俺の恋人が幽霊になってしまった。

味のないお茶

俺の恋人が幽霊になってしまった。

 

 それは新学期の初日の出来事だった。


 高校三年生になったばかりの俺は、初めて出来た一つ歳下の可愛い彼女。並木恋なみきれんと待ち合わせをしていた。


柿木かきぎ先輩!!いつもの場所のいつも時間で待ってます!!先輩後輩としてでは無くて、恋人同士として登校出来るのが今から楽しみです!!』


『あはは。あまりはしゃぎ過ぎて寝坊しないように気を付けろよ?』


『その時は先輩のラブラブモーニングコールで起こしてくださいね?』


『新学期初日から遅刻したく無いから置いていくわ』


『酷い!!彼女への愛が足りませんよ!!先輩!!』


『なら寝坊しないように気をつけろよ?じゃあ、おやすみ、恋』


『はい!!おやすみなさい、柿木先輩……いえ、響也きょうや先輩!!』



 昨晩。そんなやり取りをして、俺と恋は眠りについた。


 そして、今日の朝を迎えた。


 時刻は七時半。バス停で待ち合わせだ。


 俺と恋はこのバスの中で知り合った。


 新学期の初日。つまり去年の今日。恋が痴漢されそうになっているのを俺が助ける。と言うベタもここに極まれり。みたいな出会い方だ。


 俺はその時のことを思い出しながら、恋のことを待っていると、


「せんぱーーーい!!おはよーございまーーーす!!」


 横断歩道の向かいから恋が手を振ってるのが目に入った。


 ショートカットの髪型にクリっとした瞳。小柄な身体だが、女性らしさはしっかりと備えている。

 少しだけ短くしたスカートから覗く白い脚はとても眩しく輝いている。


 並木恋は俺には勿体ないくらいに可愛い女の子だ。


 春休みの最終日。つまり昨日だ。

 友達として遊びに行った帰りに、俺から恋に告白をした。


『恋。俺はお前が好きだ。先輩後輩としてじゃなく、明日から恋人同士として過ごしてくれないか?』


 俺のその一世一代の告白に、恋は今までで一番の笑顔を見せてくれて、


『はい!!私も先輩が大好きです!!私を、先輩の彼女にしてください!!』


 と答えてくれた。


 そう。そんな幸せいっぱいで始まる新学期の初日。


 俺と恋はラブラブの高校生活をこれから始めるんだ。


 そんな……そんな日に……





 キキーーーーー!!!!!!!!!



 レーーーーン!!!!!!!!!



 バーーーーーン!!!!!!



