第5話 一杯の水(クエスト:WATER)

第一章 はじまりの島(5)



5.一杯の水(クエスト:WATER)


一歩踏み出した状態で立ち止まっている。

正確には立ち止まるというより、固まっている感じ。


(???)


今、確かに文字が見えた。

テレビ画面の下にテロップが流れるように、右から左に流れていった。


やっぱりそうですよね。

そういうのがないとやっていけませんよね。

でもそれってどういうのでしょうか。

「設定しろ」だけでは、意味が分かりません。

ちょっと説明不足じゃないかな。


動揺のせいか、心情が丁寧語になってしまった。

でもこれで、転生なのか、転移なのか、召喚なのか、とにかくそういう世界ということでほぼ確定。


でも神様には会っていないし、ガイド役の妖精とかもいないし、経緯と使命を伝えてくれる金髪縦ロールの王女様もいない。

たぶん、今流れたテロップがその役割なんだと思うけど。


さて次はどうしようか。

まあ、いろいろ試してみるしかないかな。

まずはストレートに尋ねる所から始めよう。


「設定しろって、どういう意味ですか?」


声に出して聞いてみた。

この島で初めて、誰かに話しかけたかもしれない。

他に誰もいなかったからね。

独り言はいろいろ呟いてたけどね。


テロップを見逃さないように、しばらく瞬きを我慢してみたけど、何も反応がない。

答える気がないのか、方法が間違っているのか。

念のため、心の中でも訊いてみることにする。


(設定しろって、どうすればいいですか?)


しばらく待ってみたけど、これにもまったく反応がない。

会話が成り立っているのではなく、一定の条件を満たすと反応するのかもしれない。


テロップが流れた時の状況をよく思い出してみる。

条件に反応するのなら、同じことをすれば同じ結果が得られるはずだ。

おそらく最後の言葉がトリガーだろう。

そう考えてその言葉を声に出して言ってみる。


「水が欲しい。」


…設定しろ…


即座にテロップが流れる。

右から左に流れて、そのまま消えてゆく。

キーワードは「水が欲しい」。

しかしやはりそこから展開がない。


どうしたらいい?

もうちょっとヒントが欲しい。

あるいはトリセツとか。


仕方がないので、もう一度繰り返そう。

三回唱えればうまく作動するとか、そういうのならいいんだけど。


「水が欲しい。」


…だから、設定しろ(怒)…


あれ?

何か反応が変わった。

(怒)が付いてるし。

もしかしたら、会話が成立してる?

向こう側の人? 中のヒト? 怒った?


怒られてしまったので(文字で)、同じことの繰り返しはやめておくことにした。

また怒られるだけならいいけど、反応がなくなると困るよね。


さてどうしようか。

そうだなぁ・・・

単純に考えてみようか。


「設定。」


頭の中で明確にその言葉をイメージしながら声に出して言ってみた。少し間があって、文字列が流れ始めた。

そしてそれらの文字は、視界の中で消えずに止まった。



○クエスト : 「水が欲しい」

 報酬   : 水

 達成目標 : 腕立て伏せ(10回)



文字列が流れて消えてしまったわけではないので、慌てず落ち着いて表示された内容を吟味する。


「タコさん」と「スラちゃん」と「ウサくん」を、見てしまった後なので、どんなことでも受け入れる覚悟はできていた。


(クエスト、報酬、達成目標。)


ひとつずつ表示を確認する。

つまり、「水が欲しい」と望んだら、「水」を得るためのクエストが設定され、「腕立て伏せ」を10回すれば、それを得ることができる。


こういうシステム?

もしくはスキル?

それとも「中のヒト」の能力?


まあ、理屈はどうでもいいか。

実践あるのみだね。

今は、背に腹はかえられぬって状態だし。


前のめりにパタリと砂浜の上に倒れる。

自分の体力がどの程度かは把握していないけど、腕立て伏せ10回くらいはできるんじゃないかな。

できるよね。

できることを切実に希望します。

むしろ、この程度が無理なら、この島で生き残るのは無理だよね。


サラサラの砂に両手をついて腕立て伏せを開始する。

体が覚えているのか、かなり腕力が強いのか、予想外にスイスイ進む。


(これ、100回でも楽勝かも。)


あっという間に腕立て伏せ10回が終わってしまった。

数え間違えているといけないので、念のためにもう一回腕立て伏せをする。

まさか多過ぎて無効ってことはないよね。


(さあ、報酬の水は・・・)


腕立て伏せの体勢から体を起こす。

報酬は本当にもらえるのか?

どんな形でもらえるのか?

どれくらいの量もらえるのか?


いろいろなことを考えながら前を見ると、そこには水の入ったグラスがひとつ砂の上に置かれていた。


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