021.意外に見てくれてたんだ

 ため息をついて家に入ったのはいつぶりだろうか。今日は別の意味でどっと疲れがたまった。


 行くと言ってしまった以上、行かないわけにはいかない。高校生になって初めての遊ぶ約束が、こんなことになるなんて誰が想像しただろうか。


 僕は着替えて、エアコンをつけ、お茶をコップに入れた。椅子に座って机に置かれたコップを眺める。


 嬉しかった。これは本当だ。だけど、なんなのだろう。どこか、もやっとする。僕は委員長のことを好き、というか気になってるはずなのに。


 いや、全く根本的な問題な気がする。


 もういいや、このことは一旦忘れよう。


 僕は他のことについて考えることにした。


 そういえば、最近アオさんが来ない。辞書を貸してからは一度も家に来ていない。つまり、会ったのは一週間前ということになる。どうしたんだろう?


 また怪我とかしたのかな……??


 ってなんで僕がアオさんのことを心配してるんだ!あの人は僕のことを変態扱いして罵った張本人だぞ!


 また僕はため息をついた。そして、机に額をつけた。


 秒針が静かな部屋に鳴り響いている。どんどん迫ってくるように感じる。


 

 アオさん、大丈夫かな?


 

 ……ピンポーン。


 インターホンが鳴った。僕は徐に立ち上がってドアへ向かう。


「はーい」


 僕はドアを開けた。


 ドアを開けた僕はなぜかホッとした。前には、アオさんがいたのだ。擬態の姿で、すらっと立っていた。


「おっすっ!」


 アオさんは敬礼をした。


「人間はインターホンを、押して人の家に入るらしい。辞書読んで理解した!」


「そうです。素晴らしいですね。本当に人間みたいですよ」


「そうでしょ、お邪魔します!」


 アオさんが家に入ってきた。この感じもなぜか懐かしく感じてしまう。


「これ、借りてた辞書。返すね。ありがとう!」


 アオさんは机の上に辞書を置いた。


「いえ、大丈夫です」


「ねぇ!すごいよ?私辞書の単語全部読めちゃった!これで私も人間に近づいたね!」


「そうですね」


 アオさんは動きを止めた。


「……どうしたの?なんか元気無くない?」


 アオさんは僕の目をじっと見つめる。


「えっ、そ、そうですか?」


 意外によく見てるんだな、アオさん。


「うん!絶対そう!なんか……、暗い!」


「アオさんが明るすぎるんですよ」


「それでもだよ」


 数秒、沈黙が続いた。


 アオさんは少し考えた後、何か閃いたのか、人差し指を突き立てた。


「よし!こういう時は海に行こう!」


「えっ?!」


「海に行けば、大抵のことはスッキリできるでしょ!私がスッキリさせてあげる!」


 アオさんは僕の手を握って玄関を飛び出した。彼女の輝く横顔に僕は一瞬見惚れてしまった。

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