僕達だけの秘密

Our Only Secret

　こんにちは。これ、おじさんの落し物ですよね？　おじさん、森に来てたでしょう？　僕も森に居たんですよ、虫捕りで。僕だけの秘密の場所に人が居たから吃驚しちゃった。

　大きなクヌギの木があったでしょ？　僕、あの木の上に登ってたんです。あの木、カブトがいっぱい捕れるんですよ。いつもはノコとかミヤマとかヒラタとかも集まって来るんですけど、今日はコクワの雌とカナブンだけ。折角早起きしたのに、見付けたのはカブトじゃなくておじさん一人でした、へへへっ。僕以外は誰も居ませんよ。あの場所は友達にも内緒にしてるんで、一人締めなんです。

　おじさんは何か捕れたんですか？　お子さんの為に捕りに行ったんでしょう？　僕のパパは警察官なんでなかなか休みが合わなくて……えっ、子供は居ないんですか？　じゃあ、虫捕りは自分の趣味なんですね。でも、虫捕りには網の方が良いですよ、スコップじゃ捕れないですよ。

　奥さんには何も言われないですか？　僕のママは、虫なんかどこが良いのよ、気持悪いだけじゃないって言うんです。奥さんは凄く綺麗な人ですよね、見掛けた事がありますよ。いつも派手な服を着て、ブランド物の鞄を持って、キラキラのアクセサリーで出掛けますよね……そっか、僕が拾ったのは奥さんのイヤリングなんですね。

　何ですか、一万円札なんて。僕にくれるんですか？　落し物を届けただけなのに、おじさんは気前が良いんですね。あ、でもペットショップでオオクワガタを買うには全然足りないなぁ……買ってくれるんですか？　おじさん、お金持ちなんですね。家に上がってジュース？　いえ、もう充分です、直ぐ帰るって家に連絡してあるんで。これ、ＧＰＳ機能付きのケータイ、凄いでしょ。近頃は物騒だからって、いつも持たされるんです。いつも監視されてるみたいで嫌なんですけど。

　そうだ、おじさんはあの秘密の場所で自由に虫捕りしても良いですよ。でも、他の人には絶対言わないで下さいね。僕達だけの秘密にしましょう……永遠の秘密に。