異形杖奇譚

かめかめ

第1話

「御師さま、本当にもう大丈夫でございます」


 少年は年のころは十五、六。よく日に焼けている。健康そうな肌色に反して華奢な体を、御師様と呼ぶ青年に支えられている。


「挫きは長引くもの。無理をしてはいけないよ、ヒノキ」


 青年は片手でヒノキという少年の腕を肩に担ぎ、もう片手に持った杖で落ち葉振り積む道をさぐる。盲目なのだ。


 二人が超えている峠は急峻で、重い荷を背負っているヒノキが躓き、足を挫いた。青年は弟子のヒノキが負う荷を代わりに背負おうとしたが、それだけはと、ヒノキは固辞した。

 そのぶん、青年はヒノキの腕を取っている。

 

 細身で色白の青年の、どこにこんな力があるのか、片手で支えているだけなのに、ヒノキはほとんど足を付かず、半分浮いたような形で運ばれている。


 己の不甲斐なさと申し訳無さから、ちらりと師の横顔を見上げる。

 白皙の相貌は輝くようで、まぶしいほどに美しい。閉じられている瞼が開けば、宝玉のような瞳が現れることをヒノキは知っている。


「どうかしたかい、ヒノキ」


 生まれながらに盲目なゆえか、青年の勘は鋭い。聴覚、触覚、持てる能力の全てが常人離れしている。今も、ヒノキの視線をどこかで感じたらしい。

 ヒノキは急いで視線をそらした。


「御師様に申し訳なく……」


「そう思ってくれるなら、早く怪我を治そう。私はヒノキが元気でいるのが一番うれしい」


 優しい師の言葉に涙を零しそうになりながら、ヒノキは「はい」と応えた。

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