第33話 予想外の出会い
放課後、部活動を終えた私達は久寿弥と合流して昇降口まできていた。放課後になっても久寿弥の顔はやっぱり晴れず、私達がどうしたら良いかと考えながら久寿弥を見ていると、久寿弥は私達の顔を見てからごまかすように笑った。
「おいおい、そんな顔してたら幸せが逃げるぜ? ほら、もっとスマイルスマイル」
「そう言って一番スマイルじゃないのは久寿弥でしょ」
「そうだよ。たしかに元気を出すには難しいけど、久寿弥君だって笑ってた方がいいよ」
「俺も同感だ。せっかくだし、今日は四人でどこかに寄って行こうぜ? 夕飯前だからガッツリ食べるみたいなのは難しいけどさ」
「お前達……へへ、ありがとうな」
久寿弥はようやくごまかしじゃない笑みを浮かべたけど、その顔はやっぱりまだ哀しそうだった。
学校に着いた後、久寿弥は私達に話した事をクラスのみんなにも話した。クラスのみんなも久寿弥が文化祭に出るために払う代償については驚いており、ネイキッドのボスである益子さんの話やこの先も行事に出るためには久寿弥が本当に辛い事になると聞いて表情を暗くしていた。
そして久寿弥が文化祭に出ないと言った事に対してもクラスのみんなは全員が反対をしたが、久寿弥の決意が固い事を知ってそれ以上は反対も出来ず、久寿弥もみんなの気持ちに触れたからかもう少しだけどうにか出来ないか頑張ってみると約束した。
けれど、その日一日の久寿弥の表情はやっぱり暗く、それが影響してかクラスの雰囲気も今日はどこか暗く、担任の先生も初めは不思議そうにしていたけど、事情を聞いて納得してくれた。
この事からもわかるけど、久寿弥は四月の途中からクラスに参加したにも関わらず、いつの間にかクラスの中心的な存在兼ムードメーカーになっていて、学級委員長や副委員長もクラス内で何か決める時には久寿弥にも意見を聞く事が多くなる程、結構頼りにされている。
久寿弥自身が分け隔てなく接する性質な事や普段はおふざけ満載でいるのに対して何かを決める時や真面目な場面ではしっかりと判断をする点を評価しているみたいで、久寿弥を通じてネイキッドについても知っていこうとする動きもクラス内には見られていた。
だから、クラスのみんなだって久寿弥と一緒に文化祭を楽しみたいし、この先の行事だってその楽しさを共有したいと思っているけれど、ネイキッドの事情に対して私達が出来る事はやっぱりなく、みんな悔しい思いをしているのだ。
「なにか久寿弥が文化祭に出られるだけの理由でもあればたぶん良いんだろうけどね。出ないといけない理由があったら、流石にネイキッドの慣習を強制される事は無いでしょ?」
「そうだろうけど、俺が出ないといけない理由って何があるんだ? こう言ったらなんだけど、俺無しでもクラスは委員長達がまとめるし、文化祭の準備だって問題なく出来るだろ?」
「準備は出来るけど、やっぱり心から楽しむ事は出来ないよ。久寿弥君が来る前は明るい子達と少し暗めな子達で少し壁みたいなのが出来てたけど、久寿弥君がその壁を壊してくれたから、クラスも団結出来るようになったって委員長も前に話してたし、出来るなら久寿弥君とも一緒に楽しみたいよ」
「ネイキッドだろうと久寿弥はもうウチのクラスには欠かせない存在になってるからな。流石に問題になるからやらないけど、中には久寿弥が参加しないなら何も企画なんて考えずに休憩所にしても良いんじゃないかって言ってる奴だっている。それくらい、久寿弥と一緒に何かやりたくてたまらないんだよ」
「それは嬉しいけどさ……」
「あんな風にクラスを一つにしたんだから、その責任くらいは取ってよね? もちろん、難しい事は私達だってわかってるけど、久寿弥が出ないといけない理由ならみんなも考えてくれるはずだから、久寿弥も諦めずに色々な道を模索してみて。クラスのみんなだって久寿弥と楽しめるのを望んでるから」
