつけているわけではありません。


僕の発声と同時にメガ・フルーツスライムを包み込むように大きな炎が出現する。

練習の成果でかなり大きい炎を出せるようになった。

一瞬、その巨体が燃え上がったように見えて喜びかけたけど、すぐに掻き消すように消えてしまった。

「火耐性(大)」の効果ってすごいね。


メガ・フルーツスライムは「まったく効かないよ」とでも言うように、巨体をプルンプルンと揺らしている。

その巨体を狙って次はコンちゃんが「石棒」を振り下ろした。

しかしメガ・フルーツスライムの体はそれを柔らかく受け止め、ポヨンと弾き返した。

予想はしてたけど、「打撃無効」に打撃はまったく意味がないね。

しかも「強酸」の影響で「石棒」はすぐに溶けちゃったし。


最後にハニちゃんが空中から「毒針」を飛ばす。

体が大き過ぎて核がどこにあるか分からないので、毒の効果に期待しての攻撃だ。

ハニちゃんの「毒針」はメガ・フルーツスライムの体にかろうじて刺さった。

でも巨体が一度プルンと震えると、毒針は簡単に抜けてしまった。

毒が効いた様子は・・・うん、たぶん効いてないね。

「強酸」が毒の効果を打ち消すのかもしれない。


「ウィン、退屈だ。そろそろ本気でやれ。」


後ろからルルさんがそう言ってきた。

あっ、やっぱりバレてました?

でもいろいろ検証しておきたいじゃないですか。

あっ、分かりました。

ルルさん、そのキレそうな顔はやめて下さい。


まだ試したいことはあったけど、長引かせて葡萄畑に「強酸」をばら撒かれると被害が大きくなるので、そろそろ本気で倒しにいこう。

けして、ルルさんが怖いからじゃないよ。


「氷塊!」


僕が叫ぶと、メガ・フルーツスライムを包むように立方体の氷が出現し、その巨体を氷漬けにした。

特技の中に氷に対する耐性はなかったのでたぶん大丈夫だと思っていたけど、メガ・フルーツスライムは氷の立方体の中で身動きもできず凍りついている。


「ルルさん、お願いします。」

「分かった。」


僕が声をかけると、後ろにいたルルさんがスッと前に出て、立方体の氷の塊に右の拳を叩き込んだ。

次の瞬間、氷の塊が中のメガ・フルーツスライムごと粉々になって崩れ落ちた。

よく見ると粉々になった氷はそのひとつひとつが小さな立方体になっていた。


ルルさん、それ何ていう技ですか?

僕はただ、凍らせてルルさんの「破壊」で砕けばいいよね、くらいに思ってたんですけど。

どうやったら拳の一撃で大きな氷の塊を小さなアイスキューブの集合体に変えらるんですか?

しかもアイスキューブの大きさ、全部同じですけど。



…お取り込み中、すみません・・・…



ルルさんの一撃について少し舞い上がっていると、「中の女性」のメッセージが流れた。

島からこちらの国に戻ったのでまた管轄が変わったんだね。

どうしたの?



…遅くなりましたが、クエスト達成のお知らせです…



そう言えば、島の外で初めて魔物を倒したんだよね。

でもいつもは1体目を倒すとクエストが表示された気がするけどクエストの告知、遅くない?



…すみません。流れを切るのも申し訳なかったので今になりました。討伐クエストを表示します。…



○討伐クエスト

 クエスト : フルーツスライムを倒せ

 報酬   : フルーツゼリー(1個)

 達成目標 : フルーツスライム(5体)

 カウント : 3/5(25回達成済み)



○討伐クエスト

 クエスト : メガ・フルーツスライムを倒せ

 報酬   : フルーツアイス(10個)

 達成目標 : メガ・フルーツスライム(1体)

 カウント : 達成済み(初)



「中の女性」のメッセージに続いて討伐クエストが表示された。

無難なところから指摘すると、カウント表示の最後に達成済み回数が追加されている。

クエストの表示も徐々に改良されるんだね。


それから今回はTAMEクエストが表示されていない。

魔物をテイムするには何か特別な条件があるのだろうか。

まあ果てしなく従魔が増えるのも困るけどね。


そして最後に問題の報酬。

フルーツゼリーとフルーツアイス。

魔物情報にフルーツスライムはフルーツゼリー味、メガ・フルーツスライムはフルーツアイス味みたいなことが書いてあったけど。

まさか、この報酬の原料・・・。


そんなことを考えながら後ろを振り返ると、ウサくんの隣にフルーツゼリー(透明で小さな器入り)とフルーツアイス(透明で少し大きな器入り)らしきものが並べられていた。


これ、食べても大丈夫なんだろうか?

後でルルさんに訊いてみよう。

いや、ルルさんはダメかも。

戦闘のこと以外はいい加減だからね。

食べ物のことはアリーチェさんに訊くのが一番だね。


ふとウサ君の隣を見ると、タコさんが透明で小さな器と透明で少し大きな器を2本の足で抱えていた。


タコさん、もう食べてるの?

大丈夫?

美味しいって?

本当に?

なるほど、葡萄味ですか、そうですか。

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