第26話 魔力は感じられません(NO LIMIT③)
第一章 はじまりの島(26)
26.魔力は感じられません(NO LIMIT③)
よく体を温めて寝たおかげか、昨夜はぐっすり眠ることができた。
窓の外はまだ薄暗く、早朝の気配がする。
ベッドから体を起こし、脱ぎっぱなしにしていたジーンズとシャツを着る。
昨夜、浴室で服を脱ぐ時に改めて気づいたんだけど、あれだけ森の中で転がり回ったのに、服がまったく汚れてないんだよね。
思うに、ウサくんのヒールには傷の治療と状態異常の回復以外に、浄化も含まれているんじゃないだろうか。
リビングを覗いてみると、従魔たちはすでにいなくなっていた。
それぞれの居場所に帰ったのかな。
ちょっと寂しい。
さて、今日は何をしようかな。
森の中の探検を進めるもよし。
クエストの検証に当てるもよし。
とりあえず体力作りと生活の質の向上を兼ねて、砂浜を走るとしますか。
リビングで水を一杯飲み干してから早朝の砂浜に出る。
空にはわずかに星が消え残り、凪を迎える前の陸風が海へと吹き抜けて行く。
(従魔たちも増えたことだし、まずは小屋のリフォームだね。)
走るなら砂浜より草原の方が楽なのは分かってるけど、あえて砂浜を走ることにした。
理由はもっと自分自身を鍛えようと思ったから。
これからのことを考えれば、体力や身体能力は高ければ高いほど良い。
砂を蹴る感覚を一歩一歩確かめるように走り始める。
今朝は昨日より体がとても軽い気がする。
これ、確実に身体能力が上がってるよね。
自分の状態が数字で確認できるといいんだけど、ステータスやパラメーターは見えないようだ。
恥ずかしさを押し殺して「ステータス・オープン」とつぶやいてみたり、「自分の能力が見たい」とか念じてみたけど、視界には何も表示されなかった。
そんなものはないのかもしれないし、まだ見えないだけなのかもしれない。
ちなみに今日のリフォーム・メニューは次の通り。
リビングルーム(拡張 基本×4)
椅子(子供用)×2
ローテーブル×2
浴室(拡張 基本×2)
浴槽(拡張 基本×2)
倉庫(拡張 基本×2)
倉庫の棚(追加)
作業部屋(追加)
従魔の増加に伴う備品の追加と空間の拡張ってとこかな。
合計でダッシュ100本はちょっとキツイかと思ったけど、後半になるほど楽になっていく感じだった。
体力の伸び方が早過ぎると思います。
ダッシュが終わったので、浜辺に座って今日この後何をしようかと考える。
(森に行ってもいいんだけど、昨日の感じからすると次の魔物はさらに強くなるんだろうな。現状のままだとちょっと無理だと思うんだよね。もっと準備しないとダメだ。)
ということで、まずは戦いで使用できそうなクエストの性能を可能な限り検証することにした。
一番手は「WATER」から行ってみよう。
浜辺に座ったままで、海に向かって「WATER」を発動し続ける。
カウントを稼ぐついでに個数を増やす練習や規模を大きくする練習、早さや精度を上げる練習をする。
昨日のハニー・ミニマ討伐戦でかなり使用したおかげもあってか、思ったよりも早く新しい表示が出た。
○クエスト : WATER
報酬 : 水(NO LIMIT 個数・規模・形態)
カウント : 1000
カウント1000でNO LIMITの項目に形態が追加された。
形態制限解除ということは、クエストで発現する水の形を自由に変えられるということだろうか。
おそらくこれもかなり練習が必要そうな予感がする。
とりあえず思い付くものを試してみよう。
「水壁(ウォーター・ウォール?)」
水でできた壁をイメージしながら発声すると、目の前に小さな水の壁が現れた。
初回で成功するとか天才か、とか思っていると一瞬で水の壁は崩れて落ちた。
落ち着いて真面目に検証ポイントを考えてみる。
まずは大きさ。
どこまで壁を大きくできるのか、あるいは小さくできるのか。
次に維持時間。
壁が出現している時間はどれくらいか、その時間を伸ばすことはできるのか。
最後に強度。
物理攻撃を防げるのか、魔法攻撃を防げるのか、どの程度まで防げるのか。
時間をかけて試行錯誤を繰り返した結果、大きさと維持時間については訓練によって能力が上がることが分かった。
この辺は個数や規模の時と同じだ。
強度については一人では検証できない。
後で従魔たちに手伝ってもらおう。
「水壁」の検証がひと段落したので、別の形態に挑戦してみる。
結果は次の通り。
○水矢(ウォーター・アロー?)
水が矢の形になった。
でも飛ばない。
飛ばすイメージをしても飛ばない。
そして下に落ちた。
使い方が分からない。
○水刃(ウォーター・カッター?)
水が薄いヤイバの形になった。
これも動かない。
しばらくすると崩れて落ちた。
使い方が分からない。
○水雨(ウォーター・フォール?)
イメージした場所から、普通に雨が降った。
農業には使えるかもしれない。
あと消火作業にも。
自分の想像力が足りないのか、効果的な使用方法がなかなか思いつかない。
規模の熟練度を上げれば津波とか洪水とかできそうだけど、習得には時間がかかりそう。
あとは、どうすれば動かせるようになるか。
実戦の中で工夫して行くしかないかな。
「FIRE」、「STONE」、「ICE」についても、カウント1000まで発動し続けると、すべて形態制限が解除された。
「石壁」と「氷壁」は物理的にもかなり強そうだった。
「炎壁」は攻撃を燃やし尽くせるかもしれない。
「矢」はすべて、形にはなるけど飛ばない。
「刃」も同じ。
「雨」は使えるかも。
石と氷の雨は痛そうだし、炎の雨は燃えるからね。
ここまで検証を進めて、ふと基本的な問題に立ち返る。
(これって魔法なのかな?)
魔法であれば、たぶん魔力が必要なんだと思う。
でも自分の中に魔力を感じたことはない。
体の中をめぐる何かだとか、空気中に溶け込んでいる何かだとか、お腹の下のほうに何か温かいものを感じるとか。
そういう感覚はまったくないんだけど。
確かに現象だけ見ると魔法のように見えるけど、今日のように大量にクエストを繰り返しても平気っていうのは、どういうことなんだろう?
体の中から何かが抜ける感覚とか、限界がきて倒れそうになるとか、そういうことも一切ない。
(魔力を無尽蔵に持ってるとか?)
そう考えてすぐ否定する。
直感的にそうじゃないと感じている自分がいる。
発現する現象は、あくまで『クエスト』の報酬で、自分の魔力を使用する魔法ではないと。
じゃあ『クエスト』って何?
うん、考えても全然分からない。
分からないことは先送りしよう。
「中のヒト」も教えてくれないし。
体より頭の中が疲れてきたので一度小屋に戻ることにする。
検証も大事だけどお腹も空いてきた。
おにぎりでも出して食べよう。
あと倉庫にある野菜で何か作ろうかな。
そんなことを考えながら小屋の入り口まで戻ると、そこには従魔たちが勢揃いしていた。
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