 俺の目の前で、


 青信号の横断歩道を渡っていた恋が、


 信号無視をしたバイクに、


 はね飛ばされた。






「意識不明の……重体……」


 担当した医師から言われた言葉を俺は反芻はんすうしていた。


 彼女は、奇跡的に一命を取り留めた。


 病室のベッドに横たわる俺の最愛の彼女。並木恋は、眠っているかのようだった。


 外傷も少なく、頭を打つとかも無かったようだ。


 運が良かった。事故に遭っておきながら、運が良かったもクソもないと思うが……


 ちなみに、恋をはね飛ばしたバイクはそのまま逃げて行った。


 ホントに……死ねばいいと思う。


 彼女を介抱し、救急車を呼び、ここまで着いてきた。


 全部俺がやった事だ。


「響也くん!!」


 病室の扉を開けて、恋のお母さんが入って来た。


「……美咲さん。すみません……俺が居ながら……」


 並木美咲なみきみさきさん。高校二年生の娘が居るとは思えないくらいの若作りの女性が、恋のお母さんだ。


 何回か彼女の自宅に呼ばれた時に、お会いしている。


「気にしなくていいわ。悪いのは信号無視をしたバイクよ。貴方は良くやってくれたわよ」

「……そう、ですか」


 俺は病室に備えられた椅子に座り込む。


 これから学校になんか行ける気分では無かった。


 新学期の初日から欠席。

 あはは……こんな筈じゃなかったのにな……


 俺は恋の頬を撫でる。


 眠っているようだ。この可愛い顔に傷が無かったのが良かった。こいつが目を覚ました時に、傷つくかも知れないから。


 まぁ、そんな顔の善し悪しなんかで俺の愛情は変わらないけど……


「早く……目を覚ましてくれよ……恋」


 俺はそう呟きながら、彼女の頬を撫で続けた。







『先輩!!先輩!!先輩!!』


 恋が交通事故にあった翌日の朝。


 俺はベッドの上で最愛の彼女の声を耳にしていた。


 その日は先生に事情を話して欠席にしてもらった。

 無断欠席にはならないですんだ。


『響也くん。辛いとは思うけど、寝ないとダメだからね?』

『はい。その……美咲さんもそれは同じですからね?』

『ふふふ……そうね、お互いに自分の身体をしっかりと管理しましょう』


 そんな会話もあったので、俺はキチンと睡眠を取っていた。


 そうして迎えた朝。


 幻聴なのかもしれない。彼女を求め過ぎて、俺の脳が妄想を生み出したのかもしれない。


 目を開けた俺の目の前には、


『おはようございます!!先輩!!可愛い可愛い先輩の彼女が朝をお知らせします!!』

「……恋。どうして……」


 宙に浮かぶように、制服姿の並木恋が少しだけ透けた身体で俺の目の前に居た。


『私にも良くわかりません……気が付いたらこんな身体になって、先輩の目の前に居ました』

「そ、そうか……」


 俺の創り出した妄想の産物は、会話まで出来るんだな……


『バイクにはね飛ばされた所までは記憶があります。ですがその後のことがわかりません。先輩、私は死んだんですか?』

「いや。意識不明の重体だ。死んではいないよ」


 俺がそう言うと、恋は安心したように息を吐いた。


『良かったです。死んでたらもう二度と先輩には会えませんから……』

「あはは……こうして会えてるけどね」


 俺はそう言いながら、ちょっとだけ芽生えたイタズラ心を満たそうとしてみた。


 ホントにこいつは俺の妄想なのかな?


 そう思った俺は、宙に浮かぶ恋の下に顔を移動させる。


 簡単に言おう。


 ミニスカートの恋のパンツを覗いて見た。


「素晴らしい。俺の妄想は恋に縞パンを履かせて居たのか」

『せ、先輩のえっち!!最低です!!何してるんですか、バカーーーー!!!!』


 恋は俺の顔を踏みつけようとするが、実体が無いのですり抜けるばかり。

 俺の目には揺れるスカートと恋の白い脚と縞パンの三重奏が奏でられている。


「すごいな俺の妄想!!まるで本当に恋のパンツを覗いているかのようなリアクションだ!!」

『えっち!!えっち!!えっち!!先輩がこんな人だとは思わなかったです!!もおーーダメですーーー!!!』


 恋はそう言うとふよふよと浮いて部屋から出ていこうとした。


 しかし、


『あ、あれ……これ以上進めない』


 部屋の扉の前で浮いたまま止まっていた。


 だいたい俺から三メートルくらいだ。


『ど、どうやらこれ以上は先輩から離れられないみたいです……』

「そうか。やはり俺の妄想は自分にとって都合が良く出来ているんだな……」


『いや、その。そろそろ信じてもらいたいんですが、私は先輩の妄想じゃなくて、並木恋なんですけど……』

「ほう?では俺が知らなくてお前が知ってるという。秘密を話してもらおうか?」


 俺が生み出した産物なら、俺の記憶を元に作り出されている。

 ならば俺が知らないことを言うのなら、それは本人が何らかの奇跡が重なり合ってこんな現象が起こってると仮定できる。


『わ、私の秘密……ですか……』

「そうだな。じゃあスリーサイズを教えてもらおうか?」


『す、スリーサイズですか!?』


 恋(仮)は俺の耳元に来て囁いた。


 それは本当に俺が知らない情報で、確認は出来ないが見た感じの数字に近いような気もした。


「なるほど。85の60の80か。あとで美咲さんに聞いて真実か確認をしてみよう」

『お、お母さんになんてことを聞くつもりなんですか!?』


「美咲さんとは仲が良いからな。そのくらいなら答えてくれるだろう」

『彼女よりも彼女の母親と仲が良い彼氏って……』


 そんなやり取りをしながら、俺はベッドから起き上がる。


「さて、そろそろ着替えるか。さすがに二日連続で学校を休む訳には行かないからな」

『そうですね!!私は行けませんけどね!!』


「あはは。早くお前の意識が戻ることを信じて待ってるよ」


 俺は恋に笑いながら続けた。


「そろそろ着替えるから、部屋から出て行ってくれないか?」


 俺のその言葉に、恋がニヤリと笑う。


『ふふふ。いやー残念です。先輩からは離れられないみたいなので、部屋の中に居なければなりません』

「なぁ!?」


 そ、そうだった!!


