幕間
深夜、拠点の廊下を光真が一人で歩いていた。ジャージのズボンだけを履いた半裸の状態で肩にタオルを掛けていた光真がほんのりとついた明かりの下を上機嫌そうに歩いていると、反対側からセンセイが静かに歩いてくるのが見え、それに気づいた光真はセンセイに話しかけた。
「あ、センセイ。もしかして夜の見回り中だったか?」
「おや、対田さん。はい、その通りです。ここへ私達の許可なく侵入してくる事が出来る人はいませんが、それでも何かあっては困りますからね。対田さんは……そのご様子だとシャワーを浴びてきた帰りですか?」
「ああ。さっきまで真言と一緒にいて汗もかいたし、真言が寝てる内にちょっと浴びてこようと思ったんだ。着替えは部屋に置きっぱなしにしちゃってたから、ズボンだけしか履いてないけどな」
「そうでしたか。そういえば、食満さんの様子はあれからどうですか? 無事に復讐は達成出来たようですが、少々浮かない顔をされていたので少し気になっていたのです」
「……ああ、強佳はクスザ王国の王様とお姫様の関係が羨ましかったみたいだから、それでだいぶ精神的に辛くなってたみたいだ。でも、敦史が一緒にいるし、さっきも二人で楽しんでる声は部屋から聞こえてたから、とりあえず敦史に任せておけば大丈夫だろ。俺らの中だと一番敦史が強佳の事をわかってるはずだし、何かあったら敦史も相談に来るだろうしな」
光真が微笑みながら答えていると、センセイは小さく首を傾げながら光真に話しかけた。
「対田さんは一色さんと一緒にいる事が多く、猪狩さんは食満さんと一緒にいる事が多いですが、食満さんに対して一色さんと同じ事をしたいといった欲求は無いのですか?」
「強佳とか……敦史から強佳との夜の話は聞いてるし、実際に体験したらどんなもんかなとは思うよ。でも、俺にとって強佳はそういう事をする対象というかは同じ目的のために協力する仲間って感じだし、強佳には敦史がいるからアイツらはアイツら同士のままで俺は良いと思う。それに、一番のお気に入りは真言だけど、真言の接触隷属や赤雀姫スウの心操幻惑もあるから、それを使えば別に他の女には困らないしな」
「なるほど。英雄色を好むといった言葉もありますが、対田さんはまさにそのタイプのようですね。もっとも、私達は世界から見れば英雄というよりは平和を脅かす反逆者なのですが」
「そうだな……でも、俺達を殺そうとしたりただの召し使いみたいに扱おうとしたりしてきたアイツらの事は絶対に許してはおけない。だから、次の敦史の復讐もしっかりと果たさないと……」
拳を軽く握りながら言う光真の顔は怒りと憎しみに溢れており、その姿にセンセイは少々妖しげな笑みを浮かべた。
「復讐のためにやる気を出すのはとても良い事です。それと、皆さんが征服してきたクスザ王国の王城とここを繋げるゲートを先程作ってきましたので、好きな時に王城も皆さんの好きなように変えてきて下さいね。
まだまだ国民やクスザ王国の元についていた小国達は混乱していて、他の三国にもクスザ王国が何者かによって陥落したという話は広まっていますが、王城も皆さんにとっては拠点の一つとして扱って大丈夫ですから」
「わかった。今日は強佳の事もあったからすぐに帰ってきたけど、真言と敦史も色々興味あるところはあったようだし、他のところを攻める中の息抜きとして色々見てみるかな。
あ、そうだ……センセイにちょっと聞きたい事があるんだけど、俺達の能力の強化ってどういう理由で起きるんだ? 強佳の
「皆さんの能力は何度も使う事や皆さん自身の成長に応じて少しずつその力を増していきます。そして、一定の度合いを超えた時に能力は進化し、新たな力を得たりこれまでよりも強い力になったりします。
そして、対田さんの場合は皆さんの能力も完全複製によって得ていて、完全複製の強化によって能力の付与が出来ますし、対田さん自身や付与をした相手が同じように使い続けたり対田さん自身が成長したりする事でそれらも少しずつ強化されていきますし、完全複製が強化される度に他の能力達も少しだけその恩恵を受けます。
なので、対田さんは新たに得た能力の付与を使いながらもご自身でも能力を使っていくのが成長への近道だと思いますよ」
「誰かに使わせても成長に繋がるのか……真言達の能力もチート能力ではあるけど、完全複製ってやっぱりそれらよりも更にチートなんだな」
光真が自身の手を見ながら呟く中、センセイは微笑みながら静かに口を開く。
「早い話が誰かに一時的に使わせたその利子を対田さんが受け取っているような物ですからね。そして、能力を誰かに付与したとしてもそれが消失するわけでもなく、同時に複数人に付与する事も出来ます。なので、積極的に一色さん達にも能力を付与して、その利子を貰うのもありだと思います。その分、対田さんが完全複製で得た能力や完全複製自体の強化も早くなりますから」
「なるほどな……たしかに早めに強化出来たら、次にどんな事が起こるかもわかるし、真言達の能力の強化の際の助けにもなりそうだ。ありがとな、センセイ」
「どういたしまして。また何か質問がありましたら遠慮なく来てくださいね? 私でよければ色々お答えしますから」
「ああ、わかった。それじゃあ俺もそろそろ行くよ、センセイ。真言も起きてるかもしれないしな」
「わかりました。それではおやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
センセイと別れて光真は再び歩き始めたが、不意に立ち止まって背後を振り返ると、闇の中へと消えていくセンセイの姿を静かに見つめた。
「……センセイ、か。正直、向こうの世界の担任はそんなに好きじゃなかったし、そもそも教師って奴があまり好きじゃなかった。でも、センセイは自分の目的があったとしてもちゃんと俺達の事をサポートしてくれるし、こうして比較的自由な生活も与えてくれてる。
だから、少し怪しいところがあっても今はセンセイとも一緒に歩むしかないよな。時々見せる冷たい目や底知れない何かはだいぶ怖いし、強佳と敦史は怪しんで見てるようだけど、俺が信用出来るのはアイツらとセンセイくらいだし、今はセンセイとも一緒に行きながら全員の復讐を果たそう」
決意に満ちた目で独り言ちた後、光真はそのまま自室へ向けて歩いていき、ドアを開けた後に聞こえてきた真言の嬉しそうな甘えた声に笑いながら頷いた後、そのまま静かに部屋のドアを閉めた。
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