第7話 英雄への第一歩

 

 アキナ村に戻ると、住民たちが一斉にこちらへとやってきて、一人の男性が話しかけていた。


「ビルにリー。大丈夫だったか!?」

「う、うん。お兄さんとお姉さんが助けてくれたから」


 ビルはそう言いながら、俺たちの方を向いてきた。すると、男性が頭を下げてお礼を言ってきた。


「本当に二人を助けていただいてありがとうございます。もしよろしければ、お礼をさせてもらえませんか?」


(お礼って......)


 俺やセナの行動によって助けることが出来たのは事実だけど、助けに来るきっかけが出来たのは、アキナ村から冒険者ギルドに依頼があったからだ。


 だから、お礼なんてもらえる筋合いはないと思った。


「いえいえ。気にしないでください」

「そう言われても......」


 そう言った瞬間、目の前の男性がハッとした表情で話し始めた。


「自己紹介がまだでしたね。この村の次期村長をするライルと申します。ビルの父親であり、リーの旦那です」

「あ、ダイラル・エルボと申します」

「セナ・ミルカと申します」

「ダイラルさんにセナさんですね。昨日まで違う仕事でここにいなかったため、こんな事態になってしまったこと、申し訳ない」


 ライルさんは、またしても負荷深く頭を下げてお礼を言ってきた。


「いえ、気にしないでください」

「それでですが、お礼はいらないとおっしゃいましたが、是非夜ご飯だけでもご馳走させて頂けませんか?」


 隣に立っているセナさんの方を向くと、少し困惑した表情で俺の方を見ていた。


(ここで、拒絶するのもよくないし、行為に甘えさせてもらおうかな)


「では、お願いします」


 そして、俺たちはライルさんについて行き、アキナ村で一番大きな家の中へと入って行った。


「では、少しお待ちしてください。今から料理を作りますので」

「「ありがとうございます」」


 ライルさんとリーさんはこの場から去って行き、俺とセナさん、ビルの三人になった。


 そこから五分ほど沈黙の時間が訪れる。


(この状況、俺が何か話題を振った方がいいのか?)


 そう思った瞬間、ビルが話しかけてきた。


「ダイラルお兄さんとセナお姉さんは、なんで冒険者になろうと思ったの?」


 その問いにまず答えたのは、セナさんだった。


「私はある人に助けていただいて、この人みたいになりたいと思ったからだよ」

「へ~。ダイラルお兄さんは?」

「お、俺は......」


 そこで、一瞬勇者パーティにいた頃のことを思い出した。


「俺はヒーローになりたかったんだ」

「ヒーロー?」

「そう、ヒーロー。誰かのために戦って、困っている人を助けたい。だから、冒険者になったんだ」


 本当は勇者パーティを追放されたから。だけど人を助けたいと思った根本は、勇者パーティになったころも、冒険者も一緒だ。


「そっか。じゃあダイラルお兄さんはヒーローになったんだね」

「え?」


 ビルの言葉に驚きを隠しきれなかった。


(俺がヒーローになった?)


「だって、僕にとってはダイラルお兄さんやセナお姉さんはヒーローだよ。だから、もう達成されたってことでしょ?」

「そ、そうだな」


 それを聞いた瞬間、心の中が温まる感じがした。

 

(俺は、ビルにとってのヒーローになれたのか)


「ビル、ありがとな」

「え? お礼を言われることしたっけ?」

「あぁ」


 俺にとっては、お礼では言い切れないほどのことを言ってもらったから。


「そっか」


 その後、三人で軽く雑談をしていると、ライルさんとリーさんが料理をもって部屋に戻ってきた。


「お待たせしました。ご飯にしましょう!!」

「はい」


 目の前にあるご馳走を堪能しながら全員で話していると、ライルさんが真剣な顔をしながら言った。


「本当に二人を助けてくれてありがとう」

「もう、何度も聞いたので大丈夫ですよ」

「それでもですよ」


(何度でも、お礼を言われるのは嬉しいな)


 そう思っていると、ライルさんが言った。


「もし、ダイラルさんやセナさんが困った時は、私たちに言ってください。あなた方は私たちにとっての英雄なのですから」

「!!」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は無性に嬉しさがこみあげてくる。


(英雄か)


 さっきもビルに言われたけど、こう言ってもらえると嬉しいな。


 そこからも雑談をして、夕食を終わらせると、布団が敷かれた部屋に案内されて寝る準備に入った。


(今日はいろいろとあったな)


 そして、就寝しようとした時、扉にノックがされる。


「はい?」


 俺が扉を開けると、目の前にはセナさんが立っていた。


「どうかしましたか?」

「ダイラルさん。少し外でお話しませんか?」

「はい」


(何なんだろう?)


 俺はそう思いながら、セナさんと一緒に外へと出て行った。

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