『さて、先輩。さっきはよくも私のスカートの中を覗き見るなんて暴挙をしてくれましたね?』

「あ、あはは……」


 苦笑いを浮かべる俺に、恋が言う。


『さぁ、先輩。私に生着替えを見せてくださいね?』





「しくしく……穢されてしまった。もうお嫁に行けない」

『ふふふ。なかなか良い身体でしたね、先輩。鍛えてるんですか?』


「まぁな。お前を守るために、部活はしてなかったけど筋トレは欠かさずやってたよ」

『えへへ。ありがとうございます。そんな先輩の努力の結晶が見れて私は嬉しいです!!』


 俺と恋はそんな会話をしながら学校に向かって歩いていた。


 この恋もどき。はやはり俺にしか見えてないようで、俺がこいつと会話をしていると『危ない人』に見えてしまう。という危険があった。


 なのでスマホを取りだして『電話をしてます』と言うような雰囲気で恋と話をすることにした。


「なぁ、恋。本当にお前は俺の生み出した妄想じゃないんだよな?」

『そう言われると自信が無くなりますが、私は私です。先輩にしか見えてない。と言うのはある種当然かと?』


「当然?なんでだよ」

『だって、好きな人の前にもう一度現れたい。そんな私の願いが叶った奇跡だと思ってるので』


「そうか……そうだよな」


 俺はそう呟いて歩きを進めた。

 そしてしばらくすると学校へと辿り着く。


 先生から確認したところ、俺のクラスは一組だったようだ。


 俺は恋を連れて、三年一組の教室を目指す。


 ガラリと教室の扉を開ける。


「おはよー」


 俺がそう言いながら中に入ると、一年の時に同じクラスだった知人数名が俺に挨拶を返してくれた。


 そして、昨日は大変だったな。とか早く元気になると良いな。とか慰めてくれた。


 そいつらにありがとう。相槌を打ちながら会話をしていると、担任の先生が入ってきた。


 俺は自分の席の場所を知人に聞いて、席に座る。


『先輩のクラスでの様子が見れて嬉しいです!!』

「あはは。そうか」


『意外と友達が多かったんですね?』

「意外とはなんだ、意外とは……」


『友達が少ないタイプだと思っていました。広く浅く。よりは狭く深く。の人だと』

「間違っていよ。アイツらは友達じゃない。知人だからな」


『……え?』


 キョトンとする恋。俺は笑いながら言う。


「だって俺はあいつらとどっかに遊びに行ったことすらない。学校で会話するだけの関係だ。そんなのを友達とは言わないだろ?」

『そ、そうですか……』


「俺が友達だったのは、恋。お前だけだよ。そして、俺はお前と友達のままでは嫌だったから、恋人同士になろうって告白をしたんだ」

『先輩……その、嬉しいです……』


 顔を赤くして仰け反るようにふよふよと漂う恋。


 パンツが見えてるぞ。


 そんな目のやり場に困るようなやり取りをしながら、俺にとっての初日の高校三年生の生活は過ぎて行った。




『三年生の授業って難しいですね。聞いててまるでわかりませんでした』

「一年の授業ですらギリギリだったお前には難しいだろ?」


 こいつの勉強を見てやる為に、何度も自宅に行った。

 美咲さんにはその時にあっていた。


 こう見えて俺は、テストの順位は学年でも一桁だ。


『放課後です。どうするんですか?』

「デートをしようぜ」


 俺がそう言うと、恋の顔が真っ赤に染った。


『で、デートですか!?』

「そうだよ。放課後デートってやつだ」


 俺はそう言うと、学校から離れたところにあるゲームセンターへと向かった。



『ゲームセンター』



「放課後デートと言えばゲームセンターだろ?」