クラスのみんなだってとは言ったけど、何だかんだで久寿弥と一緒に色々な事をしたいと一番思ってるのは恐らく私だ。
久寿弥が参加しないと聞いた時、そして久寿弥が何も出来ずに諦めきった顔をしているのを見た時、私は本当にショックだった。クラスのみんなにとってもだけど、私にとっても久寿弥の存在はそれ程に大きくなっているようで、私自身もその事には驚いていた。
だけど、この気持ちは不思議と悪くないと感じているし、前よりも勉強や部活動にも身が入っていた事から、様々な久寿弥の姿に触れて久寿弥の事を異性として好きになった事は私にとって良い刺激になっている。
だからこそ、久寿弥の力になれない事が私にとってはもどかしくて悔しい。これまで色々な形で力になってもらっていた分すら返せないなんてやっぱり嫌だし、悲しくて仕方ないのだ。
だけど、やっぱり久寿弥の事情に対して何か出来るわけじゃないし、今だってただ励ましたりさっきみたいな思い付きを話したりする事しか出来ない。そんな自分が嫌で仕方ない。
「はあ……何か良いアイデアは無いのかな」
みんなと一緒に歩きながら久寿弥が文化祭に出られるだけの理由について考えていたその時だった。
「……あれ、もしかしてアイツは……?」
久寿弥が突然そんな事を言い出し、私は久寿弥の視線の先、校門の辺りに目を向ける。校門からは下校する生徒達が次々と出ていっていたけれど、校門の横に立つセーラー服姿の小さな女の子とそのそばに立つ二人の男性をチラリと見ており、私達が近づいていくと、“マスクをつけていない”黒いセミロングの女の子は久寿弥に対してムッとしながら話しかけた。
「久寿弥、私を待たせるなんてどういうつもり?」
「どういうつもりもなにも……別にお前と約束なんてしてないから、怒られるだけの謂われなんてないぞ?」
「そんなのどうでも良いのよ。私がここにいて、アンタが私を待たせた事。そこだけが重要なんだから」
「お前なぁ……」
女の子の勝手な物言いに久寿弥も呆れていたけれど、私達は女の子よりもその隣にいる男性達を見て警戒をしていた。
「この人達って……」
「この前、私達に絡んできて益子さんが呼んだ人達に連れていかれた……!」
そう、二度も私達に関わり、最終的にはネイキッドの思想に染め上げられた人達だったのだ。ただ、私達がいても同じようにマスクをつけていないその二人はまったく反応を見せずに女の子にばかり視線を向けていて、その視線も友愛や親愛というよりは主従や隷属といった印象を受ける物で、女の子は男性達を見てから私達に視線を向けた。
「ああ、そういえばアンタ達と関わって、益子さんに連れてこられたんだったわね。だいぶ抵抗はしてたみたいだけど、私のところに来た時にはもうこんな風だったし、ちょうどいい奴隷が出来たから、私も満足してるわ。
ストレスがたまったら、コイツらで発散出来るし、自分達がいかに劣ってるかわからせながら私を好きにさせると、よだれと涙を流して感謝しながら二人で腰を振ってくるのよ。ほんと、滑稽すぎて笑っちゃうわ」
「そんな言い方って……!」
「というか、貴女は誰なの?」
「話からすると、君もネイキッドのようだけど……」
私達が警戒心を高めながら聞くと、代わりにため息をついてから久寿弥が答えた。
「なんとなく察したと思うけど、コイツも俺と同じで幹部の子供だ。そしてその名前が、
「根井……?」
「ああ、そうだ。コイツは……」
その後、久寿弥の口から出てきた言葉に私達は驚く事となった。
「『HIDE&SHADE』のマネージャー、根井明人の実妹だよ」
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