頼めばシてくれると噂の女子生徒は、俺の幼馴染でした

ジャンヌ

第1話 再会した幼馴染は

高校二年生になった春の日。

「裕也君って、彼女とか作らないの?」

「作らないんじゃなくて、できないんです!」

よく知っているはずなのに、優しく心地よく響く声色でそんな事を聞いてくるのは、高校三年生になった観月瑠璃さんだった。

艶やかに靡く黒髪ロングの似合う美しい顔立ちで、ブレザーを着ていても分かるほどに抜群のスタイルを持ち、すれ違う男はだいたい二度見する。

「それ、自分で言ってて悔しくならない?」

「まあ、生きてれば誰かは俺にも興味を持つだろうし、その人が悪い人じゃなければいいなって思うくらいですね」

「そんな事言ってるから、女子が寄り付かないんだよ…」

「瑠璃さんにだけは言われたくないんですけど!?」

瑠璃さんは「うふふっ」と慎ましく笑みを浮かべる。

瑠璃さんも見た目や性格は完璧と言われてるけど、誰とも恋愛をしないで有名なまさに高嶺の花。

なんでそんな人が俺なんかと登校してるのかと言うと、それは俺にも分からない。中学生の頃から家を出れば瑠璃さんがいて、一緒に登校している。

「私、裕也君みたいな人と結婚したいなぁ」

「えっ?」

瑠璃さんの言葉に思わず声が漏れたけど、「俺ではないんだ…」とかではなく、「相変わらずぶっ刺して来るなぁ」と言った心持ちだった。

「最近、裕也君とは友達のままが良さそうかなーって思って、好きな人ではなくなったと言うご報告をします!」

「あーそれ、俺も同じ事思ってました。変な感じになっても嫌だし、このままの方が幸せですよね」

「え!?裕也君も私の事好きだったの?」

「四年も一緒に登校してれば、好きにもなりますよ」

「えー、言ってくれれば良かったのにぃ」

「瑠璃さんこそ、言ってくれれば九十年くらい隣にいるつもりだったんですけど」

お互いにその感情がなくなってからそう告白し、どちらからともなく「ぷっははは」と噴き出す。

「じゃあ、セフレにでもなっとく?」

「朝から何言ってるんですか…」

「なんで焦ってるの?本気にしちゃった?」

瑠璃さんは嗜虐的な笑みを浮かべ、俺の背中を比較的強めに叩く。

「焦ってませんし、本気にもしてません!」

「裕也君のえっちぃ」

「してませんって!」





そんな話をしながらも学校に着き、瑠璃さんは三年生のフロアに、俺は二年生フロアに向かう。

二年の学年職員室の前には、クラス分けの一覧が貼り出されていて、それを確認してから俺は一組の教室に足を踏み入れる。

「お、やっと来た!」

「水島君こっちこっち!」

教室の窓側一番後ろのブロックに座る金髪イケメンと黒髪ポニーテールにメガネ姿の美少女に呼ばれ、迷わず向かった。

「おい水島、一ノ瀬結衣って知ってるか?」

金髪イケメン──東条大翔から、懐かしい名前が出た。

「同姓同名の人が幼馴染にいるけど、どうしたの?」

「「お、幼馴染!?」」

大翔とポニテ美少女──満島碧の声が重なる。

「なんだよ……」

「やっぱり知らないか…頼み事があったんだけど、悲報すぎるから言わないでおくね……」

「取り敢えず、お前はまだ童貞なんだよな?」

何を言いたいのかさっぱりだけど──

「まあ、その称号はしっかりと健在だな」

「それならいい。とにかく、お前はそのままでいてくれ!」

「朝からなんて話してんだよ…」

新学年開始当日とは思えないほど、二人は大きなため息をつき、絶望したかのような表情を浮かべる。

やがてHR開始五分前のチャイムが鳴り、ひとつの席を空けて全員が着席した。

大翔は俺の席に座っていて、俺とは対角の位置に着席した。碧は俺の前の席で突っ伏している。

