クエスト・メイカー 

ティーティー

第1話 浜辺で目覚める(異世界?)

第一章 はじまりの島(1)


1.  浜辺で目覚める(異世界?)


何かが足元に触れた。

冷たい感覚が繰り返し脳に伝わる。

だんだん意識が浮かび上がる。


(体が暑い。)


ゆっくりと目を開けると、視界いっぱいに青色が見えた。

しばらくそのままでいると、ようやく見えているものが青空だと理解できた。


どうやら眠っていたようだ。

いや、気を失っていたのかもしれない。

体を起こそうと両腕に力を入れると、両手がサラサラしたものを掴んだ。

そのまま上半身を起こすと、はじめに見た青空とはまた違う色合いの青い海が見えた。

足元に触れていたのは波だった。


(晴天の浜辺にいる。)


単純な事実だけ把握した。

そして少しずつ思考を動かす。


(困った時は、5W1Hだっけ?)


順番はよく分からないけど考えてみた。


とりあえずここはどこだろう?


海と空だけ見ていた視線を周囲へと向けてみる。

かなり長い海岸線と左右の端に同じような岩場が見える。


陸の方を見ると、砂浜の向こうに草原のような地形が広がり、その向こうに森が見える。


森の木々の上に視線を移すと、頂部分が平らになった小山か高台のようなものが見える。


人は誰も見当たらない。


(うん、まったく知らない場所だ。)


どうやってここに来たのだろう?

船はない。

車もない。

道もどこにも見当たらない。

そもそもここまで来た記憶がない。


(記憶がない。)


そこで結論が出てしまった。

5W1Hを順番に検討するまでもなく。


ここがどこなのか。

なぜここにいるのか。

どうやってここに来たのか。

ここで何をしているのか。

今がいったいいつなのか。

そして自分がだれなのか。


いっさいの記憶がない。


(さて、どうしようかな。)


もっと焦る場面なのかもしれないけど割と落ち着いている。

こんな状況でじたばたしても仕方がないしね。

別に目の前に熊とか虎とかがいて襲いかかってきている訳でもないので、まずじっくり考えてから行動を決めよう。


(確認して整理しよう。)


砂浜に座ったまま、自分の手足を見てみる。

明らかに子供のそれではないし、どう見ても老人のものでもない。

鏡がないので正確ではないけど、まあまあ若いほうだと思う。


次に体をあちこち動かしてみる。

ケガは見当たらないし痛いところもない。

とりあえず動き回るのに支障はなさそうだ。


服装は黒いジーンズに白いシャツ。

靴は黒いラバーシューズ。

うん、これといった特徴はないね。


見たところ所持品は何もなさそう。

ポケットの中も探ったけど何もなかった。

何かあればヒントになったかもしれないけど、身元確認は諦めるしかないかな。


仕方ないので自分の頭の中を覗いてみよう。


自分が生きてきた社会の記憶はある。

でも自分自身の人生の記憶がまったく見つからない。

どんな食べ物があり、どんな職業があり、家族とはどんなもので、友人とはどんなものか、それは理解できるんだけど。

自分が何を食べてどんな仕事をしていたのか、家族がいたのか、友人がいたのか、そういう記憶が欠落してしまっている。


どうすればこんな状況になるんだろう。

選択肢はあまりないよね。

簡単に考えれば、海で事故にあって流れ着いたか、事件に巻き込まれてここに捨てられたか、自殺でもしようとして失敗したか。


(いずれにしても、あまりいい話ではなさそう。)


そんなことを考えていると妙なものが視界に入った。

座っている場所の前方の波打ち際に何か赤いものがある。

しかも動いている気がする。


しっかりと焦点を合わせて、その赤いものを見つめてみる。

幸い視力は悪くないようだ。


その生物は小さめのスイカくらいの大きさだった。

頭部が丸く、耳と目があり、下の方にヒラヒラした感じで短い足が何本か見える。


(メンダコ・・・)


ただ普通の軟体動物の「メンダコ」とはちょっと違う。

波打ち際の湿った砂の上にいるのに、頭部は丸いまま上部にあり、

ヒラヒラした短い足は下部にある。

そしてその足を器用に動かしてモゾモゾと歩いている。


(???)


僕は視線を外さずにゆっくり立ち上がり、波打ち際の方に近づいてみる。

「メンダコ」は、こちらの動きに反応して動かしていた足を止め、こちらをじっと見つめてくる。


目はまん丸で意外と大きい。

耳は頭部にちょこんと2つ立っている。

近くで見ると、口もちゃんとある。

あえて表現するならデフォルメされたメンダコの図柄が、そのまま実体化した感じ。


(もうちょっと近くで見たい。)


しばらく「メンダコ」と見つめ合った後、一歩ずつ距離を詰めてみる。

もしかすると危険な生物なのかもしれない。

致死性の毒があるとか、見た目と違って凶暴でいきなり飛びかかってくるとか。

でも心の中では危険性を恐れるよりも、近くで見たいという欲求の方が勝ってしまっていた。


(もう少し。)


近づきたいという強い思いが相手を警戒させてしまったのかもしれない。

お互いの距離があと5歩くらいになった時、「メンダコ」は突然飛び上がりクルリとこちらに背を向けた。

そして予想外の速さで海の中へ一直線に走り去ってしまった。


浜辺に一人残された僕は呆然と立ち尽くしながら考えた。


(これは夢オチ?・・・あるいは異世・・)

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