番外編 勇者の心情
ダイラルとの出会いは、一年半にも遡る。
最初は、使える奴だと思って仲間にしたが、実際のところは無能だった。戦闘面では、リバルみたいに近接面で活躍していたわけでもないし、マリアみたいに魔法でモンスターを倒していたわけでもない。
「勇者パーティのお荷物」
本当にこの言葉がお似合いだと思った。
だからこそ、ダイラルを追放した日、俺はものすごく気持ちがよかった。なんせ、勇者パーティの汚点を追放できたのだから。
(本当に無能な奴)
あいつを追放した時の顔は忘れることも出来ない。それほど、ダイラルの表情は傑作だった。あんな惨めな表情で、最後には泣きそうになっていたのだから。
あまつさえ、チャンスをくれって言われたけど、上げるわけないね―じゃないか。
「本当に笑っちまうぜ」
それに、あいつの眼の所為で勇者パーティに不名誉な噂まで流れる始末。本当に無能としか言いようがなかった。
だが、流石の俺にも温情と言うものはある。あいつとは結構長い付き合いだ。だからこそ、新しく仲間に加えたアクルは紹介するつもりはなかった。
でも、あいつが折れてくれなかったのだからしょうがない。でも、あの時の表情も傑作だったな。
そこからの俺たちは、順風満帆だった。なんせ、新しく迎えたアクルは、ダイラルよりもよっぽど使い物になるし、気も利いていた。
だが、アクルの様子が少しおかしいなとも感じていた。なんせ、夜中になると、いつもどこかに行ってしまうのだから。
それでも、無能がいるよりかはましだと思った。
「は~。早く魔王を討伐しなくちゃな~」
俺がボソッとそう呟くと、リバルが言う。
「そうだな。あの無能が消えたんだから、よりスムーズに進むさ」
「そうね」
「そうですよ」
「あぁ。みんな信用しているぜ」
そこから、一瞬間程が経ったある日、ダイラルと出くわした。驚いたことに、仲間を連れていたんだ。
話を聞くと、今は冒険者をやっているらしい。それもCランク。それを聞いて、俺は冒険者ギルドも落ちぶれたものだなと感じた。
(それにしても、こんな無能と一緒に居るなんて可哀想に......)
俺はそう思い、女性に忠告をした。だが、女性は首を縦には振らず、俺に歯向かってさえ来た。
(こっちが親切にしてやっているのに)
だが、そこでやっと理解する。
(無能同士が仲間になったってことか)
せっかく無能のお仲間さんにも忠告してやったのにバカかよ。
俺はため息を嘲笑いながらダイラルたちに告げる。
「無能なりに頑張れよ」
そして、俺はこの場を去って行った。
その後、リバルたちと話しているが、やはりダイラルの話題になると笑いが止まらなかった。
(それにしても、無能が無能を呼ぶってあるんだな)
「まあ無能同士、精々頑張れよな」
俺はそう呟きながら次の依頼の話を進めていった。
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