「なーにしんみりしてんだよ。新学年なんだから、子供は騒いでおけよ。ちゃんとセリフ考えてきたのに台無しじゃないか。」

担任の一条麗子先生が、教室に入ってそうそう怠そうにそんな事を呟く。

教師としてどうなんだ?とは思うが、その美貌から生徒人気は絶大で、授業も分かりやすいからいい先生なんだろう。

「一人いないみたいだが、簡単に自己紹介からしてくれ。」

一条先生がそう言い、大翔から順番に自己紹介が行われていく。

俺は人の自己紹介を聞く余裕などなく、自己紹介で何を言おうかと頭を悩ませる。

そして、あっという間に俺の番になってしまった。

「最近、片栗粉が触れなくなった水島裕也です。一年間よろしくお願いします」

『ガラガラガラ』

俺の渾身のボケに対するリアクションが入る前に、教室のドアが開かれて全員の意識がそっちに集中する。

一条先生だけが「ふっ」と軽く笑ってくれた…

俺はため息をつきながら着席し、机に突っ伏していると、教室中がザワザワとし始めた。

「あいつってビッチで有名なあいつだろ?」「そうそう」「春休み中も、先輩とシてたんだって〜」「さすが頼めばシてくれる系女子だわ」「顔はいいし、一回くらいシたくない?」「どっかの知らねぇおっさんと兄弟とか無理だわ…」と、明らかにいじめが行われていた。

事情を知らないからできれば関わりたくないけど、さすがに居心地が悪すぎる。

俺がゆっくり顔をあげると、『ドンッ!?』と言う音と共に額に強い衝撃が走る。

それは、間違いなく前の席に座る碧が俺の頭を押さえ付けたのが原因だった。

「いってーわ!────え…………」

俺が怒鳴りながら立ち上がると、全員の意識が俺に向いた。

ひとつ空いていた席には人が座っていて、さっき散々な言われようだった人だと確信した。

そして、その生徒も驚いたような表情でこちらを見つめていた。

「ありゃ……」

碧のそんな声が聞こえるも、気にはならなかった。

一条先生に座るよう促され、そのままの口で遅刻して来た生徒に向けて自己紹介を要求する。

ボブカットの茶髪に綺麗な顔立ち、スラッと引き締まった体躯を持つまさに美少女は起立し、「一ノ瀬結衣です」とだけ言って着席する。

「そう言う事?」

俺はさっきまでの二人の態度を察し、碧に目を向けると、碧は伏し目がちに首肯だけする。

そうして主要教科のオリエンテーションが終わり、昼には下校となった。

「で、頼み事って何?」

俺は、いつも通り碧と大翔と教室に残って話し合いをする。

碧と大翔は学級委員で俺は生徒会委員と言う、クラスや学年をまとめる立場としての大事な会議だ。

「いやーその、ねぇ…あれが本当なのかどうなのかって言うのがあれで……」

「お前って優しいし、本当に上手く人と接するだろ?だから、聞いてきてくれって事よ」

碧はかなり気まずそうに、一方大翔は堂々と話をする。

「まあ別にいいけど、噂でしかないと思うぞ?」

「私達もそう思ってるんだけど、態度とかも相まってと言いますか……」

「昨年何回か聞いてみたんだけど、『あんたがどう思うか次第じゃないの』って言われて、何も言い返せなかった…」

結衣とは、中学校が別になって以来メッセージのやり取りを少ししてたくらいで、今はもうかなり距離があると思う。

それを確定付けるように、結衣は人懐っこい性格からサバサバした性格に変わっているらしい。

「一応聞いてはみるけど、同じ結果にならない?」

「そこは水島のコミュ力と優しさでなんとかしてくれ!」

大翔の言葉に碧も「うんうん!」と力強く頷き、期待に満ちた目で俺の肩に手を置く。

「俺、別に優しくないんだけど…」

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