幕間

 ゲブ王国での戦闘を終えた日の夜、夕食を終えた光真達四人は食堂の席に着いていた。そこには同じく席に着いているセンセイの姿もあり、センセイは何も言わずに座っている光真達を見回してからにこりと笑った。


「皆さん、本日もお疲れ様でした。クスザ王国に続いてゲブ王国での復讐も終えましたし、残るはあと二つとなります」

「俺が復讐したいリュイ王国と真言が復讐したいビャコ王国か。次は帰ってきた時に相談した通り、ビャコ王国に行こう。そして最後にリュイ王国だ」

「わかったわ。それにしても、ここまでは結構うまく行ったけど、これってあくまでも私達の能力の性能が理由よね? 流石に残り二つの大国も今度は自分達だと思って、何か対策してくるかもしれないし、こっちも復讐を円滑に進めるための作戦が必要じゃない?」

「作戦か……たしかにそうだな。真言の接触隷属と俺の拒絶創造が効かない相手が来た場合、これまでと同じようにとはいかないからな」

「だな。だから、これからは今までよりも魔法や武器の力に頼った方がよさそうだ。一応、武器や魔法を使いながら連携する戦い方も練習してるけど、明日からの五日間の合間にも少し連携の相談はしておこうぜ」

「わかりました。後……せっかくなので、能力の話もしませんか? さっき能力に頼ってばかりじゃいられないという話はしましたけど、最近能力が強化されてるなと思ったので、それを改めて確認しておきたいんです」

「なるほどな。それじゃあ現在の能力の確認をしようと思うけど、二人もそれで良いか?」


 座りながらする光真の問いかけに隣り合って座る敦史と強佳は頷き、光真は頷き返してから話し始めた。


「それじゃ俺からだな。俺の完全複製は三人の能力や魔王達の能力、後は倒してきた王と女王の能力と敦史達のクラスメートが持ってた能力をコピーしてる。

それで、自分で把握してる限りだと、俺の完全複製はただ相手の能力をコピーしてそれを使えるようにするだけじゃなく、コピーしてある能力を他の誰かにも付与出来るようになった。

そして、コピーした能力は自分で使ったり付与した相手が使ったりする事で強化されて、完全複製の強化に伴ってコピーした能力も少し強化されるみたいだ」

「それが本当にズルいのよね……言ってみれば、私達やどこかで捕まえてきた誰かに能力を付与して使わせていれば勝手に自分の強化は進むわけだから、やらないのはわかってるけど、アンタはここでのんびりしたり適当な女捕まえて遊んでても良いのよね」

「それはそうだけど、何もしないなんて俺には出来ないし、怠惰で高慢な仲間なんてお前達も嫌だろ?」

「はい……愛する光真君のお相手ならいつでもどこでもいいですけど、ただ何もせずにふんぞり返ってる光真君の姿は見たくないです……」

「そうだな。そういえば、能力を多くコピーしている事で何か体に変化が起きているといった事はないか? この前のクスザ王国での復讐の際、兵士達と共にあそこの姫や強佳のクラスの女子と何時間も行為をしていてもまったく疲れてる様子は無かったようだが……」

「ああ、たぶんそれは真言の接触隷属の強化によるものなんだろうな。普段から真言とはお互いに接触隷属は掛け合ってたし、お互いに異性の動きを封じたりここに連れてきたりする時にはよく使ってたから、他の能力よりも強化速度が速いんだと思う。な、真言?」

「あ、はい。それじゃあ今度は私が能力についてわかってる事を話しますね」


 そう言って光真と隣り合って座る真言が話を始めた。


「えっと……私の接触隷属なんですが、元々ある異性や一部の同性に劣情や支配欲を感じさせる事や触れたり近づかせたりした相手の事を操れる事はそのままなんですが、完全に支配下に置く前も相手に声を聞かせたり素肌を見せたりする事で能力に掛かっている相手の性欲や劣情を更に高めたり、感じている快感を増やす事が出来るようになったみたいです」

「それは俺自身も体験したし、ゲブ王国での復讐の時に試したんだけど、前よりも確実に真言が欲しいっていう衝動が強くなってて、隠れてた肢体が見えたり耳元に仄かに息を吹き掛けられたりしただけでもすぐに気持ちよくなってたな」

「つまり、これまではただ相手に真言の全てを欲しいと思わせて近づかせたりそれを我慢してる相手に近づいたりして支配するだけだったけど、チラ見せしたり声や息を相手に感じさせるだけで絶頂させて更に相手の行動を制限させる事が出来るわけね」

「はい。後、前よりも自分や支配下に置いた相手の体力が増えていたり回復までが早かったり、それと相手に何度も求めさせられるようになっていたり何時間も行為をしていても疲れや苦しさを感じなかったりしてますし、痛みや苦しみを伴う命令をしても素直に従ってくれるようになりましたよ」

「なんというか……とことん性欲に特化した能力よね、それ。そして光真もコピーして持ってるわけだし、勇者セトが持ってたあらゆる精神的な攻撃から身を守れる精神安定マインドバランサーみたいな能力を持ってる相手以外だったら誰でも簡単に倒せそうね」

「そうなるだろうな。さて、それでは次は俺だな」


 そう言うと、敦史は向かい側に座る光真達と両隣にいる強佳とセンセイを見回してから話を始めた。


「俺の拒絶創造も対象に対して周囲が悪意や殺意を抱くという以前の能力が強化され、対象以外の存在の行動を自分で操作出来たり悪意や殺意の強弱も調整出来るようになったみたいだ」

「前から中々厄介な能力だったけど、それが更に強化されたみたいだな。例えば、対象に対して一人に殴る蹴るの暴行をさせてる時に別の奴にその様子を撮影させるみたいな事も出来るんだよな?」

「そういう事だ。真言の接触隷属のように異性や一部の同性限定というわけではないが、相手を魅了したわけではない事で対象が死ぬと同時に能力は消えてしまうからそこは注意だな」

「だから、すぐに反撃や報復が出来ないように一番周囲が信頼してる相手を対象にして仲間割れさせるのが一番よね。白虎将スウトの時もそうだったけど、自分達が一番信頼してるリーダーや大切にしてる人を自分達の手で傷つけた上に殺してしまったという事実は相手の心を確実にへし折る事に繋がるわけだし」

「言い方は悪いけど、一番陰湿な能力だな。ただ、敦史の武器はボウガンだし、対象に対して悪意や殺意を抱かせる事が出来る範囲も広いみたいだから、物陰に身を潜めた状態で使うみたいな方法が良さそうか」

「そうなる。では最後に、強佳頼んだぞ」

「はいはい」


 ため息混じりで返事をした後、強佳も光真達を見回してから話を始めた。


「私の経験搾取も色々強化されてて、相手の体に触れる事で腕力や魔力といったあらゆる物を奪えるけど、それ以外にも記憶や感情なんかも奪えるようにはなったみたい」

「記憶や感情……?」

「ええ。相手にとって楽しかった思い出や誰かに対して抱いた感情も奪っておけて、それは私の中に結晶のような形でしまわれてるみたいなの。

そして私が返すまでそれは奪ったままだし、私の体に触れる面積が増えれば増える程に一度に奪える量や種類も増やせるから、腕力や魔力を奪いながら相手の記憶や感情も同時に奪うなんて事も出来るわね。もっとも、そこまでやるとしたら手で触れる以上に触れさせないといけないけど……」

「強佳と試した限りでは、強佳を抱き締めたりそのまま行為に及ぶ事で一度に五種類以上は……」

「敦史、そこまで言わなくてもいいの! とにかく私があらゆる魔法を使える分、それで相手の行動を封じてる内に素早く弱体化を狙うみたいな事も出来るようになったわ。その代わり、相手からの反撃だけは注意しないといけないけど……」

「けど、相手の中で一番強い奴を早めに始末出来るかもしれないし、真言と敦史じゃどうにもならない相手でも問題ないのは助かるな。さてと……これで全員の能力の再確認が終わったな」

「そうですね。恐らくこれからも強化は進むと思いますし、気づいた事があったら情報共有はした方が良さそうです」

「ああ。みんな、俺達の復讐の完遂も残り二つになった。色々大変かもしれないけど、残りの二つも完膚なきまでに叩きのめして、俺達の復讐を終わらせよう」


 光真の言葉に三人が頷き、四人が静かにやる気を高める中、センセイは何も言わずにその光景を見ていたが、その目には冷たい光が宿っていた。

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