第6話 さんかくの白いやつ(クエスト:RICE)

第一章 はじまりの島(6)



6.さんかくの白いやつ(クエスト:RICE)



(ゴクゴクゴク)


腕立て伏せ10回で獲得した水は、ノドが乾いていたのですぐに飲み干した。


本当に水なのかとか、

毒は大丈夫なのかとか、

何かの罠じゃないのかとか、


様々な意見もあると思いますが、この状況でそんなことを警戒してみても、ほとんど意味がないので割愛させて頂きます。


ただひとつ残念だったのは、水が入っていたグラスが消えてしまったこと。

グラスの中の水を飲み干した瞬間に、唇に当たっていた冷たい感触も、指先に感じていた硬質な重さも、同時に消えた。

もれなくグラスも付いてくる、ということはなく、やはり報酬は水だけだったらしい。


(検証しなきゃね。)


さてここからは検証のお時間です。

じっくり時間をかけていきたいと思います。

死活問題ですから。


まずは再現性の確認。

クエスト「水が欲しい」は再現できるのか?


水が欲しいと心の中で念じる。

一瞬で視界にクエストが表示される。

ここで違和感。

あれっ、「設定」の手順がなくなってる。

一度セットすれば「設定」する必要がないのかもしれない。


腕立て伏せを10回する。

グラスに入った水が現れる。

水を飲む。

グラスが消える。

ここまでがワンセット。


確認のため3セット繰り返してみたけど、結果はまったく同じだった。

合計でグラス4杯の水を飲み、喉の乾きはおさまった。

次はどうしようかなとしばらく考えて、もう少し水のクエストを続けることにした。

連続でどこまでできるかとか、腕の疲れ以外に何か体調に影響するかとか、回数をこなすと何か変化があるかとか、いろいろ検証したいことがあったからね。


(あっ、なんか変わった。)


変化は通算10回目のクエスト達成後に訪れた。

視界の中のクエスト表示を見ると、微妙に内容が違う。

達成目標の項目から「腕立て伏せ」が消えて、「NO NEED」

と表示されている。



○クエスト : WATER

 報酬   : 水(グラス1杯)

 達成目標 : NO NEED



(『NO NEED』って、必要ないって意味だよね。)


結果から言うと、これ以降は「水」と念じるだけで報酬の水が現れるようになった。

目標を達成する必要がなくなったということだろうか。

もしそうなら、使い勝手が良過ぎる。

思うだけで飲み水を確保できるなんて水道より便利。

これで水源を探したり雨が降るのを待ったりしなくていい。

ちょっと安心した。

でも回数制限とかないよね。

ないことを祈ろう。


(「水」の次はどうしようかな?)


砂浜に並べられたたくさんのグラスを眺めながら思案する。

もちろんグラスの中にはすべて水が入っている。

ちょっと調子に乗って出し過ぎたね。

いくら喉が乾いたといっても、一度にそんなには飲めないしね。


(まず、素材から試そうか。)


水は自然に存在するものだ。

このクエストというものが物質を具現化するものなら、とりあえず素材的なものから検証してみるのがいい気がする。

素材が終わったら人工的なものも試してみようかな?

道具とか、武器とか、防具とか。


エレメント的な思考もありかもしれない。

「火」とか、「土」とか、「風」とか。

「光」とか、「闇」とか。

物質に限らなければ他にも可能性はあるよね。

魔法とか、身体強化とか、スキルとか。


(だけど、その前にすることがある。)


平常時なら、基準を定めて緻密にひとつひとつ確認作業をしたいところだけど、今は生物学的思考を優先したいと思う。

つまり、とてもお腹が空いたので食べ物優先で。


ということで、思いつく限りいろいろ試してみよう。

最初のクエストが「水が欲しい」だったので、そのパターンをまず追求してみた。

「〜が欲しい」の「〜」の部分に、知っている料理名を順番にはめ込んでみたり、そのままでも食べられそうな素材の名前を(苦手なものは除外して)当てはめてみたり。


しかし残念ながらほとんど反応はなかった。

ほとんどというのは、ごく稀に短いテロップが高速で流れることがあったから。


…・・・… (呆れてる感じ)

…ふっ… (馬鹿にしてる感じ)

…まだ早い… (身の程をわきまえろって感じ)


明らかに「中のヒト」、感情とか人格とかあるよね。

だったらもう少し説明なり、手伝いなりしてくれてもいいんじゃないかな。


今使えるクエストはこれとこれで、こうするともっとできることが増えるとか、こんなことをしたければこれをクリアすればいいとか、そういう助言が欲しいんだけど。


そんな不満を心の中で呟いてみても、「中のヒト」から反応はない。仕方がないので淡々と食べ物トライアルを続けた結果、ようやくひとつだけクエストの設定に成功した。



○クエスト : 「白い米が食べたい」

 報酬   : おにぎり

 達成目標 : 腹筋(10回)



視界の中に待望の食べ物系のクエストが表示された。

なぜこのクエストが成立したのか。

理由はまったく分からない。

でもそんなことは考えるだけ無駄なんだろうな。

論理的な答えなんて無いような気がする。

とにかくクエストが成立した以上、挑戦してみるしかない。


砂浜の上に仰向けに寝転がり、普通に腹筋運動をする。

足を抑える役がいないのでやりづらかったけど、下が柔らかい砂だったのでまだマシだった。


腕立て伏せの時にも感じたけど、この体はけっこう身体能力が高いようだ。

最初は少しぎこちない感じの腹筋運動だったけど、すぐに体が慣れてスイスイできるようになった。

気付くとあっという間に規定回数の10回をクリアしていた。


10回目の腹筋を終えた僕は、期待に胸を膨らませて上体を起こす。

水のクエストと同じなら、きっとアレが出現するはず。

腹筋をするために揃えた両足の先を見て、さらにその先の砂浜を見る。

そこには白いお皿が1枚出現していた。

そしてその上には、綺麗な三角形の白い物体、「おにぎり」がひとつ載せられていた。


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