『そうですね。先輩と来たことは何回かありましたが、放課後に来るとまた違いますね!!』


 そんなことを話しながら、奥へと進む。


『そ、その……先輩?』

「……ん。どうした、恋?」


 申し訳なさそうな表情の恋に俺は問掛ける。


『わ、私はこんな身体ですので……その、何も出来ないんですが?』

「あはは!!そうだな、確かにエアホッケーとかそう言うのは出来ないよな。でもさ、もしかしたらって思ってるのがあるんだ」


 俺はそう言って、あるゾーンを指さした。


『ぷ、プリクラですか?』

「そうだよ。もしかしたら、写真に写るかも知れないだろ?」


『で、でも!!あそこは『男性のみ』では入れませんよ!!』


 そうだな。恋の存在は周りの人には見えない。


 だから俺は中には入れない。


 でも、注意されなければ良いだけだ!!


「恋人同士なら問題ないはずだよな?」

『そ、そうですね。まさか先輩……現地調達をします!!とか言わないですよね?』


「言わねぇよ。俺の彼女はお前だけだよ」

『……あ、あぅ』


 顔を赤くする恋。可愛いな。こんな彼女が居るとか、俺は幸せだな。


「俺はお前が隣にいるものとして、あそこに突撃する」

『え?それって……』


「変な目で見られるかもしれないが、『妄想の彼女とプリクラを撮りに来ました』というていで行く」

『そ、それで行けますか!?』


「行けるか行けないかじゃない!!行くんだ!!」


 こうして俺は、恋と一緒にプリクラゾーンへと突撃した。




『な、何とかなりましたね……』

「結局のところ。ナンパ防止のためだからな。その要素が無いなら許容されるだろ」


 なんて会話をプリクラのブースの中でしていた。


『でも、かなり変な目で見られてましたよ』

「まあ、気にするな。それよりもほら!!楽しもうぜ

 !!」


 俺はそう言うと、お金を入れて撮影を始めた。



『それじゃあ撮影を始めるよ!!準備はいい?』


「『はい!!』」


 こうして俺は、恋と一緒にプリクラを撮った。


 ハートを作ったり、抱き合ったり、キスをしたり……


 楽しい時間を過ごした。


 そして、出来上がった写真を見ながらゲームセンターの外へと出た。





『あはは……やっぱり写ってないですね』


 そこには、当然と言うか俺が一人で変なポーズを取ってるだけのプリクラになっていた。


「何言ってんだよ、恋」

『……え?』


 俺は恋の頭に手を乗せる。


 触れないけど。


「俺の心の中には、お前とのラブラブなプリクラが残ってるぞ?」

『あはは……先輩……ありがとうございます』



 恋がそう言うと、彼女の身体が段々と透けてくる。


『あ、あれ……身体が……』

「お、おい!!恋!!どうしたんだよ!!」


『あはは。何かに吸い込まれるような感じがします。もしかしたら肉体に戻れるのかもしれません』

「……え?」


『ほら!!よく言うじゃないですか!!意識不明の重体の女の子が幽体離脱をしてる話!!もしかしたら、この時間の記憶を持って、私は目覚めるかもしれません!!』

「そ、そうだよな!!」


 無理やり明るく俺が返事をすると、恋も笑ってくれた。


『そ、それじゃあ先輩!!また会いましょう!!今日は楽しかったです!!』

「おう!!俺も楽しかった!!また会おうな!!」


 こうして、恋の身体が俺の目の前から消え去った……



「恋……」



 そして、次の瞬間だった。


 俺のスマホが着信を知らせた。


『並木美咲』


 とディスプレイには出ていた。


 も、もしかして!!恋が目覚めたのか!!


 やっぱりあれは、幽体が肉体に戻るサインだったのかも知れない!!


