第四章 私はヒトになる人魚だ!!(ドンッッ!!)

012.私の願いを聞いて!!

「とりあえず、入ってください」


 動揺しつつも、僕は人魚を家に入れることにした。僕はカバンの中から家の鍵を取り出し、家のドアを開けた。


「お邪魔します」


 人魚は大きな尻尾を引きずりながら這う。


「ああ、待ってください。砂を落としたいので」


 僕は両手を人魚に向けた。


「ああ。それなら、擬態になるわ」


 人魚は玄関の前で形状変形を始めた。尻尾の部分がみるみると脚になっていく。


 人魚は細いスラっとした脚で立ち上がった。そして、砂をはらって家に入ってきた。


 僕が貸した丈の長い服をまだ着ていた。おかげで、人魚の下の部分が見えなくなっているので助かった。


「今、何か出しますから、座っててください」


「ありがとう」


 人魚は寝室に移動し、僕のベッドの上に座った。


「そこじゃないです」


 僕は両手にお茶が入ったコップを持ちながら人魚の方を見た。


「普段はこの居間で生活しているので、こっちです」


 僕はコップを二つ、居間にある机に置いた。それを見た人魚は立ち上がって、そのコップの近くに座った。


 氷がカランと音を立てて、少しずつ溶けていく。コップには水滴が沢山ついて、滴となって流れ落ちていく。


「それで?なんでまた戻って来たんですか?」


 僕は一口お茶を飲んだ。


「……また家出して来たんだ。それで、行くアテがなくて」


 人魚も一口お茶を飲んだ。その時、人魚は大きく目を見開いた。


「冷たい!


 な、なにこれ!!真水。真水だ!!しかも、なんか色がついてる。なのに透けてる。なんて、なんて不思議な飲み物なの!」


 驚きのあまり、人魚は尻尾の状態に戻ってしまった。


「ああ、そうか。確かに、海は海水しかないですよね」


「う、うん。だから、水を飲むっていうのは海水しか飲んだことないんだけど、本当にあったんだ、真水」


「ええ、ありますよ。てか、普通にあれから出ます」


 僕は水道の蛇口を指差した。


「え、それ本当??真水が出てくる!!そんなことがあっていいの??


 なんでそんなことができるんだろ?真水は本当に少ししか存在していないのに」


「まぁ、確かに水は大切ですけど、結構生活の中には当たり前に溶け込んでますね」


「なんて贅沢な、生き物なんだ……」


「それよりも、本題です。なんでまた帰って来たんですか?人魚さん」


 僕は口にコップをつけ、人魚を見た。


「ん?私は『人魚さん』じゃない。


 あーそうか。私の名前を言っていなかったね。改めて紹介します!私の名前は、£^*%€=j gf I’ll KB bって言うの。よろしくね!」


「それはもう聞きました。幼い人魚さんに」


「じゃあ私の名前知ってるじゃん。それで呼んでよ」


「僕はそれを名前とは思えません。長いし、なに言ってるか分からないですから」


「私もユウ君の名前聞いた時、変だなって思ったけど、普通に呼んでるじゃん」


「ユウは普通でしょ」


「私からしたら普通じゃないの。


 まぁ、人魚さんって言われるのはなんか嫌だからさ、適当に名前つけてそれで呼んでよ」


「……わかりました。


 それよりも、なんでまたここに戻って来たのかということです。それが聞きたいんです」


 人魚は両手で持っていたコップを机に置いた。


「単刀直入に言うとね、ユウ君に私の願いを叶えてほしいと思ってさ」


「……願い?」


「そう。それはね」


 人魚は僕の目を真っ直ぐ見た。


「私を、ヒトにして欲しいの!!」


「……ん??」


 僕は首を大きく横に傾げた。

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