第59話 従魔を呼び出します(召喚:召喚解除)

第二章 葡萄の国と聖女(59)



59.従魔を呼び出します(召喚:召喚解除)



光の中から従魔たちが現れた。

タコさん、スラちゃん、ウサくん、コンちゃん、ハニちゃん、ラクちゃん、ディーくんの順に並んでいる。

やっぱり従魔になった早さで序列があるのかもしれない。


でも君たち、その変なポーズは何なのかな?

みんなで打ち合わせでもしたの?

呼び出したこちらが恥ずかしくなるから、とりあえず普通にして欲しいんだけど。


「これはまた・・・」

「「「キャー」」」

「「「ウォー」」」


何か言おうとしたルルさんの後ろで、男女混合の悲鳴が重なり合って上がった。

あっ、ヤバ。

ここ、街の中だった。

しかも商業ギルドの前。

いきなり魔物がたくさん現れたら大混乱しちゃうよね。


「召喚解除!」


できるかどうか分からなかったけど、とりあえず叫んでみた。

親切な(もちろん皮肉)「中のヒト」のおかげで、イマイチ取り扱い方が曖昧な能力、多いんだよね。

でも今回はうまくいったようで、従魔たちは変なポーズのまま、光の粒になって消えていった。


心の中で「セーフ」とか思っていると、全然セーフではなかった。

騒ぎを聞きつけて街の衛士の方々がたくさん集まって来てしまった。

どうやって誤魔化そう?


「魔物はどこにいる!」


衛士の中で上役らしき人が大声で叫びながら僕の方に向かってくる。

基本大きいドワーフ族の中でも一際大きく頑丈そうな体格で迫られると、悪いことをしてなくても思わず逃げ出しそうになる。

いや、この場合、悪いことをしてないとも言い切れないのか。


「魔物を街の中に連れ込んだのは貴様か!」

「連れ込んだ訳ではないんですけど・・・。」

「見た者が多数いる。言い逃れはできんぞ。」

「いえ、呼び込んだのは確かなんですが・・・。」

「魔物を呼び込んだだと! 貴様、呪術師の類か!」

「いえ、どちらかというと・・テイマー? 召喚士?」

「バカを言うな。テイマーや召喚士が一度に多くの魔物を扱える訳がない。見た者の話によると魔物の数は5体以上。見当たらぬが、どこに隠した!」


説明が下手なのは自覚している。

自分のことを含め、いろいろ分かってないことが多過ぎるせいだけど。

たぶんこのままでは、絶対に話がおかしな方に進む。

こんな時は、助けてルルさんだよね。


「アンドレア隊長、少しいいか?」


僕の視線に込められた思いを正確に読み取ったルルさんは、激昂している衛士の男性に声をかけてくれた。


「なんだ? あっルル様! どうしてこちらに?」


衛士さん(アンドレア隊長)はルルさんを前にしてちょっと焦っている。

ごめんなさい、アンドレア隊長、最終兵器を使ってしまって。

僕は心の中で彼に謝った。


「紹介させてくれ。こちら、私のパートナーのウィンだ。」

「えっ? ルル様の? えっ? パートナー!?」


えーと、ルルさん。

一撃で場を落ち着かせるのはさすがですが、何か紹介の仕方がおかしくなかったですか。

それともパーティーメンバーのことをこの国では「パートナー」と呼ぶんですかね。


「そうだ。冒険者で凄腕のテイマーだ。魔物を20体以上テイムできる。」

「20体以上!」

「召喚と召喚解除もできる。」

「何と・・・」


ルルさんとアンドレア隊長の話は、ほぼルルさんの独壇場。

集まってきた衛士や周囲の人々も聞き耳を立てている。

「伝説のテイマーなのか・・」とか「幻の召喚士では・・」とか、物騒な囁きが漏れていますが聞こえなかったことにします。

でもルルさん、従魔20体は盛り過ぎじゃないですか。

まあできそうな気もしますけど。


「従魔なので危険はないが、街中で許可も取らず召喚したことは謝罪する。すでに召喚解除したので安心してくれ。」

「はっ、了解致しました。」

「問題になるようなら、釈明のためにウィンを出頭させるが。」

「いえ、ルル様のパ、パ、パートナー様であれば問題はないかと。」


アンドレア隊長、パートナーに様付けしてる。

ちょっと可哀想になってきた。

でも隊長ってことは、街の中の治安を守る衛士隊の隊長だよね。

あれ衛士?兵士?

内側を守るのが衛士で外に攻めるのが兵士?

門のところにいるのはどっちだろう?


ちょっと暇だったので興味本位でアンドレア隊長を人物鑑定してみた。



名前 : アンドレア(35歳) 男性

種族 : ドワーフ族

職業 : 衛士(隊長)

スキル: 強腕・打撃・物理軽減

魔力 : 45



やっぱり衛士だった。

ついでに集まっている人たちに片っ端から人物鑑定をかける。

ドワーフの国なのでドワーフ族の人が多かったけど、ヒト族や獣人族、エルフ族もちらほらいる。

見た目には判別しにくいけど混血の人たちも一定数いるようだ。

種族の垣根はそれほど高くないのかもしれないな。


そんなことを考えているとルルさんがこちらを向いた。


「ウィン、アンドレア隊長に謝罪を。」


そうですよね。

他人事みたいに見てたけど、原因は自分だからね。


「アンドレア隊長、お騒がせしてすみませんでした。」

「いえ、こちらこそ言葉がキツくなってしまって申し訳なかった。魔物が出たと聞いて焦ってしまってな。」

「今後は騒ぎを起こさないよう行動に気をつけます。」

「そうしてくれると助かる。それにしても20体以上の魔物を従えるとは・・・まるで勇者だな。ルル様を射止めるのも当然か。街の男ども・・・今夜は荒れるな。」

「はいっ?」


ルルさん、言い方が紛らわしいから誤解されてますよ。

すぐ訂正しないと。

というかすぐに訂正して下さい。


「アンドレア隊長、この街にウィン以上(に面白い)の男などいない。一目でその(風魔法の)美しさに魅了された。仲間(従魔)たちにも恵まれているしな。私は(存分に戦闘ができそうで)幸せ者だ。」

「ルル様・・・『孤高の聖女』と呼ばれるあなたがそこまで・・・」


アンドレア隊長が涙目になってる。

周囲の人たちからもすすり泣きの声が・・・。

ルルさん、あなた何をやらかしてくれちゃってるんですか。

言葉が足りなさ過ぎて180度違う話になってるじゃないですか。


「ルルさん、行きますよ。」


僕は強引にルルさんの腕を引っ張り、人だかりの中から逃げ出した。

これ以上ルルさんが喋ると大災害の未来しか見えないし、かといって僕がきちんと説明できるとも思えない。

とにかくどこでもいいからどこかに行こう。


「ところでウィン。」


しばらく黙って腕を引かれていたルルさんが立ち止まって話しかけてきた。


「強いのか?」


相変わらず主語とか目的語とかいろいろ抜けている。

何を聞かれているのか分からない顔をしているとルルさん続けた。


「従魔たちだ。」

「強いですよ。」

「星の数は?」

「全員3つです。」

「ふふふ、それは楽しみだな。」


あ、この人、従魔たちと戦う気満々だ。

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