 俺はその電話をすぐに取って出た。


「も、もしもし!!柿木です!!」

『響也くん!!良かった……出てくれて……』


 焦ったような美咲さんの声。

 そうか、恋が目を覚ましたら焦るよな。


「れ、恋の事ですよね!!め、目を覚ましたんですか!!」

『……っ!!!!』


 息を飲むような声が、スマホ越しに聞こえた。

 な、なんだよ……美咲さん……


 そんな反応……恋が……恋が……


『お、落ち着いて聞いてね、響也くん』

「……はい」




『恋は……死んだわ……』






 俺の時間が……止まった。










「恋!!」


 俺は恋が入院している病院の病室へと駆け込んだ。


 そこには美咲さんが涙を流して座り込んでいた。


「響也くん……響也くん……」

「美咲さん……その……恋は……本当に……」


 俺は恋の傍に近寄る。


 その顔は昨日とまるで変わっていない。寝ているだけのようにしか見えなかった。


 しかし、隣にある心電図は……一直線だった。


 心臓が……動いていない……


「う、嘘だろ……だって!!だって!!さっきまで一緒にいたじゃねぇかよ!!」

「響也くん!?」


 俺は恋の身体を揺すりながら叫ぶ。


「おい!!おい!!恋!!ふざけんなよ!!この時間の記憶を持って目を覚ますって言ってただろ!!」


「また会いましょう!!って言ったじゃねぇか!!なんで死んでるんだよ!!」


「目を覚ませよ!!レーーーーーーーーン!!!!!!」








 並木恋 享年十六歳 早すぎる死だった。










「俺も……死ぬかな……」


 医師によって病室を追い出された俺は、自宅へと歩いていた。


 そうだな。恋の居ない世界で生きてても仕方ない。


 死ねば、恋に会える。


「そうだよ。死ねば恋に会えるじゃねぇか!!」


 俺は名案を思いついたような気分だった。


 恋に会うためなら死んでもいい。


 こんな生命なんか必要ない!!


 俺は自宅へと駆けた。


 自室のパソコンで自殺の方法を調べよう。

 そうだな、なるべく辛くなくて、確実に死ねる方法が良いな。


 俺は合鍵で自宅の扉を開けて二階へと向かう。


『響也の部屋』


 と書かれた扉を開けた。


 その時だった。



『こんにちは!!先輩!!』


「………………………………………………え?」



 先程。俺の目の前から消えた彼女。


 死んでしまった俺の彼女。


 並木恋が……すけすけの身体で俺の部屋でふよふよと浮かんで漂っていた。


『吸い込まれるような感じがして、気が付いたらここに居ました!!』

「…………恋!!」



 俺は彼女に駆け寄った。


『せ、先輩!?』


 俺は恋の身体を抱きしめた。


 実体の有る無しは関係ない。


 恋の存在を、俺は確かに感じていた。






『……私は……死んじゃったんですか』

「うん」


 先程までの話を、恋にした。


『そうですか。それは仕方無いですね』


 恋そう言うと俺に笑いかける。


『でも、こうしてまた先輩に会えました!!死んじゃったのは無念ですけど、人間どうせいつかは死ぬんです!!早いか遅いかの違いです!!』

「……でも。お前はそれで良いのかよ」


『良いか悪いかと言うよりは、こうしてずっと先輩と一緒にいられる。と考えたら悪くないなと思いました!!』

「あはは……そうか……」


 俺がそう言うと、恋は少しだけ不安そうな顔をした。


『その……私はこんな身体ですので。先輩が嫌でしたら消え去っ……』

「ダメだからな!!俺はどんな姿になってもお前のことが大好きだ!!俺の前から居なくなるのはもう許さない!!」


『せ、先輩……!!私も先輩が大好きですーーー!!!!』


 恋はそう言うと、俺に抱きついてきた。

 実体は無い。でも確かに恋の存在を感じる。


「これからも、ずっと俺と一緒に居てくれ。恋」

『はい!!』


 恋は死んでしまった。

 でも、こうして俺とずっと一緒に居てくれる。


 この世とあの世の遠距離恋愛みたいなもんだろ。


 死んだらまた彼女に触れられる。

 それまで我慢してやるか。


「なぁ、恋」

『なんですか?先輩』


 キョトンとする恋に俺は笑いながら言う。


「俺が死んだらセックスしよう」

『せ、せ、せ、せ…………』


 真っ赤なりながら恋は叫んだ。



『先輩のえっちーーーー!!!!!!!』


 俺の恋人が幽霊になってしまった。


 でも、俺はこの世界を、この幽霊になった恋人と、楽しんでいこうと思う。




 ~完~

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俺の恋人が幽霊になってしまった。 味のないお茶 @ajinonaiotya

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