異形杖奇譚
かめかめ
第1話
「御師さま、本当にもう大丈夫でございます」
少年は年のころは十五、六。よく日に焼けている。健康そうな肌色に反して華奢な体を、御師様と呼ぶ青年に支えられている。
「挫きは長引くもの。無理をしてはいけないよ、ヒノキ」
青年は片手でヒノキという少年の腕を肩に担ぎ、もう片手に持った杖で落ち葉振り積む道をさぐる。盲目なのだ。
二人が超えている峠は急峻で、重い荷を背負っているヒノキが躓き、足を挫いた。青年は弟子のヒノキが負う荷を代わりに背負おうとしたが、それだけはと、ヒノキは固辞した。
そのぶん、青年はヒノキの腕を取っている。
細身で色白の青年の、どこにこんな力があるのか、片手で支えているだけなのに、ヒノキはほとんど足を付かず、半分浮いたような形で運ばれている。
己の不甲斐なさと申し訳無さから、ちらりと師の横顔を見上げる。
白皙の相貌は輝くようで、まぶしいほどに美しい。閉じられている瞼が開けば、宝玉のような瞳が現れることをヒノキは知っている。
「どうかしたかい、ヒノキ」
生まれながらに盲目なゆえか、青年の勘は鋭い。聴覚、触覚、持てる能力の全てが常人離れしている。今も、ヒノキの視線をどこかで感じたらしい。
ヒノキは急いで視線をそらした。
「御師様に申し訳なく……」
「そう思ってくれるなら、早く怪我を治そう。私はヒノキが元気でいるのが一番うれしい」
優しい師の言葉に涙を零しそうになりながら、ヒノキは「はい」と応えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます