第3話 草原を歩きます(ウサギ?)
第一章 はじまりの島(3)
3. 草原を歩きます(ウサギ?)
(少し考えよう。)
岩場からスタート地点の浜辺に戻ってきた。
念のため、反対側の岩場もチェックしてみたけど、最初の岩場とほぼ同じ地形だった。
自分が目覚めた地点に立って、真っ直ぐ海を見つめてみる。
緩やかに弧を描く水平線には、島影も陸影もいっさい見当たらない。
少し考えよう、と思ったが考えてみれば、考えることはあまりない。
いや、正確には、考えて解決することは、今のところあまりない。
食べ物をどうしようかとか、寝る場所をどうしようかとか、ここは島なのかどうかとか、他に人はいるのかとか、いろいろと明確にしておきたいことはある。
ただ、考えても、焦っても、祈っても、絶望しても、理不尽を嘆いても、そこに答えはない。
とにかく情報が足りない。
行動して、状況把握を積み重ねて、考えるのはそれからにしよう。
「タコさん」のことも、「スラちゃん」のことも。
(「さん」の次は「ちゃん」にしてみた。)
浜辺は歩いたし、岩場は登った。
次は・・・草原か。
次の行動を決めたので再び動き出す。
海に背を向けて草原の方に向かうことにする。
風はまだ海風で、軽く背中を押してくれる。
“それでいいんだよ“と、気持ちまで後押ししてくれているような気がする。
気のせいだろうけど、そういう思い込みが必要な時もある。
砂浜が途切れた所から土の見える部分が少しあって、その先に短い草が生えた平らな土地が広がっている。
所々、丈の長い草むらもあるけど、低木や花の類は見当たらない。
足元に気をつけて、何か生物(植物以外)がいないかと探してみたけど、チョウもハチもバッタもいないようだ。
(でもきっと、何かいるんだろうな。普通じゃないものが。)
パターンは大事である。
浜辺に「タコさん」。
岩場に「スラちゃん」。
草原に・・・。
危険な生物に遭遇する可能性もあるけど、どうせ隠れるところもないからね。
攻撃的じゃない何かに出会えることを祈ろう。
でもできれば逃げない生き物がいいな。
「タコさん」と「スラちゃん」は、こちらを見て速攻で逃げたし。
逃げられるのって、精神的にちょっとくるんだよね。
草原は、浜辺と森の間に挟まっているので、海を右、森を左に見て歩いてみる。
予想した通りだけど、草原は帯のように続き森に沿って徐々に左に曲がっていく。
(とってもシンプルな『作り』だな。)
しばらく歩き続けてみたけど、景色はほとんど変わらない。
右側に砂浜、時々岩場。
左側に森、森、森。
その間に、緩やかな左カーブで草原。
(これ、円周だろうな。)
ほぼ島で確定っぽいが、行ける所まで行ってみよう。
ということでテクテク歩いていく。
しばらくしてどれくらい歩いたかなと考えて、大事なことに気がついた。
(ここ、どのあたり?)
景色に変化が無さ過ぎて、すでにどの辺にいるのか分からなくなっていた。
目印がないので、既に一周したのか途中なのかも分からない。
一度立ち止まり、空を見上げる。
太陽の角度が、傾いてきているのが分かる。
時間は普通に刻まれているらしい。
そう言えば、少し空腹を感じる。
この世界でもお腹は普通に空くようだ。
そんなことを考えたせいかも知れない。
視線を空から落とすと、少し前方の草原に薄茶色のお饅頭がたくさん落ちているのが見えた。
(お饅頭?)
いや、お饅頭にしてはかなり大きい。
鏡餅の一番下の段より少し大きいくらいかな。
それが20個くらい点々としている。
別に食べたいと思ったわけじゃないけど、進行方向なのでそのまま歩いていく。
モソッ
20個のお饅頭が、完璧に同じタイミングで少し動いた。
予想してたので驚きはしなかったけど、20個の点々がいっせいに動くとちょっと気持ち悪い。
(危ないやつじゃないよね?)
少しビクつきながら近づいて行く。
ひとつひとつの個体が良く見えるくらいの位置まで歩いて行くと、いきなり20個のお饅頭から同時に耳が生えた。
ちょっとビックリして立ち止まってしまう。
本体の大きさに比べるとかなり長い耳が2本ずつ、ピンっとまっすぐに立っている。
(こっちに突進してこない? 20個のお饅頭に追いかけられるとか、悪夢なんだけど。)
立ち止まったまま耳が生えた20個のお饅頭を見つめていると、今度はお饅頭の前面に2つの丸い目が現れた。
もちろん40個の目はすべて、ピタリとこちらを見つめている。
(今までのパターンだとむこうが逃げるはず、っていうか逃げて下さい。)
目を凝らして見ると、お饅頭の耳と目の間くらいに、小さなツノが1本生えている。
(ウサギっぽい? ツノがあるけど・・)
40対2の睨み合いがしばらく続く。
40個の目は瞬きもしない。
こちらも下手に動くとウサギっぽい何かを刺激しそうで、身動きできない。
(早く逃げ出してくれないかな。 こちらが逃げると追いかけられそうだし。)
繰り返すけどパターンは大事。
「タコさん」も「スラちゃん」も凄い勢いで逃げた。
でもあれは両方とも単体だったし、集団だと逃げない可能性もあるのか?
色々考えていると、ウサギっぽい何かのほうが先に動いた。
まずこちらを見つめていた目がいっせいに閉じられた。
次にピンと立っていた耳が同時に消えた。
そしてお饅頭型の体が徐々に草原の下に沈み始め、そのまま消えてしまった。
(地面の下に潜った?)
パターンは、考えてもいない方向に裏切られたようだ。
まあ、突進されることを思えば、不思議な現象のひとつやふたつ、どうってことないけど。
それにしても沼の中に沈んでいくような消え方だった。
どうやったんだろう?
しばらく辺りの気配を伺う。
また地面からいきなり飛び出して来ないとも限らない。
でも草原は、初めから何もいなかったかのように静まり返っていた。
(ウサギっぽいので、「ウサくん」にしよう。「さん」「ちゃん」と来れば次は「くん」。名前は分かりやすい方がいいよね。)
他に誰もいないのに心の中で言い訳しながら、再び草原を歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます