十九日目 地下室の悲劇
「もう何がどうなってるんだよ……」
ゲブ王国の城内にある一室。そこでは二人の少年少女の姿があり、少年がベッドの上に座りながら頭を抱える中で近くに置かれた椅子に座る少女は心配そうに少年を見つめていた。
「クラスのみんなもどんどんいなくなってる上に地下室では王子が酷い有り様で死んでいた。それなのに侵入者らしき人の姿は見当たらないなんて……これじゃあどうしようもないよね」
「ああ……あの時、廊下から聞こえた物音がやっぱり侵入者が立てた物で、それをちゃんと怪しんで調査していればこんな事には……」
「けど、あの時は廊下に誰もいなかったよ?」
「可能性があるとすれば、姿が透明になる能力を持ってるとかワープする能力があるとかだろうな。それで俺達が様子を見に来る前に姿を……」
「もしそうだとしたら、私達はどうしようもないんじゃ……だって今残ってるのはもう私達だけで私は動物に姿を変える能力で君は体を武器に変える能力だし……」
「わかってるよ! わかってるからこうして悩んでるんだろ!? それくらい察せよ!」
少年が顔を上げてから苛立ちを露にしていると、少女はとても傷ついた顔をし、少年もすぐにハッとしたが、少女は涙を流しながら何も言わずに部屋を出ていった。
少年は自分が止める間もなく少女が行ってしまった事で悲しそうにドアを見つめる事しか出来ず、怒りと悔しさを感じながら拳を握り、ベッドを強く叩いた。
「くそっ……あんな風に言うつもりはなかったし、今は喧嘩なんてしてる場合じゃないのに……!」
悔しさを滲ませながら少年はしばらく室内で俯いていた。そして数分後、時間が経った事で気持ちが落ち着いた少年はふぅと息をついてから静かに立ち上がった。
「……謝りに行こう。このままじゃ絶対に良くないし、まずは謝ってその後に二人で考えよう。そうだ、今はどうにもならなくてもちゃんと考えたら何か浮かぶかもしれない」
少年は希望に満ちた目で呟く。そして部屋を出ると、いなくなってしまった少女を探して異様に静かな城内を探し始めた。しかし、およそ一時間程探すも少女は中々見当たらず、焦りの色が浮かぶ少年が最後に辿り着いたのは地下室に繋がる扉だった。
「後はここか……でも、もしかしたら入れ違いになったかもしれないし、ここにいなかったら部屋に戻ってみよう。そして戻ってたら謝った後にもう離さないように抱き締めて、その後に相談をするんだ」
少年はドアを開けて中へと進み、松明の明かりしかない階段をゆっくりと降り始める。少年が階段を降りる小さな高い音と呼吸の息づかいだけが聞こえる中、少年は期待を胸に降りていき、地下室から少女らしき人物の泣き声のような物が聞こえ始めると、少年は微笑んで嬉しさを露にした。
「よかった、ここにいるみたいだ。でも、ただ泣いてるにしては少し変な感じだな……」
疑問を感じながら少年は進むと、次第に聞こえてくる泣き声のような物に少々艶っぽい物が混じっている事に気づき始め、その表情は最悪の事態を想像した物に変わる。
そして焦りを感じながら急いで歩を進め、少年は地下室のドアをこっそり開ける。すると、そこには少年にとって一番望んでいなかった光景が広がっていた。
「あ、あぁ……!!」
先程まで自分のそばにいて、これまで笑いあったり愛し合ってきたりした少女はうっとりとしながらあられもない姿で中央に置かれたキングサイズのベッドの上にいた。
しかし、ただいたわけではなく、地下室には他にも拐われずに残されていた兵士達の姿もあった。兵士達は日頃の訓練で鍛え上げて普段は鎧や下着などで隠している肉体を露にし、己の中にある欲望を少女の若い肉体にぶつけたり少女の白く綺麗な手や小さな口が快楽へ導いてくる中で身を震わせていた。
「ははっ、見ろよ。コイツ、いつもはあのガキの前でしかこんな顔しないのに、俺達に好き勝手されてこんなに悦んでるぜ」
「はあ、はあ……ほんとだな。おい、もっと俺達のために尽くせよ。いつもお前達の安全を守ってやってるんだから、そのくらいは出来るだろ?」
「ぷはっ……はい、もちろんでひゅ……私、兵士の皆さんの事が大好きですし、皆さんにいーっぱい喜んで欲しいですから……」
口元や晒された胸部を白く染めながら妖しい笑みを浮かべる少女の姿に少年はこれまで感じた事のない妖艶さを感じ、自分の想い人が兵士達に弄ばれていると知りながらもその少女の姿に己の中の欲望が首をもたげるのを感じていた。
「な、なんだよあれ……どうしてアイツがあんな事を──」
「……なら、直接聞けば良いだろう」
「え……」
背後から聞こえてきた声に驚いている内に少年は背中を強く押され、そのまま地下室の中へと倒れ込んだ。その音に少女は倒れながらも自分を見る少年に視線を向けるもそれは一瞬の出来事であり、その後は関心を向けずに再び兵士達へ愛を与え始めた。
「お、おい……止めろよ、止めてくれよ……!」
「これが自分の中の怒りをぶつけてしまった結果だ、委員長」
「お前……い、猪狩じゃないか!?」
「久しぶりだな。お前達が送り出してくれたお陰で極寒の中で装備無しという中々出来ない体験が出来たぞ」
「ど、どうしてお前がここに……まさかこの状況はお前の仕業なのか!?」
「俺ともう一人がやった事だ。だが、そうやって地面にへばりついている場合か?」
「な、何を言って──」
その時、少年の体は銀色の鉄靴によって強く踏まれ、その力によって少年の骨が軋み、押さえつけられる苦しみで少年が呻き声を上げる中、鎧を身に付けた数名の兵士達が少年の周りに現れた。
「え……こ、これは……」
「見ての通り、ここの兵士達だ。だが、兵士達はお前への悪意と殺意に満ちているから早く逃げないとそのまま無残に殺されるぞ?」
「さ、殺意って……俺はそんな物を向けられるような事は何も……!」
「してきたんだろう? お前と副委員長だけはいつも暖かい部屋で寛ぎながら寝床で睦みあい、他の奴や兵士達に寒い中の見回りを命じたりそこまで広くない部屋を数名で使わせたりしていた。それなら恨みを買っても仕方ないと思うが?」
「そ、そんな事は……!」
「……ここまで来てもまだ反省の色は無しか。それなら、そのまま死んでもらうとしよう。愛する相手が快楽の中で他の男に弄ばれる様を見ながらもそれを止められずに苦痛を感じながらな」
その言葉と同時に少年を囲んでいた兵士達は目をぎらつかせながら剣や槍を持ち、それに少年は恐怖と絶望を感じた。そして槍は少年の手や足を次々に突き刺して肌を突き破りながら骨を砕き始め、剣は無防備な背中を幾度も斬りつけて流れる血で赤く染め始めた。
少年は抵抗出来ない中で痛みに悲鳴を上げ、苦しさと悔しさを感じながらも再び少女に視線を向ける。しかし、全身の素肌を晒していた少女はその少年の姿には興味すら抱かずに自身は肉欲に支配された兵士達に幾度も抱かれ、その想い人の変わり果てた姿に少年は涙を流し、やがて目は光を失った。
そして地下室に少女の嬌声と少年から流れる血の匂いが満ちていく中、それを眺めている敦史の後ろには光真が現れる。
「よう、敦史」
「……光真か。計画は問題なく終わるぞ」
「そうみたいだな。それにしても、そいつが怒ってその子を泣かせたのは本当にラッキーだったな。そうじゃなくても別の方法で連れ出してたけど、そのお陰で兵士達に渡す前にその子の体も楽しめたし、俺としてはだいぶよかったぜ」
「また真言がやきもちを焼きそうだがな。さて……委員長が死に、副委員長が快楽の渦に飲み込まれた後、兵士達も始末して後は能力と力を回収するぞ。その後は明日の事について話し合いをしないといけないからな」
「ああ、そうだな」
光真が笑いながら答える中、地下室は地獄の様相を呈しており、愛し合っていたはずの男女の悲劇はしばらくの間続いていた。
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