第18話 そろそろ戦おうと思います(クエスト:短剣)

第一章 はじまりの島(18)



18.そろそろ戦おうと思います。(クエスト:短剣)



〜(独白)〜


草原を歩いています。

森に向かって。

後ろには、ウサくん、スラちゃん、タコさん。

縦一列で行進してます。

右手に黒い短剣を握りしめて。



  *   *   *   *   *



4枚の陶器のお皿はキッチンの棚に収めた。

リビングに戻り、スラちゃんの前にインゴットと小石、ウサくんの前に薬草の束を置いた。

タコさんは、すでにアゴーの唐揚げをかじっている。

自由だよね、タコさん。


念のため、おにぎりと水を人数分出しておく。

途中でガラスのグラスと冷蔵庫の水差しを思い出したけど、面倒だからこれでいいか。


タコさんがおにぎりとサーベルの塩焼きを交互にかじる。

ウサくんもおにぎりを両前足で持ってかじっている。

ウサくんは草食だよね。

おにぎりは穀物だからOKなのか?

スラちゃんもおにぎりを吸収している。

スラちゃん、それは鉱石類ではないと思うよ。


自分用のおにぎりを食べながら、タコさんのお皿からアゴーの唐揚げを摘んでいると、タコさんが水槽の方に移動して、足に持っていたおにぎりの残りをその中に投げ入れた。


(何してるの?)


ビックリして見ていると、ジュエルたちはおにぎりに集まりパクパクと食べ始める。

食い付きは、かなりいい。

照明用ジュエルたちの餌問題が、悩む前に解決してしまったようだ。

そして新たに「おにぎり万能説」が浮上した。


その夜はなぜか、食事が終わっても誰も帰らなかった。

みんな新しく増えたソファでまったりしている。

明日の朝食の食材探しはいいのかな?

ウサくんは座って目を閉じてるし、スラちゃんはベチャッとつぶれている。

タコさんは足をいろいろな角度に曲げたり伸ばしたりしている。

新しいジェスチャーの練習かな?


(帰りたくなったら、勝手に帰るだろうし。まあいいか。)


ということでそのまま放置することに決定。

午前中のクエストでダッシュと反復横跳びをたくさんしたせいか、急激に眠気が襲ってきたので、寝室に入って寝ることにした。



  *   *   *   *   *



「おはよう。」


朝起きてリビングに行くと、みんながいたので朝の挨拶をする。

一度帰って戻ってきたのか、ずっとここにいたのかは判断できない。

雰囲気的にはずっといたみたいだけど。


スラちゃんは球形になって、御影石の床をコロコロ転がっている。

スラちゃん、そんな形にもなれるんだね。

ウサくんは、ソファで丸まっている。

たぶん、まだ寝てる。

タコさんは、水槽のそばでジュエルたちを見ている。

タコさん、ジュエルたちが怯えているので、やめてあげて下さい。


朝食は基本に戻って、おにぎりと薬草と小石を出した。

ジュエルたちにもおにぎりをあげる。

誰も朝食の材料を持ってきていないようなので、みんなずっとここにいたのかもしれない。


自分の分は、おにぎりと青汁。

朝食としてバランスがいいのか、悪いのか。

今後、食材が集まったら改善していきたいと思います。


ちょうど全員揃っているので、今朝目覚めて、突然決意したことを伝えることにする。


「今日、森に行こうと思う。」


宣言してみんなを見渡す。

全員無反応、いや微反応。

「それで?」って感じの視線。


あれっ、たいしたことじゃなかったりする?

ちょっと気負ってた自分が恥ずかしくなる。

この雰囲気どうしようかと戸惑っていると、スラちゃんが近くまで来て何かを体から出した。


それは昨日食べた黒いインゴットじゃないのかな?

それ、出したり入れたりできるの?

今まで食べたインゴットも全部?


答えのない問いかけを心の中でつぶやいていると、スラちゃんがインゴット(黒)をツンツン押し出してくる。

そして体の端をタコさんの足のような形にして、ビシッとそのインゴット(黒)を指し示した。


(それって、タコさんの真似? 燃やせってこと? いや錬金か?  まあ、同じだけどね。)


ベルちゃんが急かすように体をプルプルさせているので、床からインゴット(黒)を拾い上げ、キッチンのシンクの中に置き、「錬金」してみた。


燃えている時間がかなり長い。

錬金クエストは対象によって必要な時間が異なるようだ。

体感で1分間くらい待って炎がおさまると、シンクの中に黒くて細長いものが現れた。

よく見てみると全体が真っ黒な片刃の短剣だった。


(これは・・・錬金というより鍛治では・・)


…錬金だ(怒)…


中のヒトがかぶせてきた。

中のヒト、お久しぶりです。

もう忘れられたかもと、ちょっと思ってました。

(怒)の文字が懐かしいです。


…短剣を持て(怒)…


2度目の(怒)を受けて、慌てて短剣を手にした。

すぐに視界の中にクエストが表示される。


 

○クエスト : 短剣を成長させろ

 報酬   : 剣(黒)

 達成目標 : 魔物を倒す(1000体)   



いろいろ突っ込んでもいいですかね。

返事は無いんでしょうけど。

剣を成長させるクエストなんですね?

剣術の成長ではなく。

あと、いきなり魔物1000体って・・・。


まあ、とにかく、初めて物理的な武器を手に入れた。

武器を使う能力が自分にあるのかどうか、かなり疑問だけど。



   *   *   *   *   *



そして今、目の前に森が迫っている。

不思議と緊張感や恐怖感はない。

心の中で何らかの準備ができたのか。

それともこの世界のほうの準備が整ったのか。


「ついて来なくてもいいんだよ。」


森の直前で立ち止まって、後ろを振り返る。

ウサくんとスラちゃんとタコさんの顔を見る。

3人は同時に首を横に振る。

特に気負った様子もない。


彼らはもともとこの島の住人なので、この森の中のことをよく知っているのかもしれない。

でもまったく危険がないということはないはずだ。

何か試練のようなものがあるはず。

そうでなければ、このタイミングで短剣のクエストが出たりしないだろう。


「短剣クエスト」の達成目標は魔物1000体。

達成すると短剣が剣に成長する。

成長すると武器の強さとか能力が上がるんだろうか。

それについては説明がない。

でもこれって、もちろん長期クエストだよね。

一度に1000体倒せってことはないよね。

一度に1000体も魔物が出てきたらビビる。

まあそんなことがあったら、迷わず逃げ出すけど。


ということで、森に入ろうと思います。

ウサくんとすらちゃんとタコさんを引き連れて。

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