十四日目 女を支配せし王

 クスザ王国の城内の中心、玉座の間には屈強な体格をした落ち着いた雰囲気の男性の姿があった。その男性はこのクスザ王国の国王であり、城内からは国王以外の人々は姿を消していたが、王は至って焦ること無く堂々と玉座に座っていた。

そして玉座の間の扉が開くと、強佳を先頭にして四人が警戒しながら静かに入り、その姿を見た王は余裕そうな笑みを浮かべた。


「来たか。まさか力無き者がこの国を落としに来るとは思わなかったぞ」

「……そりゃそうよね。それで、他の連中は?」

「ひとまず近くの洞窟に向かわせた。奴らの中に勇者の素質を持つ者はおらず、お前達に勝てる者もいなかったようだからな。下手に戦力を奪われるのは賢いやり方ではないのだ」

「それで、アンタだけで待ち構えてたのか。だけど、アンタだけで勝てるのか?」

「私達の力を把握しているとしても、対策までは出来ないはず。まさか勝てないとわかっているから、抵抗せずに私達に負けるために残っていたんですか?」


 光真と真言がそれぞれの武器を構える中で王は静かに笑う。


「俺は王だぞ? 何も出来ずに敗北するなど決してあり得ん。そして、この玉座の間に入った時点でお前達の敗けは確定してるのだ」

「何を言って……!?」


 その瞬間、真言と強佳は膝から崩れ落ち、その姿に光真と敦史は驚いた。


「お、おい!」

「お前達、大丈夫か?」

「だ、大丈夫ですが……あ、あの人がすごく魅力的に見えてきて、体もすごく火照って……」

「こ、この感じって……まさかアイツに魅了されてるって事?」


 真言の息が荒くなり、強佳が膝をガクガクと震わせる中、王はニヤリと笑った。


「これが俺の力、女神支配ゴッデスキャプチャーだ。俺が指定した範囲にいるすべての女は俺の虜になり、俺を求めて止まなくなる。そして俺を手に入れるためなら、どのような事でも拒まなくなるのだ」

「どのような事でも……?」

「そうだ。俺が命令すれば盗みも殺しも平気でする上に一度かかれば何かしらの方法で解除するか俺が死ぬまでは永続的にかかる。つまり、たとえ俺がその女を抱こうともそれは消えず、俺は永久にその女を自分の元に置けるのだ」

「……世の中の男の大半が欲しがりそうな能力だな。だけど、男である俺と敦史にはそれは効かない」

「光真の言う通りだ。お前を早く倒し、その後に解除をすれば……!」

「そうだが、お前達に出来るのか? お前達が攻撃をするなら、俺はそこの女共に命じて盾にさせる。仲間を殺してまで俺を殺すだけの覚悟がお前達にはあるのか?」


 王に挑発的な笑みに光真と敦史は何も言えずに悔しそうな様子を見せる。その中で強佳はふらふらとしながら王へと近づき、その姿に真言は顔を赤くしながら声をかけた。


「きょ、強佳ちゃん……?」

「……もう、らめ……くち、回らなくなるほ、ど……がまん、出来ない……」

「強佳……」


 強佳の姿に敦史がショックを隠しきれずにいると、王は勝ち誇ったように笑い始めた。


「くははっ! そうだ、俺だけを選べ。俺こそが王の中の王。すべての女をこの手に収め、この世界さえも手に入れるのはこの俺だけなのだから!」


 勝利を確信し、強佳が自分の物になる瞬間を王は静かに待った。そして、赤い顔で甘い吐息を漏らしながら目の前でモジモジとする強佳に王が手を伸ばした瞬間、強佳の拳は目にも止まらぬ速さで動き、そのまま王の胸部を勢いよく貫いた。


「がはっ……!?」

「……バーカ、誰がアンタみたいな男の手に落ちるかっての」


 そう言いながら強佳は冷たい目で見ながら手を引き抜くと、赤く染まった手からはボトリボトリと血が垂れ、王は玉座から崩れ落ちながら信じられない様子で強佳を見上げた。


「な、何故……」

「……正直、何も対策してなかったら、アンタの術中にハマって全滅してたわ。けど、他の奴らから力を奪いながらこの国の事を調べていた時に魔王の四天王の赤雀姫スウとアンタが描かれた絵を見つけてたの。アンタ、もしかしてアイツの兄貴なんじゃない?」

「……なるほど。数日前からアイツの消息がわからなくなったと思っていたが、お前達がアイツを倒していたのか」

「その様子だと当たりみたいね。そうなると、持っている能力だって似ている可能性はあった。だから、ここに来る前に光真に頼んである能力を貸してもらったのよ。私から見た一番の王様に匿われていた女の子が持っていた精神系の能力に対して無敵になる能力をね」

「……くくっ、まだまだ小娘でありながらこの俺を騙してみせたわけか。能力を無効にしながらももう一人の様子から能力の詳細を把握し、それに近い反応を示す事であたかもかかっていたかのように見せかけ……」

「そういう事。光真達に言ってたら、その反応からこの作戦がバレると思って何も言わなかったのがだいぶ効いたみたいね」


 驚きながらもホッとしている光真達を見ながら強佳が勝ち誇っていると、王は貫かれた胸部から大量の血を流しながらもどこか満足げな顔をしていた。


「まさか無力だと思っていた者、それも女にしてやられこのまま命の灯を消す事になるとは思わなかったが、これもまた一興だな。向こうには妹や娘もいるのだろう?」

「ええ。力と能力を奪った後、協力させた兵士は普通に殺したけど、仕方ないからあの子は出来る限り痛くないように殺してあげたわ。もっとも、アンタの妹と同じであの光真に好き勝手弄ばれた後だけど」

「ふん……男ならば良い女を味わいたくなるのは道理だ。それに、勇者の素質もない奴らに娘を奪われるくらいならば、力を持つその小僧の方がまだよい。

他の小僧共にも娘以外の女ならば好きにさせ、使えぬ男共は暇潰しの玩具や男娼として適当に処理したが、それは娘に相応しい男がいなかったからに過ぎんからな」

「そう。それじゃあアンタの力と能力もしっかりと頂いて、避難させてる奴らも後々始末させてもらうわね」

「好きにするが良い。俺が死んだ以上、この国も終わりであり、奴らも後ろ楯を無くす。そうなれば、他の国に逃げる事すらも中々出来んだろうからな」

「そうね。それじゃあさようなら、王様。向こうで妹や娘、後は王として優れてたアイツに王として必要な事を学ばせてもらいなさい」

「……そうするか。ではな、お前達。力を持ち、余多を支配する可能性を持ちし者達よ」


 その言葉を最後に王は絶命し、光真達は頷きあった後に王へと近づき、能力から解放されたばかりの真言を敦史が支える中で光真と強佳はそれぞれ王の亡骸から力と能力を手に入れていたが、亡骸を見つめる強佳の表情はどこか哀しげだった。

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